キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

自己理解と他者理解3 ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

投稿日:2024年4月19日 更新日:

キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。「自己理解と他者理解」について考える第3回目です。
前回は自己理解について触れました。今回は他者理解について考えてみたいと思います。他者と言っても様々な方がいると思いますが、ここでは一例として、「上司」を対象とし、「上司知る」ということについて考察してみたいと思います。まずは、「他者理解」について考えてみます。
他者理解とは、他の人の意見、考え方、視点などについて、どうしてそのようになるのかを対象者(他者)の立場に立って、考え、想像し、理解しようとする心構えであるといえます。まずは自分の考えなどは入れず、自分が対象者の立場ならば、という視点で考えてみると良いかと思います。
「自分が対象者の立場で考えてみる」ということについて、ここでは作家の遠藤周作氏のエッセイを紹介します。

芝居には傍役というものがある。傍役は言うまでもなく、主役のそばにいて主役のためにいる役である。その勤めは主役と共に芝居の運行をつくっていくのだが、また主役を補佐したり、主役をひきたてるためにもある。
「あたり前だ。わかりきったことを言うな」とお叱りにならないでいただきたい。
しかしなぜ私がこんなわかりきったことを書いたかというと、我々は我々自身の人生ではいつも主役のつもりでいるからだ。
たしかにどんな人だってその人の人生という舞台では主役である。そして自分の人生に登場する他人はみなそれぞれの場所で自分の人生の傍役のつもりでいる。だが胸に手をあてて一寸、考えてみると自分の人生では主役の我々も他人の人生では傍役になっている。

たとえばあなたの細君の人生で、あなたは彼女の重要な傍役である。あなたの友人の人生にとって、あなたは決して主人公(ヒーロー)ではない。傍らをつとめる存在なのだ。「あたり前じゃないか。またくだらんことを言うのか」とまたお叱りを受けるかもしれない。
だが人間、悲しいもので、このあたり前のことをつい忘れがちなものだ。たとえば我々は自分の女房の人生のなかでは、傍役である身分を忘れて、まるで主役づらをして振舞ってはいないか。
(中略)
夜、眠れぬ時死んだ友人たちの顔を思い出し、俺はあの男の人生で傍役だったんだな、と考え、いい傍役だったかどうかを考えたりする。
もちろん、女房の人生の傍役としても良かったかどうかをぼんやり思索もしてみる。

遠藤周作 「私は傍役」 (出典:生き上手死に上手)

いかがでしょうか。「他人の人生においては自分は傍役」という視点は、言われてみれば当たり前だと思いますが、つい忘れてしまう視点ではないでしょうか。では、他者(対象者)を上司にして考えてみましょう。まずは上司の位置づけ、自分にとってどういう存在であるかを整理します。

企業等に就職した場合、多くの場合は組織の一員として企業等の目的や目標に沿った仕事を行うことになります。その企業の目的実現、目標達成のため、組織(チーム)のメンバーへ指示、指導をし、方向付けするために存在するのがそのチームのリーダーであり、チームメンバーにとっての上司ということになります。上司は、企業内での活動あるいは時には(間接的に)私生活などにおいても影響力を持つ存在であるといえます。このように影響力を持つ自分の上司を知る、または理解をするということは大変重要なことであると言えるでしょう。

次に、他者である上司を、どのようにして他者理解すればよいか考察してみます。
〇上司の仕事上の行動や日頃の発言を知る。
上司の行動や発言の意図を考えることにより、上司が仕事において興味を抱いている事柄や内容、更にはメンバーに期待する仕事(情報)について、より詳細に理解することができるかもしれません。行動や発言の内容がすぐに結びつくことがなくても、様々なヒントが隠されているはずです。そのためには、まずは上司とのコミュニケーションの機会を増やすとともに、上司の視点に立ち、上司の思考に沿って考えることが重要です。
また、上司の思考の理由や背景について考察することも大切なプロセスです。

〇上司の目的、目標を知る。
上司が組織の中で、どのような目標、成果の責任を担っているかを知ることにより、部下である自身の仕事の方向も定まり達成に向けた作業をすることができます。少なくとも上司の期待とは180度異なることにはならないでしょう。

〇上司の特質(人となり)を知るよう努める。
上司の人となりがわかるようになれば、よりその人に合わせた対応をとることができます。人となりを知るためには上司とのコミュニケーションを積極的にとり、その行動に注意を払ってみることが必要です。上司の長所、短所、向き不向き、得意不得意などを理解できれば、上司が何を望み何を望んでいないかなどが分かり具体的な対応をとることができるようになるでしょう。

〇コミュニケーションをスムーズに行う。
上司とのコミュニケーションについて、その頻度や方法などを考え、スムーズに行うことで信頼関係を構築することができ、より円滑な相互理解につながります。この場合の上司と部下との相互理解により解消できる障壁の具体例は、経験や知識の違い、世代の違い、考え方や価値観の違い、言葉の解釈の違い、ものごとへの捉え方の違い、といったものが挙げられます。コミュニケーションをとる際には傾聴、自己開示などに注意を払う必要があります。

このように、上司を知る(他者理解)ということは、仕事を行う面で非常に重要です。上司(他者)への理解を深め、相互に理解しあうことで、生産性の向上などによりつながりやすくなることでしょう。
(つづく)T.H

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

相談者の面接目標達成ヘルピング技法_キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリング2

ヘルピング技法について(1)かかわり技法(事前段階)(2)応答技法(第1段階)(3)意識化技法(第2段階)を解説してきました。第2段階までに用いられてきた技法は、自己理論、精神分析理論、そして論理療法を伏線としており、ヘルピーが自分の実態「現在地」に気づき、なりたい自分の「目的地」に気づくことをサポートするためのものでした。 これから解説する(4)手ほどき技法は、既に記したように行動療法が伏線になっています(國分康孝1996年「カウンセリングの原理」)。しかしながら、行動療法というと治療的意味合いが強くなってしまうので、これを意識して以下の解説では行動カウンセリングと記します。これは、私たちの …

横山哲夫先生の思想ー人間自由化の具体的展開 8

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は7回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。 横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。 横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずで …

MBO 目標管理2ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

テクノファのキャリアコンサルタントを指導した横山哲夫先生(1926-2019)は、目標による管理と人事考課の統合 についてこう述べています。これからの企業の人材育成の焦点は個立・連帯群の若者だということ。そして、個立・連帯群を惹きつけ、活かし、増やし、伸ばすマネジメントが人材育成のゴールだということ。個立・連帯群が個立指向であると共に組織の現実をわきまえた活私奉公型であることがポイントであると言っています。自分を活かす舞台として、組織のために全力投球できるのは若者達であり、自由化、国際化を底流とする連続初体験の時代に活躍できるのは、個立型ヤングをおいて他にいない。彼らを活かし、ふやし、伸ばすこ …

職業選択の代表的な理論

キャリアカウンセリングの理論は、学者・研究者の立場やアプローチの違い、あるいは歴史的な流れによって分類できますが、分類の仕方が人によって異なります。この点を踏まえつつ、キャリアコンサルタントに必要であると思われる職業選択の代表的な理論を紹介します。 1.マッチング理論 ヴォケーショナル・ガイダンスの創始者ともいわれているF.パー ソンズの理論です。パーソンズはその有名な著書『Choosing A Vocation(職業の選択)』で、合理的な職業選択は、 ①自分の興味や能力や性格などの諸特性を明確に理解し、 ②さまざまな仕事や職業に関する的確な情報や知識を習得し、 ③この2つについての合理的な推 …

傾聴とは積極的に聴くことである 

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。 聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、 …