キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
前回に引き続き、労働環境の整備についてお話しします。労働環境とは、会社で働く従業員を取り巻く環境のことです。事業者には、従業員の健康や安全を守るため、労働環境を整える義務があります。「労働安全衛生法第3条の1」に、以下のように記されています。「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」労働環境の整備は、従業員の定着や生産性の向上など企業の利益アップにつながるため非常に重要です。
良質な労働環境の確保
長時間労働の是正等に向けた取組み
■時間外労働の上限
2018(平成30)年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」という。)により改正された労働基準法において、罰則付きで時間外労働の上限規制が規定されました。大企業には2019(平成31)年4月1日から、中小企業には2020(令和2)年4月1日からそれぞれ適用され、適用が猶予されてきた工作物の建設の事業、自動車の運転の業務、医業に従事する医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業についても、2024(令和6)年4月1日から適用が開始されました。
■過重労働解消に向けた取組みの促進
厚生労働省では、省を挙げて長時間労働対策に取り組んでおり、長時間労働の是正については、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等、長時間労働があると考えられる事業場に対して監督指導を行っています。
特に、毎年11月には、「過重労働解消キャンペーン」を実施し、長時間労働の抑制、過重労働による健康障害の防止、労働時間管理の適正化等を重点とする監督指導や全国一斉の無料電話相談などの取組みを行っています。
過労死等の防止のための対策については、「過労死等防止対策推進法」(平成26年法律第100号)及び「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2024(令和6)年8月2日閣議決定)に基づく取組みを実施しています。特に、毎年11月の過労死等防止啓発月間を中心に「過労死等防止対策推進シンポジウム」を開催するとともに、ポスター等の掲出など重点的な啓発活動を行っています。また、2024年4月から、一定期間内に複数の過労死等を発生させた企業に対しては、企業の本社を管轄する都道府県労働局長から「過労死等の防止に向けた改善計画」の策定を求め、同計画に基づく取組みを企業全体に定着させるための助言・指導(過労死等防止計画指導)を実施しています。
さらに、厚生労働省では、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入促進など、労働時間等の設定の改善に向けた労使の自主的な取組みを促進しています。具体的には、
・各企業に対し、「労働時間等見直しガイドライン」の周知・啓発
・生産性を高めながら労働時間の削減等に取り組む中小企業等に対する「働き方改革推進支援助成金」の支給
・都道府県労働局に配置する「働き方・休み方改善コンサルタント」等による個々の企業に対する支援の実施
・「働き方・休み方改善ポータルサイト」を活用した情報発信の実施
・10月の年次有給休暇取得促進期間に加え、連続休暇を取得しやすい夏季、年末年始及びゴールデンウィークに集中的な周知・啓発の実施
・業種別の勤務間インターバル制度導入マニュアルや制度導入を支援するための動画の作成・周知、及びシンポジウムの開催
などの取組みを行っています。
■自動車運転者の長時間労働の抑制
自動車運転者は、他の産業の労働者に比べて長時間労働の実態にあることから、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下「改善基準告示」という。)において、全ての産業に適用される労働基準法では規制が難しい拘束時間(始業から終業までの時間)、休息期間(勤務と勤務の間の自由な時間)及び運転時間等の基準を設け、労働条件の改善を図ってきました。
自動車の運転の業務については、働き方改革関連法において、2024(令和6)年4月1日から時間外労働の上限規制が適用され、臨時的な特別の事情がある場合の時間外労働時間の限度は年960時間となっていますが、将来的には時間外労働の上限規制の一般則の適用を目指す旨の規定が設けられています。
また、同上限規制に併せて拘束時間や休息期間等について改正された改善基準告示が適用されています。
特に、トラック運転者については、長時間労働の要因として、長時間の荷待ちなどの荷主との取引慣行上の課題が挙げられ、個々の運送事業者の努力だけでは長時間労働の是正を図ることが困難であることから、労働基準監督署が発着荷主等に対して、長時間の恒常的な荷待ち時間を発生させないこと等についての要請等を行うほか、関係省庁と連携して、荷待ち時間の短縮に向けた取組みへの協力を呼びかけるなどして、こうした課題の改善が図られるよう取り組んでいます。
■医療従事者の勤務環境の改善に向けた取組みの推進
国民が将来にわたり質の高い医療サービスを受けるためには、長時間労働や当直、夜間・交替制勤務など厳しい勤務環境にある医療従事者が健康で安心して働ける環境の整備が喫緊の課題です。
このような中で、2014(平成26)年10月の改正医療法の施行により、各医療機関はPDCAサイクルを活用して計画的に医療従事者の勤務環境の改善に取り組む仕組み(医療勤務環境改善マネジメントシステム)を導入すること、各都道府県は医療従事者の勤務環境の改善を促進するための拠点としての機能(医療勤務環境改善支援センター)を確保すること等とされ、2017(平成29)年3月までに全ての都道府県において医療勤務環境改善支援センターが設置されました。
また、同法の規定に基づき、「医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針」(平成26年厚生労働省告示第376号)を定め、この指針に規定する手引書を「医療分野の『雇用の質』向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(改訂版)」(2018(平成30)年3月)として作成し、医療機関が医療従事者の勤務環境の改善のための具体的な措置を講じるに当たっての参考とするとともに、各都道府県においてはこれらを活用して医療勤務環境改善支援センターの運営等の取組みが進められています。
医業に従事する医師については、2024(令和6)年4月から時間外・休日労働の上限規制が適用されており、原則として年960時間以内/月100時間未満となっていますが、地域医療の確保や集中的に技能を向上させるために必要な研修実施の観点から、やむを得ず長時間労働となる医師については、医療機関が医療機関勤務環境評価センターによる労務管理体制等についての評価を受け、特定地域医療提供機関(B水準対象機関)、連携型関)又は特定高度技能研修機関(C-2水準対象機関)として都道府県知事の指定を受けた医療機関(特定労務管理対象機関)において、追加的健康確保措置(面接指導、勤務間インターバル等)の実施を義務とした上で、時間外・休日労働は年1,860時間以内/月100時間未満となっています。
なお、上限規制の遵守のためには、医療機関における適正な労務管理と労働時間短縮に向けた取組み(医師以外の医療関係職種への業務のタスク・シフト/シェアやICTの活用等)を推進する必要があり、引き続き、医療勤務環境改善支援センターによる支援を実施しています。
また、タスク・シフト/シェアについては、現行制度で実施可能な業務を整理・明確化するとともに、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士及び救急救命士の業務範囲について「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第49号)等において必要な法令改正を行い、これらの内容の周知を行っています。
労働条件の確保改善
全ての労働者が適法な労働条件の下で安心して働くことができるよう、事業主等の法令遵守に対する意識をより一層高めていくことが必要です。
このため、労働基準監督署において法定労働条件の履行確保を図るための監督指導等を行うとともに、申告・相談がなされた場合には、申告・相談者が置かれている状況に十分配慮し、その解決のため迅速かつ的確な対応を図っています。また、企業倒産、事業場閉鎖等の場合であっても、賃金不払等が発生しないようにするため、賃金・退職金の支払、社内預金の保全等についても早い段階から的確な対応を行っています。
また、労働基準監督署の閉庁時間に労働相談を受け付ける「労働条件相談ほっとライン」の設置や、労働条件ポータルサイト「確かめよう 労働条件」の運営等により、相談体制の充実、労働基準法等に関する情報発信の強化を図っています。
■労働時間に関する法定基準等の遵守
労働基準監督署では、時間外労働・休日労働に関する労使協定について、労働基準法等の法令及び「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」に適合したものとなるよう、指導を行っています。
また、
①2016(平成28)年4月から、
・月100時間超の残業を把握した全ての事業場等に対する監督指導の徹底(2015(平成27)年1月から実施)について、月80時間超の残業を把握した全ての事業場等に対象を拡大
・東京労働局及び大阪労働局に設置していた複数の労働局にまたがる過重労働に係る事案等に対応する特別チーム(通称「かとく」、2015年4月に設置)に加え、全ての都道府県労働局に長時間労働に関する監督指導等を専門とする担当官を新たに任命するとともに、厚生労働省本省に過重労働に関する広域捜査の指導調整を行う対策班(2017(平成29)年4月からは「過重労働特別対策室」)を設置
②2016年12月に決定された「『過労死等ゼロ』緊急対策」に基づき、2017年1月から、
・使用者向けの新たな「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」による労働時間の適正把握の徹底
・長時間労働等に係る企業本社に対する指導
・企業名公表制度(違法な長時間労働が複数の事業場で行われた企業について、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発する等の観点から、都道府県労働局長が企業の経営トップに対し指導し、その企業名を公表する制度)の強化
③ 2018(平成30)年4月から、全ての労働基準監督署において、「労働時間改善指導・援助チーム」を編成し、
・長時間労働の是正及び過重労働による健康障害の防止を重点とした監督指導
・「労働時間相談・支援コーナー」を設置し、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でないと考えられる中小規模の事業場に対して、法制度の周知を中心としたきめ細やかな支援などの取組みを順次実施しています。
さらに、賃金不払残業の解消を図るためには、各企業において労働時間を適正に把握する必要があることから、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を幅広く周知するとともに的確な指導を実施しています。
■経済情勢を踏まえた労働基準行政等の対応
いかなる経済情勢の下においても、全ての労働者が安心して働くことができるように、労働基準法等で定める法定労働条件は確保されなければならない。
このため、労働基準監督署では、各種情報から法定労働条件の遵守の状況に問題があると考えられる事業場に対して監督指導を実施し、労働基準関係法令を遵守するよう指導するとともに、企業倒産等に伴い賃金の支払を受けられないまま退職した労働者の救済を図るため、未払賃金立替払制度により迅速かつ適正な立替払を実施しています。
賃金不払が疑われる事業場に対しては、迅速かつ的確に監督指導を実施するとともに、度重なる指導にもかかわらず法令違反を是正しないなど、重大又は悪質な事案に対しては厳正に対処しています。
2023(令和5)年中に全国の労働基準監督署の指導により、賃金が支払われ、解決された件数は20,845件であり、対象労働者数は17万4,809人、支払われた賃金の合計額は約92億8千万円となっています。
2019(平成31)年1月には、裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業に対する指導の実施及び企業名の公表の仕組みを定め、裁量労働制の適正な運用を図っています。
また、解雇や雇止め、労働条件の引下げ等については、「労働契約法」(平成19年法律第128号)や裁判例等に照らして、適切な取扱いが行われることが重要であり、大量整理解雇等が行われているおそれがある場合には、都道府県労働局において、適切な労務管理がなされるよう啓発指導を行っています。
なお、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金の活用等について周知を行っています。
■学生アルバイト等若年者への周知・啓発・教育
学生アルバイト等若年者が働く上でのトラブルを未然に防ぐために、特に多くの新入学生がアルバイトを始める4月から7月にかけて学生等へのアルバイトの労働条件の確認を促すことを目的として、文部科学省と連携し事業主や学生、大学等へ周知・啓発用リーフレット等の配布や、都道府県労働局や労働基準監督署の職員が大学等への出張相談等の取組みを行うキャンペーンを実施しています。
また、高等学校、大学等において学生等が労働関係法令に関する基礎知識を正しく学ぶことができるよう、労働法教育のための指導者用資料の作成や、高等学校、大学等でのセミナーの開催等を行っています。
■労働者性が問題となる事案への対応
働き方が多様化し、フリーランスとしての新しい働き方が拡大する一方で、フリーランスとして働く人の中には、実態として労働基準法上の労働者に該当するような働き方をしているにもかかわらず、名目上は自営業者として扱われ、労働基準法等に基づく保護が受けられていないといった問題が指摘されています。
このため、フリーランス・事業者間取引適正化等法の施行に合わせて、2024(令和6)年11月に全国の労働基準監督署に「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を設置し、自らの働き方が労働者に該当する可能性があると考えるフリーランスからの相談に対応しています。
(つづく)Y.H
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書