キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

傾聴とは積極的に聴くこと キャリアコンサルタント養成講座

投稿日:2024年8月18日 更新日:

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。

聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、すなわち傾聴を理解するには、まず「聞くこと」と「聴くこと」の違いを理解しなければなりません。簡単に言えば、「聞く」というのは単に聞こえているということであり、相手に意識を集中させる必要はありません。一方、「聴く」というのは、相手が言わんとすることに耳を傾け、相手の話を理解しようとすることで、相手に意識を集中させることが必要です。聞くという行動は受動的であり、エネルギーをあまり使いませんが、聴くという行動は能動的でかなりエネルギーを必要としますので、かなり疲れる行動です。

誰でも話をするときには、「事実」、「要望」、「感情」という3つの要素を混えながら話をしますので、お互いが今何を主としているかをキャッチすることが必要です。お互いの話が噛み合わない場合は、その3要素のうちのどれかがお互いに認識できず不毛なすれ違いをしていることに気が付く必要があります。話し手の話がよく分からないときは、話し手のメッセージがこの3要素のうちのどれか、あるいは3要素のどれかがわかっても内容が分からないなどいろいろな場合があります。

クライアントを理解する聴き方

 

<クライアントの話を理解するには>
①クライアントの言いたいことに焦点をあて聴く。
・自分の聞きたいことではなく、クライアントが言いたいこと、伝えたいこと、わかってもらいたいことに注目する。
・クライアントの感情・気持ちに注目する

②クライアントが言いたいこと、気持ちを確かめて応答する。
・クライアントの要点を言葉で伝えて確かめる。
・言いたい、伝えたい、わかってもらいたいことは何かを把握する。

相談場面では、クライアントがキャリアコンサルタントを信頼して自分のことを話す気にならなければ、面接は始まりません。そのため、まずは信頼関係を構築しなければなりません。その信頼関係をラポールといいます。相談はラポールの構築から始まります。そのためには、領いたり、あいづちを打ったりすることが効果的です。相手の話をきちんと聴いていなければ、うなずいたり、あいづちを打ったりすることができません。うなずいたり、あいづちを打ったりすることは、相手の話を聴いていることの証しでもあります。

話し手が伝えようとしているメッセージが、話3要素のうちのどれかを正確に理解するために、話の区切りでクライアントが言ったことを確認する方法があります。その際、キャリアコンサルタントがクライアントの言ったことを一言一句そのまま繰り返すことをエコーイング(オウム返し)といい、相手が言ったことを自分のことばに置き換えて返すことをバラフレージングといいます。

パラフレージングをすることにより、キャリアコンサルタントは自分の理解が正しいかどうかを確認することができ、同時にクライアントにとっては、キャリアコンサルタントの言ったことから自分の言ったことが正しく伝わったかどうかを確認することができます。さらには、クライアントにとってはキャリアコンサルタントの表現と違う表現で返してもらうことによって、新たな気づきにつながる可能性もあります。

最後に、山本五十六の語録「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という格言を紹介します。これは傾聴とは違いますが、人と人とのコミュニケーションの本質を説明する言葉として今に至るまで世に伝わる金言です。
(つづく)Y.H

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタントの活動領域

厚生労働省の「キャリアコンサルティング研究会」の「キャリアコンサルタント自身のキャリア形成のあり方部会」の報告書では、キャリアコンサルタントの働く分野に「活動領域」という言葉が使われ、企業領域、需給調整機関領域(就職支援領域)、教育領域、地域領域として分類されています。 キャリアコンサルティングの制度を構築するにあたり想定した活動領域、制度実施後の実際のキャリアコンサルティングの活動領域を、中央職業能力開発協会の熟練検討委員会が整理した、実践フィールドの違いによる熟練レベルのキャリアコンサルタントの特長、中央職業能力開発協会の指導レベルキャリア・コンサルタント制度設計の必要性、労働政策研究・研 …

多様・異質・異能が組織を伸ばす | 横山哲夫著

故横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。 先生には多くの著者がありますが、今回はその中からキャリアコンサルタントの役に立つ「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。 2020 年9月に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」から「人材版伊藤レポート」が公表されました。同報告書は、企業経営者や人事部門の方たちによく読まれています。この報告書が出されてから「 …

CDW(キャリア開発ワークショップ)

CDWは”Career Development Workshop”の略ですが、CDWそのものがカウンセリングプロセスになっており、CDWの中で自己理解を深めていくプロセスを体験していただきます。このプロセスがきちんと確立されて、初めて、他の人たちはどう考えているのだろうかを客観視することができます。多様な考え方がある中で、自分のキャリア観を自己分析し、改めて自分の人生に思いを寄せて自分の仕事人生の位置づけをはっきりさせることができて、他人への視点が出てくるものだと思っています。 自分がカウンセリングするときには、どういった傾向があるのか、どういった思考で聴く癖があるのか、また返答する癖があるの …

アサーションとチェンジ・エージェント

アサーション※については、理論、自己チェック、 演習などから構成されています。この期間で、カウンセリングの基本的な技法である傾聴、及びアサーションについて、その理論的根拠を理解し、スキルを習得していただきます。 ※「アサーション」(assertion)は1950年代にアメリカで、自己主張を苦手とする人を対象としたカウンセリング手法として生まれた。「人は誰でも自分の意見や要求を表明する権利がある」との立場に基づく適切な自己主張のことです。トレーニングを通じて、一方的に自分の意見を押し付けるのでも、我慢するのでもなく、お互いに尊重しながら素直に自己表現ができるようになることを目指す。アサーションを …

うつ病を自覚しないクライエント 2 I テクノファ

前回は本人がうつ病であると自覚して専門医の診断を受けた例を紹介しました。キャリアコンサルタントとしては、ある意味扱いやすい事例だったと思います。しかし、本人もキャリアコンサルタントもうつ病にかかっていることを知らないでいると、コンサルティングで意識せず症状に思わず一歩踏み込んでしまう失敗があります。うつ病は職場の環境や人間関係が引き金になって発症するケースが多いと思いますが、Aさんのようにはっきりとした精神症状を伴わないために、周囲の人も本人もうつ病であることに気付いていないクライアントは数多く存在します。 国内では100人に3~7人の割合でそのようなうつ病が発症していると言われており、一度発 …