実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_中国_労働条件対策

投稿日:2024年4月17日 更新日:

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は中国の社会保障について、新型コロナについてお伝えします。

■労働条件対策
1.賃金・労働時間および労働災害の動向
(1)賃金
2021年における都市部非私営企業の年平均賃金は106,837元で、対前年上昇率は9.7%、都市部私営企業はそれぞれ、62,884元、8.9%でした。近年、私営企業と非私営企業の平均賃金の伸び率の乖離は小さくなりつつあります。

・都市部企業の年平均賃金および消費者物価上昇率の推移
地域別の賃金増加率については、非私営・私営ともに東部地域が最も高いのですが、最も低い地域は、非私営にあっては東北、私営にあっては西部となっています。

・地域別賃金格差
業種別の賃金格差は非常に大きく、非私営企業では、賃金の高い情報通信/IT関連業と、賃金の低い農林・牧畜・水産業とでは、3.74倍の格差があり、私営企業では、2.77倍の格差があります。

(2)労働時間
2019年の都市部労働者の週労働時間は、46.8時間となっています。

(3)労働災害
2021年の労働災害による死亡者数(非生産部門除く)は26,307人で、前年に比べ減少しました。

2.最低賃金制度
国が定めた最低賃金規定(2004年施行)に基づき実施されており、31の省、自治区および直轄市(北京、天津、上海、重慶)の地域単位で最低賃金額が決定されています。最低賃金基準は少なくとも2年に1度調整するよう義務づけられていますが、景気の減速を受けて広東省などのように少なくとも3年に1度の調整に改めることを通達等で明記する動きも出ています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年に最低賃金引上げを行った地域はわずか3地域でしたが、2021年では「共同富裕」の指導方針の下、最低賃金の引上げの動きが活発化し、北京市、上海市、広東省、天津市など22の地域(省・直轄市・自治区)が改定を行いました。

3.労働時間制度
法定労働時間は1日8時間、週40時間とされています。時間外労働は、事業主が生産経営の必要により、労働組合および労働者と協議を経た後、原則1日に1時間を超えない範囲で認められます。特別な事情により、労働時間の延長がさらに必要な場合には、労働者の身体健康を保障するとの条件で、1日3時間を超えない範囲で延長することができます。ただし、その場合にも1か月の時間外労働が36時間を超えてはなりません。時間外労働に対しては、割増賃金の支払いが義務づけられています。平日の労働時間を延長した場合は、賃金の150%を下回らない金額、休息日の労働で代休を与えられない場合は、賃金の200%を下回らない金額、法定休暇日の労働の場合は、賃金の300%を下回らない金額となっています。

なお、労働時間の超過が許される場合は以下のとおりです。
① 自然災害、事故またはその他の原因により、労働者の生命、健康と財産の安全を脅 かされ、緊急の処理を必要とする場合。
② 生産設備、交通輸送線路、公共施設に故障が発生し、生産と公衆の利益に影響し、 早急に対応をしなければならない場合。
③ 法律、行政法規に規定するその他の事由がある場合。

4.休暇制度
労働者は、週に最低1日休みを取ることができ、累計勤続年数が1年以上の労働者には年次有給休暇が付与されます。累計勤続年数が1年以上10年未満の場合、有給休暇は5日間、10年以上20年未満の場合、10日間、20年以上の場合は15日間となっています。女性労働者の出産休暇は通常の出産の場合は98日間となっており、そのうち産前休暇は15日間です。また、難産の場合は、出産休暇を15日間加算することができ、双子以上の場合は1人につき出産休暇が15日間加算されます。

5.固定期間労働契約(有期労働契約)
会社と労働者は双方の合意により、固定期間労働契約(有期労働契約)を締結することができ、勤続10年以上となる労働者や、2008年1月1日以降において固定期間労働契約を2回以上締結したなどの要件を満たしている場合には、労働者が固定期間労働契約を求める場合を除き、使用者は無固定期間労働契約(無期労働契約)を締結しなければなりません。なお、労働契約期間の上限には法令に明確な定めはなく、業種や業務内容により職場ごとに決定することとされています。

労務派遣(労働者派遣)制度
イ 労務派遣制度の主な内容
労務派遣とは、労務派遣機関(派遣元)と派遣労働者の間で労働契約を、労務派遣機関と派遣先企業との間で労務派遣協議を締結し、労務派遣機関から派遣先企業に派遣労働者を派遣し、派遣労働者が、派遣先企業において業務に従事することをいう。なお、労務派遣事業を行うには、地方人力資源・社会保障部門の許可が必要である。

ロ 派遣可能な業務職位
労働契約による雇用が企業の基本的な雇用形式であり、労務派遣雇用は補完的な形式として、臨時性、補助性または代替性のある業務職位でのみ実施できる。臨時性業務職位とは存続期間が6か月を超えない職位を、補助性業務職位とは主要業務を行う職位にサービスを提供する非主要業務を行う職位を、代替性業務職位とは派遣先企業の労働者が現場から離れて研修を受ける、休暇を取得する等の理由から業務に従事できない一定期間内において他の労働者により代替可能な業務職位をいう。

ハ 派遣労働者の雇用比率
派遣先企業は労務派遣による雇用数を厳格に抑制し、雇用総数の一定比率を超えてはならない。派遣先企業が使用する派遣労働者の人数は、全労働者(派遣先企業が労働契約を締結する労働者の人数と使用する派遣労働者の人数の和)の10%を超えてはならない。

ニ 同一労働同一賃金
派遣労働者は、派遣先企業の労働者と同一労働同一賃金の権利を享受し、派遣先企業は、同一労働同一賃金の原則に基づき、派遣労働者に対して、派遣先企業の同種の職位にある労働者と同一の労働報酬分配方式を実施しなければならない。派遣先企業に同種の職位にある労働者がいない場合、派遣先企業所在地の同一または類似する職務の労働者の労働報酬を参照して確定する。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■労働安全衛生
主に、安全生産法、職業病防治法、鉱山安全法の3つの法律により規定されており、安全生産法は、製造業を始めとした様々な企業や産業における災害の予防と減少、従業員の安全や健康の確保、さらには国民の生命や財産を守るための基本法と位置付けられるものです。2021年に行われた3度目の改正では、安全管理に対し責任を負う者の範囲の拡大、リスク程度に応じた対策の実施とリスクアセスメントからなる二重予防体制の整備、メンタルヘルス対策の義務化、安全生産責任保険の加入義務化などのほか、違反に対する罰則が大幅に厳格化されています。職業病防治法は、職業病(粉じん、放射性物質その他の有害な要因にさらされることによって生じる疾病)を予防、制御、排除し、労働者の健康および権益を保護すること等を目的としています。また、鉱山安全法は、鉱山生産の安全確保や鉱山事故の防止による鉱山労働者の人身保護等を目的としています。

■労災保険制度
労働災害保険条例に基づき、労災事故や通勤災害に遭遇した労働者や職業病を患った労働者の医療費、リハビリ費用に対し一定の補助を行っている。保険料は、事業主負担のみとなり、労働者負担はない。労災として認定を受けた場合、発生する医療費や補償金などは、労災保険によって給付されるが、治療期間中の賃金や福利厚生等は事業主が支給する。

■解雇規制
法定の解雇事由に該当する場合には、労働関係を解消することができる。即時解雇の場合を除き、解雇する場合は経済補償金を支払わなければならない。妊娠、出産、授乳期間にある女性労働者や当該企業に連続満15年以上勤務し、定年退職年齢まで5年未満の労働者などは予告解雇や整理解雇の対象にはできない。

イ 個人的理由に基づく解雇(普通解雇)
(イ)即時解雇(過失性解雇)
労働者が下記①~⑥のいずれかに該当する場合は、即時解雇できる。
①試用期間中に採用条件を満たさないことが明らかになった場合
②使用者の規則制度に著しく違反した場合
③職責を著しく懈怠し、私利を図り不正行為をなし、使用者に重大な損害をもたらした場合
④労働者が同時に他の使用者と労働関係を形成し、本使用者の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたか、またはそれを使用者が指摘しても是正を拒否した場合
⑤詐欺、脅迫の手段または危機に乗じて、相手側に真実の意思に背く状況下において労働契約を締結または変更させた場合
⑥法により刑事責任を追及された場合

(ロ)予告解雇
予告解雇は下記の状況のいずれかがある場合、使用者が30日前までに書面により労働者本人に通知するか、1か月分の賃金を余分に支払った後、労働契約を終了させるものである。
①業務外の傷病により治療期間満了後も、元の業務事業主が再配置した業務に従事できない場合
②労働者が業務を全うできないことが証明され、訓練や職務の調整後も業務に堪えることができない場合
③労働契約締結時に根拠とした客観的な状況に重大な変化が生じ、労働契約を履行できず、当事者が協議によって労働契約変更の合意ができない場合

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■経済的理由に基づく解雇(整理解雇)
企業がその経営状況等に下記の一定の事由が存在する場合には、一度に20人以上または20人未満であっても労働者全体の10%以上の労働者を解雇することができますが、使用者は30日前までに労働組合または全労働者に対して状況を説明し、意見を聴取して理解を得た後に、整理解雇の案を労働行政管理部門に報告しなければならなりません。

①企業破産法の規定によって再生を行う場合
②生産、経営が極めて困難になった場合
③企業の製品転換、重大な技術革新または経営方式の変更により、労働契約変更をしてもなお人員削減の必要がある場合
④その他、労働契約の締結時における客観的経済状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能になった場合

整理解雇を行う際は、①比較的長期間の固定期間労働契約を締結している労働者、②無固定期間労働契約を締結している労働者、③家庭内に他に就業者がおらず、高齢者または未成年者の被扶養者がいる労働者、を優先的に継続して雇用しなければなりません。整理解雇により人員削減を行い、6か月以内に新たに人員を募集・雇用する場合、整理解雇で削減された人員に通知するとともに、優先的に削減された人員を雇用しなければなりません。

■経済補償金
労働契約法では、労働契約法施行(2008年1月1日)後の勤続年数1年ごとに賃金の1か月分を支給することとされており、勤続年数が6か月以上1年未満の場合は1年として計算し、6か月未満の場合には賃金の半月分を支給するとされています。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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