キャリアコンサルタントの皆様方にためになる情報をお伝えします。
引き続き、医療のイノベーション推進についてお話しします。イノベーションとは、全く新しい技術や考え方を取り入れて、新しい価値を生み出し、大きな変化を起こすことをいいます。近年医療業界においてもイノベーションが強く求められています。その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。
医療関連産業の活性化
革新的な医薬品・医療機器等の創出
■医薬品産業の競争力強化
医薬品産業を取り巻く環境の変化等を踏まえ、厚生労働省では2021(令和3)年9月13日に「医薬品ビジョン2021」を策定しました。当ビジョンにおいては、「革新的創薬」、「後発医薬品」、「医薬品流通」を3本の柱として、「経済安全保障」の視点を加えた産業政策を展開していくこととしています。
また、厚生労働省では、日本の医療水準の維持及び向上のために必要な「革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市」、「医薬品の安定供給」を確保する観点から、現状の課題を踏まえ、流通や薬価制度、産業構造の検証などの幅広い議論を行うため、2022(令和4)年8月に有識者検討会を立ち上げました。本検討会における2023(令和5)年6月の報告を踏まえ、各会議体において様々な施策の検討を進めています。さらに、医療用医薬品等の安定供給体制の強化や、より活発な創薬が行われる環境の整備等の措置を講ずるため、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」を第217回国会に提出しました。
2024(令和6)年度税制改正では、研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間による無形資産投資を後押しすることを目的として、国内で自ら研究開発した特許権とAI関連のプログラムの著作物から生じるライセンス所得と譲渡所得に対して30%を所得控除する「イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)」を創設することとしました。2025(令和7)年4月に施行し、医薬品産業においても、本税制の積極的な活用が期待されます。
また、少子高齢社会の中で限りある医療資源を有効活用するとともに、国民の健康づくりを促進する観点から、セルフメディケーション(自主服薬)を推進することが重要です。そのための税制上のインセンティブとして、予防・健康づくり等に取り組んでいる者が、特定の一般用医薬品を購入した場合に、一定の金額の所得控除を認める「セルフメディケーション税制」を設けています。現行の制度は、2026(令和8)年12月に期限を迎える予定です。そこで、セルフメディケーション税制のあり方等を検討すること等を目的に2025年1月に「セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」を立ち上げたところであり、引き続き本制度の利便性向上や国民への普及啓発に取り組んでいきます。
■創薬力の強化
医療用医薬品の売上額世界上位の品目のうち日本起源のものが減少し、日本起源の品目の世界市場におけるシェア(売上高)についても低下するなど、我が国の創薬力に関する課題が指摘されています。創薬力の強化に向けては、アカデミア、スタートアップ、投資題が指摘されています。創薬力の強化に向けては、アカデミア、スタートアップ、投資家、製薬企業、政府などが相互に協力して創薬に取り組む「エコシステム」を構築することが重要です。政府としては、2023(令和5)年12月に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を立ち上げ、我が国の医薬品産業の国際競争力の低下といった課題への対応を含めて議論を行い、2024(令和6)年5月に中間とりまとめを行いました。また、創薬エコシステムの強化に向けた政府のコミットメントを内外に宣言し、官民が協力して継続的に連携してエコシステムの発展に取り組むことを確認することを目的とし、2024年7月に「創薬エコシステムサミット」を開催しました。2025(令和7)年度には、創薬エコシステム育成施策の方針等について、企業のニーズも踏まえて議論を行い検討するため、官民協議会の設置を予定しています。
また、我が国において、アカデミア等で発見された優れたシーズの実用化を促進するために、医薬品・医療機器・再生医療等製品の研究開発・実用化を目指すベンチャーを育てる好循環(ベンチャーのエコシステム)の確立を図ることが課題となっています。
このため、厚生労働大臣の私的懇談会として「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」を開催し、2016(平成28)年7月29日に報告書が示されました。
この報告書の提言等に基づき、厚生労働省では「ベンチャー等支援戦略室」を医政局に設置し、医療系ベンチャーを育てるエコシステムの確立に向けて、「エコシステムを醸成する制度づくり」、「エコシステムを構成する人材の育成と交流の場づくり」、「『オール厚労省』でのベンチャー支援体制の構築」を「3つの柱」とした取組みを行っています。
2017(平成29)年から毎年10月には、ベンチャーと大手企業やベンチャーキャピタル等とのビジネスマッチングに資するイベント「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」をパシフィコ横浜にて開催しています。また、2018(平成30)年2月にはベンチャーやアカデミア等に対する相談体制を整備し、法規制対応、知財、事業計画、海外展開等のプロセスを各分野の専門家が総合的に支援する「医療系ベンチャートータルサポート事業」を開始し、Web サイトの開設及び日本橋にオフィス(Medical Innovation Support Office:MEDISO)を構えました。2018年2月の立ち上げ以降、2024年12月31日までに1, 607件の相談に対応しており、MEDISOの更なる活用も含め、今後も長期的視野に立った実効力のある支援策を講じていくこととしています。
また、ヘルスケア領域においては、2024年2月に発足した「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム」において、各領域の最前線で活躍する有識者の方々とともに、ヘルスケア領域におけるスタートアップの立場に立って振興・支援策を検討し、各ヘルスケア市場の特性を踏まえた最適な振興・支援アプローチを選択する観点から議論を重ね、2024年6月に最終とりまとめを行いました。
■臨床研究・治験環境の整備
革新的な医薬品・医療機器の創出のためには、臨床研究・治験の推進が不可欠です。厚生労働省では、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院を2015(成27)年4月から、臨床研究中核病院(2025(令和7)年4月1日現在、15病院)として医療法に位置づけています。臨床研究中核病院は、質の高い臨床研究・治験を自ら実施するだけでなく、他施設における臨床研究・治験の計画立案や実施について支援するAcademic Research Organization(ARO)機能を有することから、ARO機能を活用し多くのエビデンスを構築することで、我が国における様々な革新的医療技術の創出を推進しています。
厚生労働省としては、2019(令和元)年に取りまとめられた「臨床研究・治験の推進に関する今後の方向性について」を踏まえ、更なる臨床研究・治験の推進のため、小児疾病・難病等の研究開発が進みにくい領域の取組み等を進めています。
また、引き続き、臨床研究中核病院を中心に、研究者が国際共同臨床研究・治験を円滑に実施するための体制構築や、臨床研究従事者等の養成を行うなど、国内における臨床研究環境の更なる向上を目指しています。なお、これらの事業については、国民の健康寿命の延伸の観点から、医療分野の研究開発を政府として総合的に推進するため、2015年4月に設立された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)において、文部科学省で整備している橋渡し研究支援機関と一体的に整備を進め、革新的な医薬品・医療機器の創出を加速することとしている。
さらに、疾患登録システムを市場調査や患者リクルート、治験の外部対照群、製造販売後調査等に活用して、効率的な治験が実施できる環境を整備することにより、企業等による医薬品・医療機器等の研究開発を加速し、新薬等の早期開発により国民の健康寿命を延伸するため、国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)や学会等が構築する疾患登録システムをはじめとする全国のレジストリの利活用を促進する「クリニカル・イノベーション・ネットワーク」の取組みを推進しています。
■臨床研究に対する信頼性確保への取組み
2013(平成25)年以降、臨床研究においてデータの操作や利益相反行為という複数の不正事案が発覚したことを契機に、厚生労働省では、研究の信頼性確保のため、2015(平成27)年4月、従来の研究倫理指針にモニタリング・監査等に関する規定を新設した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号)を施行した(2021(令和3)年6月より医学系指針とゲノム指針は生命・医学系指針に統合されています。
また、未承認・適応外の医薬品等の評価を行う臨床研究を実施する場合の必要な手続き、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の義務等を定めた「臨床研究法」(平成29年法律第16号)を2018(平成30)年4月から施行しました。同法の附則に基づき、施行後5年に係る見直しの検討を2021年1月から開始し、2022(令和4)年6月に公表した「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」を踏まえ、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律及び臨床研究法の一部を改正する法律案」を第213回国会に提出し成立、2025(令和7)年5月末から施行しました。臨床研究法に規定する臨床研究については、実施計画等を厚生労働省が整備するデータベース(jRCT)に記録し、公表することが定められています。また、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行に伴い、2020(令和2)年9月から治験の実施状況等についても公表が義務づけられたことを受け、治験の実施状況等についてもjRCTにおいて公表しています。さらに、jRCT及び民間のデータベースに登録された臨床研究等のデータは「臨床研究情報ポータルサイト」(Web上に公開)において統合検索が可能であり、国民・患者は、現在どのような臨床研究等が進行しているか、自身が検索した臨床研究等に参加できるかどうか等を確認することができます。
■医薬品・医療機器・再生医療等製品の承認審査の迅速化等
医薬品等の承認審査の迅速化に向けては、これまでも独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の体制強化を図ってきています。
しかしながら、我が国の医薬品産業については、近年、創薬における国際的な競争力の低下、後発品を中心とする安定供給への不安、欧米では承認されている医薬品が日本では開発・申請されないドラッグロスの拡大等、様々な課題が指摘されています。薬事規制の在り方についても、小児用・希少疾病用医薬品を中心とするドラッグロス問題の解消に向けて、希少疾病用医薬品の指定の早期化、小児用医薬品の開発計画策定の促進等に対応するため2023(令和5)年7月から2024(令和6)年3月にかけて、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」を開催し、薬事規制に関する様々な事項について検討を行いました。その検討結果を基に、次のような対応を行っています。
①希少疾病用医薬品の指定要件の運用見直し
②成人用の開発時に企業が小児用医薬品の開発計画を策定しPMDAが確認する仕組みの導入
③海外で臨床開発が先行した医薬品の国際共同治験開始前の日本人第Ⅰ相試験実施を原則不要とする取扱い
等について、新たな運用を着実に実施するとともに、2024年度には、日本人患者を対象とした臨床試験成績がなくとも承認申請を行うことが可能である場合の考え方を整理したほか、品質に及ぼす影響が中等度リスクの事項を変更する場合等、承認事項変更の円滑な手続きを可能とする仕組みを試行的に導入するなどの取組みを進めています。
また、これらの運用を着実に実施する観点を含め、2024年度からのPMDAの第5期中期目標期間においては、患者ニーズの高い希少疾病用医薬品及び小児用医薬品等に対する実用化の支援や、有望なシーズを持つ海外ベンチャー等の国内開発に向けた対応を強化するとともに、審査業務の一層の質の向上、高度化に取り組むことを通じて、国民が、世界最先端の医薬品、医療機器、再生医療等製品等の恩恵をより早く受けることができるよう、新たな中期計画を定め、更なる体制強化を行うこととしています。2024年11月には、PMDA初のアメリカ拠点としてPMDAワシントンD.C.事務所を設立し、アメリカ行政機関との薬事規制協力を強化するとともに、在米のスタートアップ・ベンチャー企業に対する日本の薬事規制に関する迅速な情報提供を行っています。
■緊急承認制度の導入
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を踏まえ、緊急時に新たな医薬品等を速やかに薬事承認する新たな仕組みが必要として、2022(令和4)年5月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第47号)の施行により、「緊急承認制度」が創設されました。本制度は、緊急時に、安全性の確認を前提に、医薬品等の有効性が推定されたときに、条件や期限付きの承認を与えることができる仕組みであり、2022年11月には、新型コロナウイルス感染症に対する国産の抗ウイルス薬について適用されました。
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書
(つづく)Y.H