実践編・応用編

うつ病を自覚しないクライエント I テクノファ

投稿日:2020年6月22日 更新日:

前回は本人がうつ病であると自覚して専門医の診断を受けた例を紹介しました。キャリアコンサルタントとしては、ある意味扱いやすい事例だったと思います。しかし、本人もキャリアコンサルタントもうつ病にかかっていることを知らないでいると、コンサルティングで意識せず症状に思わず一歩踏み込んでしまう失敗があります。うつ病は職場の環境や人間関係が引き金になって発症するケースが多いと思いますが、Aさんのようにはっきりとした精神症状を伴わないために、周囲の人も本人もうつ病であることに気付いていないクライアントは数多く存在します。

国内では100人に3~7人の割合でそのようなうつ病が発症していると言われており、一度発症すると治るまでに2年~10年、多くの場合4年~5年かかるといわれています。今の世の中のせわしい環境の中では誰が発症しても不思議ではない、また完治するまでに比較的長い期間を要すると言われているうつ病への知識を深めておくことは、キャリアコンサルタントに必要なことです。クライアントのうつ病の兆候を見逃さず、もしクライアントがうつ病であることに気付いた時には、早くケアできるようにまずは治療のために精神科医に引き継ぐことがキャリアコンサルティングには求められています。

しかし、完治するまでの比較的長い期間を、うつ病と診断されたクライアントが社会や仕事と無関係に過ごすことはできません。クライアントにとっては社会とのかかわり合いが必要で、自宅に引きこもること、似たような環境で過ごすことはクライアントにとってマイナスです。医師の判断でクリニックから薬を処方されておらず、医師が「仕事の話」をしても良いと判断をしている場合には、キャリアコンサルタントが、治療と仕事の両立を支援するという、うつ病クライアントとのかかわり会いが求められます。

今回は中堅企業に勤務する40代の男性Aさんについて紹介します。Aさんは30代前半の時に今の会社に営業職として中途採用され、以来営業部署で働いてきました。転職前に勤務していた会社では、今の会社とは異なる製品の営業をしていたそうです。転職しようとした主な動機は、よりやりがいを感じられる仕事がしたいという思いが強かったからだそうです。

中途採用された会社は製造業で、国内外の大手企業ブランドのOEM製品の設計製造を行うメーカーでした。その会社では、それらの顧客企業のブランド製品に組み込まれる部品の設計製造も行っており、商社を介さず顧客と直接取引を行っていました。Aさんによると前の会社と異なるこの取引形態のために、同じ営業でも以前と比べて社内における位置づけや重要度は高く感じられており、Aさんには求めていたやりがいを感じることができる職場のようでした。Aさんは会社の顧客のなかの何社かを担当顧客として割り振られて顧客対応に忙しい毎日を送ることになりました。

この会社の営業の仕事の大まかな内容は次のようなものでした。

・一般的な営業の業務といえる受注から出荷までの管理

・顧客ごとに年に数回行われる新製品発売のための、顧客と自社の開発設計部門を交えた仕様の確認業務

・自社の生産管理部門との新製品あるいは部品の原価の確認と決定業務

・組み立て部門との出荷納期の確認業務

これらの業務は前の会社とは異なる多岐にわたる業務であり、自分に割り当てられた仕事では満足できなかったAさんにとっては望んだとおりの職場といえるところでした。

またAさんは、英語の能力が商談や契約まで可能なレベルにあったため、海外の顧客の担当をまかされることも多くなり、それに伴って海外出張の機会も増え以前にも増して多忙になりました。これらの追加の業務も自分でやりたいと思っていたことであり、希望した仕事が実現できる充実した業務環境を享受しているようでした。

(続く)                                 A.K

-実践編・応用編

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