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基礎編・理論編

多様・異質・異能が組織を伸ばす 3 | 横山哲夫著

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横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年で5年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に20年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせてきました。
横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

人材はこれまで「人的資源(Human Resource)」と捉えられることが多い。この表現は、「既に持っているものを使う、今あるものを消費する」ということを含意する。このため、「人的資源」という捉え方を出発点とすれば、マネジメントの方向性も、「いかにその使用・消費を管理するか」という考え方となり、人材に投じる資金も「費用(コスト)」として捉えられることとなる。
 しかし、人材は、教育や研修、また日々の業務等を通じて、成長し価値創造の担い手となる。また、企業が目を配るべき対象は、現在所属している人材だけではない。事業環境の変化、経営戦略の転換に伴い、必要な人材を外部から登用・確保することも当然ありうる。
 このため、人材を「人的資本(Human Capital)」として捉え、「状況に応じて必要な人的資本を確保する」という考え方へと転換する必要がある。こうした捉え方の下では、マネジメントの方向性も「管理」から人材の成長を通じた「価値創造」へと変わり、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」となる。

出典 経済産業省 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
~ 人材版伊藤レポート ~

20200930_1.pdf

人を資源とみるか、資本とみるか、経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」では、2020年に「資本としてみる」すなわち人を投資と位置付けるレポートを出しています。しかし、横山哲夫先生はその著者で30年位も前に同様なことを言っています。

今回は「多様・異質・異能が組織を伸ばす」3回目です。

Q6 新人の配属についてはどうか。

A6 本人の希望とラインの要請を主とし、人事部の判断、介入をできるだけ控えた方がよい。まず、採用時に立ち合ったラインの長の適性判断の記録を重要参考資料とすること。次に、採用予定者全員の配属部門がはじめから決まっているような場合は別として、オリエンテーションが終わったあと、ラインの長による「わが部の特色」的な部門紹介スピーチがあるとよい。オリエンテーション後に全員一律のローテーションを半年から2、3年にかけて実施する会社でも、入社当時の新鮮な頭脳にはラインの責任者の紹介スピーチはよく記憶されるものである。その印象はその部に対する関心となり、ひいては自己申告記入の動機づけにも発展する。また、正式配属に先立って教育配転中のラインの責任者の記録をもっと重視すべきであろう。ラインの責任者観察と、個立指向型の若者の自己判断、それに人事教育担当者のコメントを総合して、最初の正規配属先を決定すれば、入社早々の1、2年間で多くの人材を流出してしまったことで話題になった某銀行、某商社の失敗の、少なくとも一部は防げたかもしれない。機械的で一律的な、人事教育部主導の従来パターンの教育配転のやり方、そのものも見直すことが必要ではないか。

Q7 昇給額、賞与へのライン管理者の人事考課の反映と、全社的公平性や予算統制上からの人事(労務)部門の責任とのバランスをどう考えるか。

A7 エゴ過剰型 (B群) は別として、個立・連帯群(D)の若者は賃金については弾力的な対応をみせる。組織内キャリアを通じての序列的取扱いは承服しないが、最小限、第一線管理者に昇進するまでの賃金、賞与の能力格差に、あまりこだわりをみせない。実績の個人差を、入社後数年間は直接昇給に結びつけない、ことが会社の方針であれば、それはそれで受け入れる。積極的に入社早々から格差をつけるなら、その方がどちらかといえばいいかな、といった感じである。私の観察では、彼らは入社後数年間は、会社の行なう能力査定の考え方とやり方について注意深く見ているのであって、順応型(C)の、会社にお任せ、とは違う。
過去のしきたりに最も強く影響され、有名無実の規程ですら簡単には廃棄しにくいのが賃金制度である。人事制度の個別化の方向の中では、むしろ後陣にまわらざるを得ないだろう。したがって、当面は、昇給等に関して通常人事部がラインに配付するガイドの中で、せいぜい、ラインの主体性を重く、人事部の規制の硬直性をいくらかでも減ずる方向で、わずかな手直しをつづけていくしかあるまい。制度そのものの改訂がないと、ライン、スタッフ共に新たな役割・責任のとりようがあるまい。
給与制度の改訂は、役員をも含めた組織の上級職位から先に手をつけるべきである。キャリアプランの経済的側面をも視野に入れた部下との対話が可能になれば、ライン管理者としての部下指導責任は果たしやすくなる。レインジ・レートの職務給(というよりは職位給、または職階給)が全管理層に適用されると、このことが可能になる。
また、流行の職能資格制と職能給については、個立の時代の人事管理への移行期に一役を果たし得る要素は評価できるものの、運営と定着の仕方を誤れば、複雑化によるコスト増と、人事部集権の延命に貢献するのみになりかねない危険性、逆行性を有することを取り敢えず、ここで指摘をしておく。

Q8 ライン主権下の人事異動をどうすすめるのか、全社的な有効性をどう保つのか。とくに、部門間異動のプラン、実施について人事部はどう動くか。どう発令するか。

A8 ライン人事管理体制下の人事異動は人事部門が最も苦心を要するところである。ライン主権の下に、昇進・昇格・転属・育成・配転のイニシヤティブをラインがとり、それを全社的視野からの整合性を保つこと。加えて、自己申告や委員会面接などで表明された個別のニーズの最大限実現をはかるとなると、これはまことに容易でない。
次の章でM社、K社の事例を中心に、一つの考え方とすすめ方を提示してみた。とくにM社のケースは、私の基幹体験であり、試行錯誤を含む、20年に及ぶ実践を経てきている。年間を通じて、起こるべくして起こる多くの異動の中で、まず組織と個人にとって影響の大きい、主要な人事について、当該ラインの長を中心に、関係者間の合意を成立させること、これが第一に肝心である。つまり部下の異動についての原案提出者は常に当該ラインの長であり、その案が自分のラインの仕事上の都合のみを優先させたものでないかぎり、関係者の同意が得られ、会議決定をみる。その詳細を次章に譲って、ここでは同意された異動のプランについてその発令の手続きがM社などではどのように行なわれているかを紹介しておくことにする。
個別人事管理の主権はラインに帰属する考え方に立つM社などでは、人事発令はラインの長の名前で公示される。複数部門間にわたる異動については当該ラインの長の連名で公示される。たとえば財務課長が企画課長に、企画課長が営業課長に異動するとすれば、財務、企画、営業の三部長、または管轄役員が連署することになる。中央集権型の人事部スタッフには想像もできないことかもしれない。ただし、これらの公示の末尾には人事担当役員または人事部長の確認署名が付せられる。いうなれば、人事異動公示の書式そのものが、M社の人事異動と人事権のあり方―全社的人材育成システムの一環としてのラインの主導権の存在を社員に明示していることになる。
また異動の時期、タイミングなどについては会社(ライン)と個人の都合の両立を最大限はかることが主眼であり、いわゆる定期異動の時期に無理に発令を合わせるようなことは避けるべきである。因みにM社には異動をプランする定期会議はあっても、”定期異動”はない。

Q9 教育訓練についての人事(教育)部の企画・実施責任は変わらないと思うが、どうか。

A9 人事(教育)部の企画、立案による階層別の集合研修は、これからも必要で在り続けるだろう。しかしラインの人事権を尊重するなら、研修への参加者についてのラインの指名権、推薦権を尊重しなくてはならない。派遣部門の偏りを防ぎ、あるいは、研修効果を高めるため、参加資格に制限をつける、など人事(教育)部の調整行為が必要となることはあるが、基本的には、ラインのために必要な研修に、ラインが指名参加させる原則を守ること。往々にしてみられる、研修担当部門の半強制的な参加要請は本末転倒というべきである。
全ライン管理者を対象とする人事関係訓練(MBOの理念と技法、カウンセリング、コーチング、リーダーシップ、主要人事規則・労働協約の解釈・適用など)は継続的な研修がつづけられなくてはならない。とくにMBOについては、ラインが人と仕事を一体的に管理するOJT推進上の基本的枠組みであるから、ライン管理者教育のための独自のプログラムを特別に編成するとよい。

さて、Q&Aを以上で終わることにして、もしM社の”ライン主導型人事管理”を採点せよ、といわれれば、100点の理想に対して7点と答えたい。経験を積んだ上級管理者レベルでは、80点を上まわるグループもあるが、新任の第一線管理者のレペルでは70点を下まわる。この制度の下でのライン管理者の果たすべき役割と、部下の大きな影響を思うと、「ライン管理者教育」は人事(教育)スタッフの最大の責務であると思う。
(つづく)平林良人

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