実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_中国_新型コロナについて

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昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は中国の社会保障について、新型コロナについてお伝えします。

■中国の新型コロナウイルス感染症の状況
~「動的ゼロコロナ」政策の転換~
※本文章は、2022年12月14日現在の状況を基に記載。なお、同月上旬に防疫措置の大幅な調整が行われている。

(1)総論
2022年12月13日までに中国(本土)において報告された新型コロナウイルス感染症の確定症例17は累計367,627例、死亡者は累計5,235例であり、12月13日時点で治療中の確定症例は36,340例、医学観察中の無症状感染者は5,364例である。2022年は、感染のピークは大きく2度あり、特に4月以降、オミクロン株による局地的な市中感染が散発的に発生し、邦人が最も多く住む上海市等では行動制限を伴う防疫措置が執られた。その後は、特に11月以降、北京市等複数の都市において市中感染が発生、同年5月以来となる死亡者が報告されるなど感染が拡大し、11月27日には全国の感染者数が40,052例となり、湖北省武漢市を中心に感染が拡大した2020年2月以来最多の感染者数となった。

「外部からの感染症の流入を防ぎ、内部でのリバウンドを防ぐ」という中国政府の総方針の下、「動的ゼロコロナ」(注:迅速な発見、介入、治療により市中感染を速やかに抑え込むこと)、「四つの早期」(注:早期発見、早期報告、早期隔離及び早期治療)、「四者の責任」(注:属地、政府部門、所属組織及び個人の責任)等の考え方に基づき、行動制限を含む各種の防疫措置が講じられてきた。他方で、中央政府から発表される防疫措置の方針よりも、地方都市ではさらに厳格な措置を執るという事案が複数発生したため、これに対応すべく中央政府は2022年6月、隔離期間や隔離対象者を勝手に拡大設定してはならないこと等を含む、コロナ防疫に関する「9つの許さないこと(中国語:九不准)」を発表し、行きすぎた規制は是正する姿勢を示してきた。

2022年12月上旬には、感染発生から3年間での防疫経験の蓄積、医療能力の向上、全人口のワクチン接種率が90%を超えたこと、さらにオミクロン株の弱毒性等を理由に、中央政府はこれまでの防疫措置を更に適正化する旨の通知を発出し、大幅な措置の調整が行われた。これにより、現場の防疫作業方針については、「早期発見・早期隔離」から「分類別の健康サービス及び救護治療の実施」へと移行した。

(2)市中感染対策
コールドチェーン従事者や税関職員、医療・疾病管理従事者等の感染リスクが高い重点グループに対するPCRスクリーニング検査が定期的に実施されている。

市民の日常生活においてもPCR検査が必要であり、2022年はしばらくの間、公共施設、飲食店、小売店、商業施設、オフィスビル、ホテル等の各種施設や公共交通機関の入口では体温検査に加え48時間以内のPCR検査陰性証明の提示が求められ、発熱が認められた場合や陰性証明が提示できない場合には、入場が拒否された。しかし、同年12月からは、感染リスクの高い重点グループを除き、PCR検査は希望する者に対してのみ行うこととされ、ネットカフェやジム等の密閉空間や店内飲食、医療機関、幼稚園等といった一部機関への立ち入りを除いて陰性証明の提示は不要とされた。また、これまで感染者が発見されると行政区域毎などで行われていた大規模なPCR検査については行わず、範囲を縮小するとされた。検査手段については、PCR検査の補助的な手段として自身で行う抗原検査も広く普及している。

上記のように日常生活においてPCR検査陰性証明が必要となってきたため、中国国内の各地には居住地の徒歩圏内に無料PCR検査場が設けられている(検査機会の調整に伴いその設置数も増減する)。検体は咽頭部を綿棒で拭い採取し、10人の検体を同時に検査する方法が用いられており、検査結果は通常検査から数時間後に各個人のスマートフォンアプリ「健康コード」に反映される。

無症状感染者や軽症例については、2022年12月から、住宅が条件を備えていれば、一部の基礎疾患の重い方を除き、自宅での治療が可能となった。自宅隔離の6、7日目に2回連続でPCR検査Ct値≧35と測定された場合は、隔離が解除される(解除要件は地方政府において運用上の調整が行われている)。これまで陽性者は「指定病院」が受け入れていたが、今後はあらゆる医療機関が陽性者を診察し、PCR検査の結果で受け入れるか否か区別してはならないとされた。

感染者が発見された場合、これまで、濃厚接触者及び二次濃厚接触者は集中隔離医学観察の対象となり、隔離施設(原則外出禁止)へ移送されていたが、2022年11月からは、二次濃厚接触者については調査の対象から除外、濃厚接触者に対する管理措置は「5日間集中隔離+3日間在宅隔離」とし、同年12月からは、濃厚接触者も住宅が条件を備えていれば在宅隔離が可能となった。

全国各地に対して、市中感染の発生状況に応じてリスク区分が設定されている。2022年11月から、これまでの「高・中・低リスク地区」から「高・低リスク地区」に改められ、管理下にある者を最小化するとされた。感染者居住地及び感染リスクの高い職場などが「高リスク地区」(建物単位)とされ、「高リスク地区」の所在する県(区)が「低リスク地区」とされている。市中感染が発生し、当該地区が高リスク地区に指定された場合、住民は住宅からの外出が困難となり、高リスク地区から外へ出た者も在宅隔離が必要となる。低リスク地区では、個人防護(マスク着用等)や集団活動を避けるなどの措置を要請される。

地方政府は他の都市からの新型コロナウイルス感染症の流入に警戒し、多くの都市において、他の都市から移動する者に対して48時間以内のPCR検査陰性証明の提示を求めていたが、中央政府は、2022年12月から、これを不要とする方針を示した。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■海外からの新型コロナウイルス感染症
海外からの渡航者に対し、ホテルなどの集中隔離場所において集中隔離が実施され、隔離期間中に複数回のPCR検査が行われました。隔離期間は段階的に調整されており、2022年12月現在、入国後「5日間集中隔離+3日間在宅隔離(外出不可)」が求められています。
新型コロナウイルス感染症の発生以降、大半の航空便は運航停止となり、2022年前半まで、日中間直通便は、日系航空会社3社で合計週12便でした。なお、日本北京間の直通便は全て運航停止となっていたが、2022年8月になり運航が再開されました。同年11月、これまで執られていた入国便のブレーカー措置(注:感染者が多発した国際航空便を運航停止にする措置)は廃止されました。
中国への渡航者に対し、入国前のPCR検査が要求されており、これまで段階的に回数の調整が行われ、2022年12月現在、搭乗前48時間以内に1回のPCR検査が要求されています。なお、ビザ申請にあたっては、ワクチン接種証明が求められています。
2022年12月現在、全ての輸入物品(食品に限らず、常温流通するものも含む)に対し、輸入時に輸送手段及び包装のPCR検査及び消毒の実施が要求されています。特にコールドチェーン流通する輸入食品については、港湾においてその陸揚げや輸送等に従事した者が市中感染の端緒とされ、感染源となる可能性が高いとして厳格な防疫措置が講じられています。具体的には、水際及び国内流通時における前述の検査・消毒に加え、流通・販売時における国産品との分別保管やトレーサビリティの徹底、消毒未実施の輸入コールドチェーン食品に最初に接触する港湾従事者に対する定期的なPCR検査が要求されています。

■スマートフォンアプリの活用
各種施設や公共交通機関の入口では、体温検査に加え、スマートフォンアプリ「健康コード」を提示する必要があります。アプリに氏名やパスポート番号を入力すると、中国政府が所有するビッグデータと照合され、集中隔離医学観察中か否かが表示されます。「健康コード」は省・直轄地・自治区ごとに開発されています。
「健康コード」の機能については、一般的に、PCR検査の結果やワクチン接種の有無を示す機能と、各種施設や公共交通機関の入口に設置されたQRコードを読み込む機能があります。各人がQRコードを読み込むことにより、各種施設や公共交通機関を利用した旨の情報がデータベースに登録され、事後的に感染者と判明した者が利用した施設等が把握されます。また、当該施設を利用した他者の情報もデータベース上に登録されているため、地方政府は、当該データを基に、対象者にPCR検査や集中隔離医学観察を実施しています。
「行程コード」については、過去2週間以内に訪問した都市について、中国政府が開発したスマートフォンアプリ「行程コード」上ですべて表示され(GPS機能により各個人が訪問した都市が網羅されている)、高リスク地区が存在する都市を訪問した場合には、その旨が明示されます(2022年12月13日をもって本アプリの運用は停止された)。

■ワクチン接種、治療薬
2022年12月13日現在、約10種類のワクチンが条件付き承認又は緊急使用許可を取得しており、累計接種回数は34億5167.7万回(ブースター接種を含む)で、また、8億1571.8万人がブースター接種を完了しました。60歳以上では、全行程の接種完了者は86.6%、1億8417.9万人がブースター接種を完了し、80歳以上では、全行程の接種完了者は66.4%、1515.3万人がブースター接種を完了しました。中央政府は、特に重症化リスクの高い高齢者に対するワクチン接種を強化する方針を示しています。
治療薬については、騰盛華創医薬技術(北京)が開発した抗体カクテル治療薬(BRII196、BRII-198)、ファイザー社が開発した経口薬(Paxlovid)及び河南真実生物が開発した経口薬アズブジン(Azvudine)が条件付き承認を取得しています。

(つづく)Y.H

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