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基礎編・理論編

傾聴と相互理解の難しさ キャリアコンサルタント養成講座

投稿日:2024年8月16日 更新日:

テクノファは、「組織マネジメントシステム教育」と「人モチベーション教育」の2大テーマを車の両輪のごとく強力に駆動させ、組織経営という車を着実に運転していただけるようになることを念じながら、日頃の研修をさせていただいております。社会に貢献するためには、知ることだけではなく、できること即ち実践できるようになることが重要であると考え、研修の大きな目標を「システムという枠の中に実体を入れる」ことを目指してきました。

市場経済至上主義が行き過ぎた結果、利益追求がすべてに優先する社会になっていますが、新型コロナウイルスの世界的疫病蔓延で、表面的な利益追求でなく本質的な幸福追求に世界の経営が舵を切ろうとしているようです。

すべての組織、あるいは個人でさえ、自身が作り出す「製品及びサービス」が相手に受け入れられ、その製品及びサービスに見合うお返しを頂くことで継続的に存在することができます。組織が継続的に存在していくためには、常に製品及びサービスが相手のニーズと期待に合っていなければなりません。そのためには、組織自身が「常にニーズと期待に合った製品及びサービス」を提供していくことが重要で、その実現の核心にあるのが人の心です。

テクノファは、2004年に厚生労働省からキャリア・カウンセラー能力評価試験機関に指定されました。以来、日本においての第一人者である渡辺三枝子先生、横山哲夫先生ほかの先生方のご指導を頂きながら、「キャリアコンサルタント養成講座」の運営に邁進してきました。私どもは養成講座が終了すると必ずお客様の声を今後に生かすため、アンケートの記入をお願いしております。

アンケートは、講師にとって怖い存在であると同時に楽しい存在でもあって、まさしく正月の福袋のようなものです。そこにはお客様一人一人の素朴な正直な感想が綴られています。中には忙しいのか差しさわりの無い点数と記述欄空白のアンケートもありますが、7割くらいは受講生の方は感じたままのコメントを書いてくださいます。

ある時のアンケートに「講師は私の質問をよく聞いてくれず、質問したことに答えてくれなかった」と書かれていました。このようなコメントはキャリアコンサルタント養成講座ではあまりなく、圧倒的に他の研修コースで見かけるものです。しかし、この時のアンケートは、「傾聴」を何よりも重要だと考える養成講座でのコメントでしたので、私はさらに掘り下げてみたいと思いました。あらゆる組織で伝える側と伝えられる側の相互理解のすれ違いがいろいろな場面で起こっています。人と人のコミュニケーションでは、よく発信側に伝える責任があると言われますが、受信側にも応分の責任があると思います。その受信側の応分な責任が「傾聴」ということだろうと思います。発信側つまり伝える側にコミュニケーションの責任があるという理屈は伝言ゲームを思い出すとよく理解できます。伝える側が明確に内容を把握していない、適切に表現できない、思いだけが先行してすべてを伝えない、これらは皆伝える側の問題です。だからコミュニケーションの理屈では、発信側に伝える責任があると言われるのでしょう。

状況をキャリアコンサルティングの場面に限って考えてみたいと思います。クライアント(相談者)は抱えている問題からのプレッシャーによって、適切に表現できない、思いだけが先行してすべてを伝えられない状況にあることをよく理解しないといけないのでしょう。場合に行っては、クライアントは抱えている問題さえ明確に分かっていない場合もあると考えなければいけないでしょう。この前提に立つと、先ほどの「伝言ゲーム」とは明らかに異なる2者(伝える側と伝えられる側)の役割が浮かび上がってきます。その絵姿は、伝えられる側の色濃い姿です。この場面では、伝言ゲームとは逆に「伝えられる側」が主役です。

傾聴のポイントには次のようなものがあります。
・クライアントを自分の家族の一員と思う。
・クライアントの心にある本音に耳を傾ける。
・話す内容に反応する。
・うなずく、繰り返す、同調する。
・沈黙は間として重要であるが、適切な長さで話に移す。
・否定しない。
・クライアントの話を遮らない。
・自分の意見は言わない。

これらの傾聴要素は、当然のことながら、お互いに影響をし合う全体の雰囲気を構築しますので、相反要素の重さ加減は一概に順序は付けがたいものです。クライアントが自分は受け入れられたと感じることが重要で、このことがあって初めてカウンセリングが成り立つことを考えると、「クライアントを自分の家族の一員と思う」ことが中でも一番大切であると思います。テクノファはキャリアコンサルタント養成に必須な「資格取得後の実務訓練の指導」に大きな特徴をもっております。特にスーパービジョン※を行うことのできるスーパーバイザーが、何名も在籍していることから、個々人に合ったスーパーバイザーから個人指導を受けることが出来ます。

※クライエント理解やクライエントとの関係性理解を助けるもので、指導する者(スーパーバイザー)と、指導を受ける者(スーパーバイジー)との間における訓練方法の一つです。スーパーバイジーが専門家としての資質向上のために心理臨床家から受ける指導を言います。心理面での支援を行う専門家には必須の訓練と言われています。
(平林良人)
(つづく)

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