基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 29 |  テクノファ

投稿日:2021年1月12日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に14年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

先生には多くの著者がありますが、今回はその中からキャリアコンサルタントが知っているべき「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。

今回は引き続き「個立の時代の人材育成」からの紹介です。

―目標管理の悲劇― その2 ―
目標管理を原産地米国から学んだ時機がよくなかった。何をつくっても売れる高度成長の時代には、借り物の技術に集団的機動力を加えれば万事がうまく運ぶようにみえる。そういう時代に、新しい経営、新しい人事管理の理念や手法について地道で、本格的な取り組みが行なわれることはない。この時代、多くのアメリカ式経営の手法が流行のように伝えられ、忘れ去られていった。MBOもいわばその一つになってしまった。学者・研究者はともかく、経営の現場では、一部の、熱心な支持者と戦後の新興企業を除いて、日本の大方の経営者に大きな影響を与えることはなかった。それもそのはずである。集団的機動力をもって事に当たれば間違いなくよい結果を得られることをまざまざと見てきた経営者にとって、組織集団の中の「個」の尊重、集団目標の個別化の提言は、異和感を誘うことはあっても、正当な取り組みへの動機づけになるはずがない。そして、高度成長がオイルショックを機に、ゼロ成長、低成長に急転すると、大方の企業はひたすら生存のためのぎりぎりの忍耐と、明日の糧を得るための必死の知恵をふりしぼる毎日の連続となった。新しい時代に備えて、経営の理念と手法を思いめぐらすいとまもあればこそである。

かくして、目標管理は死に絶えることはなかったにしても(皮肉にも、”努力目標”や”ノルマ目標”が命運をつないだ?)片隅に追いやられ続けたのである。唯一の救いは、自己啓発、教育訓練との結びつきであった。どんな時代でも、自己啓発の重視を唱えることには、どこからも異論は出ない。経営者にとっては痛みもリスクもなく、経営責任の一端を転嫁できるうまみもある。せいぜい自己啓発の援助、奨励と結びつけ、能力向上のための教育訓練費用の支出で事足りる。かくして、目標管理の本格的導入のなし得なかった人事・教育担当者は、わずかに自己啓発・教育訓練の分野に極限された目標管理にその生存をはからざるを得ないことになってしまった。

―目標管理の悲劇 その3―
目標管理の導入にもっとも悲観的な人達は、目標管理的な思考が日本人になじまないという。目的合理主義は日本人の価値観や美意識にそぐわないという。日本の伝統的発想は目標よりもプロセスの重視にあるという。なるほど、一生懸命やってできなければ仕方がないと、まわりも自分もそれだけで納得しやすいということがあるのは認めるが、私はこのテの議論になじめない。このテの議論の重大な欠落は、もっぱら過去に目を向け、本書第1章で述べた個立の時代の幕開けに目を閉ざしていることにある。ご時世の変化を認めようとしない(あるいは、認めたくない)ところにある。目標の個別化による、個別の仕事のすすめ方は新人類と呼ばれる、新しい日本人達とよく歯車が噛み合うこと、中高年のおじさん達が何をどういおうと、世の中のすすみ方は個立指向ヤングを中心にこれから変わってゆくこと、これらの視点と方向に目を向けないのでは、21世紀をリードするヒトの話はまったくできない。そのことだけを強く述べて先にすすむことにする。
(つづく)平林良人

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

自己理解は大前提 | テクノファ

今回は、エドガー・H、シャイン著「組織文化とリーダーシップ」翻訳紹介の間に、横山さんの講演録を入れさせていただきます。この講演録は2010年3月にキャリアコンサルタント協議会が収録したもので、連続した講演を3回に分けて紹介しますが、今回はその3回目をお送りします(2回に分けてお送りします)。この講演はACCN(オールキャリアコンサルタントネットワーク)もサポートしておりキャリアコンサルタントの方にはぜひ聞いていただきたいものです。 横山哲夫先生講演録 その3-1 レジメの2ページをご覧下さい。項目が1から6まであります。1つで10分やってもこれで60分・1時間近く使ってしまいます。ですから、そ …

キャリアコンサルタント養成講座 81 | テクノファ

横山哲夫先生の思想の系譜 キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。 <ここより翻訳:2010年シャイン著> 社員にその職務について尋ねると, …

地球の環境|キャリコン養成講座220テクノファ

キャリアコンサルタント養成講座を紹介していただいた横山先生が翻訳されたサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を紹介しながら、横山先生の思想の系譜を探索します。 □環境を保護する 地球という惑星を保護するための新しいパラダイムに基づく考え方が、神学者Matthew Foxや経済学者Hazel Henderson、そしてデンマークのキャリア・ガイダンスのリーダーPeter Plantらによって明確に示されている。Foxは彼の論文 The Reinvention of Work(1994)のなかで宇宙を、そして同様にわれわれのからだとこころを、ニュートン主義 …

キャリアコンサルタント熟練レベルを目指して 2 I  テクノファ

熟練キャリアコンサルタントを目指すにあたって、近道はありません。実践経験を積みながら、日々研鑽を重ねることが何より重要です。 ■「自ら成長したい」という強い思いが不可欠 熟練キャリアコンサルタントになるために、近道や特効薬はありません。継続した学習と実践を積むしかありません。そのうえで、ケースにおける失敗経験を反省し、自身の力量を自覚するとともに、成功経験をその後の活動に効果的に反映させるべく、活動に対する先輩や指導者からのフィードバックを求め、自分の資質の向上に努めることなどで、はじめて熟練キャリアコンサルタントに近づいていきます。つまり、熟練キャリアコンサルタントを目指すには、受け身の姿勢 …

将来に向けて前向きの指向性|テクノファ

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。 今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。 <ここより翻訳:2010年シャイン著> 6.将来に向けて前向きの指向性 学習にとっての最適の時間の指向性は,遠い未来と近い未来の中間に存在すると言えそうだ。われわれは,さまざまなアクションのコースの組織的な結果がアセスできるように十分に遠い …