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医療のイノベーション推進についての最終回です。イノベーションとは、全く新しい技術や考え方を取り入れて、新しい価値を生み出し、大きな変化を起こすことをいいます。近年医療業界においてもイノベーションが強く求められています。その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。
■再生・細胞医療・遺伝子治療の実用化の推進
再生・細胞医療・遺伝子治療(以下「再生医療等」という。)は、これまで有効な治療法のなかった疾患の治療ができるようになるなど、国民の期待が高い一方、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供する必要があります。
このため、再生医療等製品については、2014(平成26)年11月に改正施行した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の下、再生医療の特性を踏まえた規制を行うこととしており、これまで19製品が承認されています。また、同法改正と併せて、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(平成25年法律第85号)が施行され、再生医療等のリスクに応じた提供基準と計画の届出等や細胞培養加工施設の基準と許可等の手続き、細胞培養加工の外部委託を可能とすること等を定めています。
同法の附則において、施行後5年以内に、法の規定に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされており、2019(令和元)年7月から検討を開始し、2022(令和4)年6月に公表した「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」を踏まえ、人の体内に直接遺伝子を導入する治療方法(in vivo遺伝子治療)等を新たに法の適用対象とすることや、認定再生医療等委員会の設置者に対する立入検査規定の創設等を内容とする「再生医療等の安全性の確保等に関する法律及び臨床研究法の一部を改正する法律案」を第213回国会に提出し成立、2025(令和7)年5月末から施行されます。
また、関係省庁と連携し、基礎研究から臨床段階まで切れ目なく一貫した研究開発助成を行い、臨床研究やiPS細胞を用いた創薬研究に対する支援など、再生医療等の実用化を推進する取組みを実施しています。
さらに2016(平成28)年から、再生医療等の実用化をさらに推進するため、日本再生医療学会を中心としたナショナルコンソーシアムを構築し、再生医療等の臨床研究に係る技術支援や人材育成などを行う取組みも実施しているほか、2024(令和6)年から、革新性が高い再生医療等のシーズを有しAMED研究事業に採択された研究テーマを対象に、PMDAに新たに設置する「再生医療等製品インタープレター」を通じて、臨床研究から治験を経て薬事申請に至るまで適切な助言・相談等に係る伴走型の支援等を実施しています。
■医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画
医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画(医療機器基本計画)は、2014(平成26)年に成立した「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律」(医療機器促進法)に基づき、我が国の医療の質の向上のため、医療機器政策に特化し、各段階に応じた関係省庁の各種施策を網羅した政府として初めての基本計画です。
その後、医療機器産業を取り巻く環境が変化していること等を踏まえ、プログラム医療機器の研究開発の促進や医療機器の安定供給といった新たな論点を取り入れ、第二期医療機器基本計画として、2022(令和4)年5月31日に改定されました。第二期医療機器基本計画においては、①医療機器の研究開発の中心地としての我が国の地位の確立、②革新的な医療機器が世界に先駆けて我が国に上市される魅力的な環境の構築、③国民に必要な医療機器へのアクセシビリティの確保を基本方針として定めるとともに、医療機器関係者が取り組むべき事項について定めています。
■医薬品の安定供給・後発医薬品産業の構造改革
昨今、医薬品の安定供給については、後述する後発医薬品産業における少量多品目生産といった産業構造上の課題がある中で、後発医薬品企業の薬機法違反を契機とした出荷停止等による供給量の低下や、新型コロナウイルスやインフルエンザ等の感染症の感染拡大による需要の増加を受け、特定の医薬品について需給のひっ迫が見られています。
そのため、厚生労働省においては、医薬品の安定供給の確保に向けて、足下の供給不安の解消と、中長期的な後発医薬品産業の構造の改革の双方の観点から取組を進めています。
足下の供給不安への対応として、特に不足が生じているせき止め薬などの感染症対症療法薬については、医療機関等に対し、供給状況に関する情報の公表、買い込みを控えることや長期処方を控えて医師が必要と判断した患者へ最少日数での処方とすることの要請を行いました。さらに、主要メーカーに対しては、他の医薬品の生産ラインからの緊急融通や在庫の放出など、供給増加に向けたあらゆる手段による対応を要請するとともに、補正予算において、製造設備の整備費や人件費を対象として緊急的な補助事業を実施しました。
さらに、2024(令和6)年4月より、製造販売業者から医薬品の供給不足ないしそのおそれが発生した場合に供給不足の未然防止に繋げる観点や収集した情報を医療機関等へ提供する観点から、製品の基本情報や供給不足が生じた理由または供給不足のおそれに関する原因等の報告を求める、「供給状況報告」制度の運用を開始したほか、感染症法に基づき抗菌薬や抗インフルエンザ薬、感染症対症療法薬等の感染症対策物資等について生産量や在庫量、出荷量等の報告徴収を実施しています。
また、昨今の後発医薬品を中心とした医薬品の供給不安については、品質管理に係る違反事案を発端とした供給停止や限定出荷の拡大だけにとどまらず、比較的中小規模の企業が多く生産能力や生産数量が限定的な中で、比較的収益性の高い新規製品の薬価収載を繰り返し、容易に市場から撤退することができないという医薬品特有の事情も相まって、少量多品目生産が広がっていることも要因としてあげられています。そしてそのことが生産の非効率等の問題を招いていること、薬価収載後も総価取引等の流通慣行や価格競争によりさらに価格が下落し低収益構造につながることなどの後発医薬品産業全体の構造的問題が指摘されています。この後発医薬品の産業構造上の課題への対応については、「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」の議論を踏まえ、製造管理・品質管理体制の確保、安定供給能力の確保、持続可能な産業構造を3つの柱とする後発医薬品産業の在るべき姿やそれぞれの柱に対応した対策の方向性について検討を進めています。例えば、持続可能な産業構造の観点から、少量多品目の非効率な生産体制の解消に向けて計画的に生産性向上に取り組む後発医薬品企業を支援するために、2024年度補正予算において、企業間連携等に向けた取組に必要な関係者間の財務・法務上の健全性等の調査費用や品目統合を行い生産効率の向上を図るための機器導入等に係る費用を対象として補助事業を実施しました。
医薬品の安定供給の更なる確保に向けて、2025(令和7)年2月には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」を第217回国会に提出しました。同法案においては、「供給体制管理責任者」の設置といった、製薬企業における安定供給体制の整備を図るとともに、「供給停止時の届出義務の創設」により、迅速に供給不安を把握しつつ、製薬企業に対し増産等の必要な協力要請を行える規定を設けることとしています。加えて、後発医薬品の製造基盤を整備する観点から、新たな基金(後発医薬品製造基盤整備基金)を造成し、後発医薬品の品目統合・事業再編を支援することで、産業全体の生産性の向上を図っていくこととしています。
医療の国際展開等
■医療の国際展開の推進
国民皆保険制度や優れた医薬品、医療機器、医療技術等を誇る日本の医療システムは、世界でも高く評価され、優れた制度です。
多くの新興国では、経済成長の中で、医療へのニーズや持続的なシステム構築への期待が高まっているものの、公的医療保険等の制度や医療システム構築の経験・技術が乏しく、また、人材も不足しています。
そこで、日本が新興国等に対して、各国の実情を十分に踏まえつつ、高品質な日本の医見をいかし、相手国の医療システムの構築に協力することに取り組んでいます。
医療の国際展開を通じて、日本の医療分野の成長を促進しつつ、相手国の医療水準向上にも貢献し、国際社会における日本の信頼を高めることによって、日本にとっても新興国等にとっても好循環となることを目指しています。
なお、医療の国際展開については、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2024」(2024(令和6)年6月21日閣議決定)や 第2期「健康・医療戦略」(2020(令和2)年3月27日閣議決定、2021(令和3)年4月9日一部変更)、「厚生労働省国際保健ビジョン」(2024年8月26日厚生労働省国際戦略推進本部決定)においても位置づけられており、「健康・医療戦略」に掲げるアジア健康構想及びアフリカ健康構想等の下、具体的な取組みを実施しています。
◆厚生労働省と新興国等の保健省との協力関係の構築
厚生労働省としては、医療の国際展開を推進するため、2013(平成25)年に体制を強化し、「『日本再興戦略』改訂2014」(2014(平成26)年6月24日閣議決定)や「健康・医療戦略」等を踏まえ、本格的に取組みを開始しました。
このため、2013年8月以降、厚生労働省と新興国等の保健省との間で、協力関係の構築を進めており、アジア、中東、北中南米等の20を超える国々と、医療・保健分野における協力関係を構築しました。
協力テーマとしては、各国のニーズに合わせて、①日本の経験や知見をいかした相手国の医療・保健分野の政策形成支援や、②医療技術、医薬品・医療機器に関連する人材育成を柱としており、例えば、ベトナムにおける内視鏡診断・治療、モンゴルにおけるICTを活用した救急患者管理能力を向上させる救急患者管理能力強化事業、ケニアにおける日本式の安全・安心なカテーテル治療の技術・医療機器及び教育手法の普及事業等を実施しています。
◆各国との協力関係の実現に向けた取組み
医師等の人材育成や公的医療保険制度整備の支援等といった国際展開に資する協力の具
体化に向け、国立研究開発法人国立国際医療研究センターを拠点として、2015(平成27)年度から、日本の医療政策等に係る有識者等の諸外国への派遣や、諸外国からの研修生の受入れ、オンラインによる研修を実施しています。
◆医薬品・医療機器等の国際規制調和・国際協力の推進
「アジア健康構想に向けた基本方針」(2016(平成28)年7月29日健康・医療戦略推進本部決定、2018(平成30)年7月25日改定)に基づき、健康・医療戦略推進本部は、「アジア医薬品・医療機器規制調和グランドデザイン」(2019(令和元)年6月20日)及び同実行戦略(2020(令和2)年7月14日)を策定しました。この中では、アジア諸国において経済発展や疾患構造の変化により、優れた医薬品・医療機器等に対するニーズが高まっており、アジア諸国の国際規制調和に支援・協力し、垣根のないマーケットを整備することで、医薬品・医療機器等への迅速なアクセスを可能にするよう取り組むことが必要とされています。
同グランドデザインに基づき、2020年度から国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED)を通じて、日本の臨床研究拠点の能力・経験をベースとして、アジア地域の研究拠点への専門家の派遣、人材育成、データ収集及び臨床研究推進部門の整備や、設備整備等の支援を行っています。また、アジア地域における規制調和を推進するのに中核的な役割を担うのが、PMDAに設置された「アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター」です。アジアを中心とする海外の規制当局担当者に医薬品・医療機器の審査や安全対策等に関する研修を実施しており、薬事規制構築に向けた経験・ノウハウを提供することで、将来の規制調和に向けた基盤作りを継続して進めてきています。新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020~2022(令和4)年度はオンライン形式の研修を積極的に開催しましたが、2023(令和5)年度より、研修内容に応じて対面での研修も開催しています。
2016年度から2023年度までに、合計105回のセミナーを開催し、69の国・地域及び1国際機関(WHO)から延べ3,155人の参加者を得ました。今後も引き続き、関係省庁、関係機関と連携しつつ、薬事規制に関する我が国の知見、レギュラトリーサイエンスを、アジアをはじめとする世界に発信して国際規制調和・国際協力を積極的に進めていくことで、ユニバーサルヘルスカバレッジの達成に一層貢献していきます。
■国内における国際化への対応
我が国では、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議)において、2030(令和12)年に6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標として観光先進国の実現を目指しています。このような中、健康・医療戦略推進本部の下に開催された「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググルプ」において、2018(平成30)年6月に「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」が取りまとめられ、現在、関係府省庁が連携して取組みを進めています。
また、2019(平成31)年4月からの新たな外国人材の受入れ制度の開始に伴い、在留外国人が医療を受ける機会の増加が見込まれる中で、上記の取組みは、全ての居住圏において外国人患者が安心して受診できる体制を整備するためにも重要な取組みとなっています。
厚生労働省では、問診票等の多言語資料の作成、医療通訳者等の配置支援、外国人患者受入れ医療コーディネーターの養成、電話通訳の利用促進等を通じて、医療機関における外国人患者の受入れ環境整備の推進を行ってきました。また、地域の実情に応じた外国人患者の受入体制を整備するためには、医療機関に加えて地方自治体、観光事業者・宿泊事業者等が連携する必要があります。このため、都道府県が主体となって地域の関係者が協議を行う場を設ける際の支援、医療機関が直面する外国人患者対応に関する相談を受け付ける窓口の設置・運用の支援を行うとともに、都道府県が選出した「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」を取りまとめたリストを更新し、厚生労働省ホームページ上で公表しています。今後は、当該医療機関を中心として、外国人患者の受入れ環境の更なる充実を目指していく。さらに、医療分野における国際交流の進展等に寄与する観点から、従来、医療研修を目的として来日した外国医師等に対し、日本において診療を行うことを特例的に認めてきた臨床修練制度について、日本の医師等に対する医療の教授や臨床研究を行うことを目的として来日した外国医師・外国歯科医師に対しても、日本において診療を行うことが認められるよう、臨床修練制度を改正し、2014(平成26)年10月から施行されています。
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書
(つづく)Y.H