実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_韓国_障害者政策、公衆衛生政策

投稿日:2024年4月9日 更新日:

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の障害者政策、公衆衛生政策についてお伝えします。

近年、日本の会社は製造業を中心に海外進出を急速に進めています。すでに進出のピークは過ぎていると思われますが、キャリアコンサルタントが海外進出の日本企業で働く人と接触する機会はどんどん増加しています。私は2000年以降5回韓国を訪問していますが、年々産業界の競争力が上がっていることに驚きをもっています。

【障害者政策】
(1)障害者政策総合計画
2018年、「障害者の自立生活ができる包容社会(Inclusive Society)」をビジョンとして、“福祉・健康支援体系改編”、“教育・体育・文化の機会の保障”、“経済的自立基盤の強化”、“権益と安全の強化”及び“社会参加活性化”の5分野を選定し、全政府的かつ総合的な「第五次障害者政策総合計画」(2018~2022)を策定し実施しています。登録障害者数の2021年末時点は265万人です。2018年に至るまで、障害者の完全な社会参加と平等を通じた社会統合を基本目標として、これまでに四次にわたり障害者福祉発展5か年計画を策定・推進してきています。

(2)障害等級制の廃止
2019年、障害等級制7等級は廃止するとともに、新たな制度においては、「障害程度が深刻な障害者」と「深刻でない障害者」2つに区分し、障害者各々の要望・環境を把握するための「サービス支援総合実態調査」の実施を行い、障害者サービスの支援水準を決定するようになっています。

(3)障害者年金、障害手当
障害者年金は、労働能力の喪失又は著しい減少による所得の減少を補填する目的で支給されています。虐待被害児童とその家族、児童虐待行為者を対象とした相談やアフターケア等を行う児童保護専門機関を順次拡大しています。

障害者政策
イ 障害者政策総合計画
障害者の完全な社会参加と平等を通じた社会統合を基本目標として、これまでに四次にわたり障害者福祉発展5か年計画(一次:1998~2002、二次:2003~2007、三次:2008~2012、四次:2013~2017)を策定・推進してきた。2018年からは、「障害者の自立生活ができる包容社会(Inclusive Society)」をビジョンとして、“福祉・健康支援体系改編”、“教育・体育・文化の機会の保障”、“経済的自立基盤の強化”、“権益と安全の強化”及び“社会参加活性化”の5分野、22重点課題、70の細部課題を選定し、全政府的かつ総合的な「第五次障害者政策総合計画」(2018~2022)を策定し実施している。なお、2021年末時点の登録障害者数は264.5万人である。

ロ 障害等級制の廃止
1988年より障害等級制が導入され、これまで障害者支援の基準となってきたが、公的サービスや障害者個々の要望等が多様化する中、医学的判定に基づく等級のみでサービス提供が判断されることに対し批判が高まっていた。これを受け、障害者福祉法を改正し、2019年に等級制を廃止するとともに、新たな制度においては、「障害程度が深刻な障害者」(従来の障害等級1~3級)と「深刻でない障害者」(従来の4~6級)に区分し、障害者各々の要望・環境を把握するための「サービス支援総合実態調査」の実施を行い、障害者サービスの支援水準を決定するようにしている。

ハ 障害者年金、障害手当
2010年「障害者年金法」が施行され、重度障害者(従来の障害等級1~2級及び3級の重複障害者が対象)に対して障害者年金を支給している。対象は、18歳以上で、重度障害者の本人と配偶者の所得・財産を合算した所得認定額が選定基準(配偶者がいない障害者122万ウォン、配偶者がいる障害者195.2万ウォン(2022年時点))以下の者に支給される。労働能力の喪失又は著しい減少による所得の減少を補填する目的で支給される基礎給付(最大月額30万7,500ウォン)と、障害により、追加でかかる費用を補填する目的で支給される追加給付(月額2~38万7,500ウォン)からなる(2022年時点)。また、「障害者福祉法」に基づき満18歳以上の重度障害者に該当しない者(従来の障害等級3〜6級の者)で国民基礎生活保障受給者等に対して月2~4万ウォンの障害手当を支給している。

(出典)厚生労働省 001105071.pdf (mhlw.go.jp)

【公衆衛生政策】
(1)公衆衛生管理法に基づく管理
公衆を対象に衛生管理サービスを提供する営業として、宿泊業、浴場業、理容業、美容業、クリーニング業及び建物衛生管理業について規定しています。公衆衛生営業を営む場合は、種類別に保健福祉部令に定める施設及び設備を備えて市長・区庁長等に申告しなければならないこととなっています。

(2)健康増進
地域の保健所において、各々の健康上の課題を分析、財政配分の優先順位を設定し、禁煙、肥満、女性・子供・障害者・認知症高齢者に特化した管理、口腔保健等様々な健康増進サービスを提供する地域社会主導の事業を展開しています。たばこの喫煙については、未成年者の購入を防止するため小売業者に身分証明書の確認義務を課し、自動販売機の成人認証装置設置などを制度化しています。現在のたばこ喫煙率の目標は、成人男性で29%です。

(3)医療施設
一次機関として約3万の医院、約1.4千の病院、二次機関として300の総合病院、三次機関として45の上級総合病院があります。また、各地方自治体に設置されている243の保健所があります。

(4)医療従事者
韓国で法で定められている医療従事者の種類には、「医療法」に規定された医師、歯科医師、韓方医、看護師及び助産師をはじめ、「薬剤師法」に規定された薬剤師、「医療技師等に関する法律」に規定された医療技師等があります。

【最近の動向】
(1)年金改革
2022年、年金財政の持続性強化を目的として「年金改革」が打ち出されました。現行制度を維持する場合、積立金は2042年から収支赤字による取り崩しが発生し、2057年に完全に消失する見込みが出され、国民年金改革案が計画されています。

(2)健康保険改革
健康保険財政は、高齢化による生産年齢人口の減少と、医療費の割合が高い高齢層の増加等を要因として、積立金は2029年に全額使い果たされ、2040年には累積赤字が70兆円に達するとの推算がなされています。健康保険財政の枯渇を防ぎ、持続可能性を高めることを目的として、2022年には「健康保険改革」が重要課題として位置づけられ、過多な補償や過剰診療が要因であるとされており、高額医療の再評価や過剰医療利用者の管理強化等が行われていくと思われます。

(3)新型コロナウイルス感染症の主な対策
2022年9月、全ての措置が解除され、屋内外にかかわらず、他者と接触する可能性がある場合でもマスクの着用義務も全面解除されました。
2021年末以降、次のような対応に変わりました。
①症状がなくとも無料でPCR検査を受検できる体制を整えている。
②感染者の動向をGPS等で追跡管理している。
③飲食店等の施設利用時に電子出入り名簿等の活用を義務付け感染者の接触者を把握している。
④感染者は原則として無症状者・軽症者も含めた施設隔離を行うことは順次、変更又は廃止されている。

入国に当たっての規制については、2022年6月、ワクチン接種の有無に関係なく、全入国者に対して隔離義務を免除しているます。国内の行動制限として、社会的距離の確保(ソーシャル・ディスタンス)が実施されていましたが、対応は順次緩和されました。
(以上)
平林良人

-実践編・応用編

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