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基礎編・理論編

横山哲夫先生が逝去されて今年で6年になります2

投稿日:2025年6月10日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年で6年になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に15年もの間先生の思想に基づいた養成講座を開催し続けさせてきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがありはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
先生には多くの著者がありますが、今回は「硬直人事を打破するために-人事管理自由化論」の中で、管理なき人事へ(人間の自由化)を掲載させていただきます。

人間自由化の前提を考えてみたい。

1 人間性尊重の精神
人間の自由化を企業組織のなかで現実に可能にするためには理念的な大前提がある。
その第一は、その企業の最高経営者および経営幹部の人間観の問題である。人間を他の動物から区分する人間固有の高次元欲求― 完成し、創造する過程のなかで自律的に働く(生きる)よろこびを得ようとする― に対する確信と共感、そしてそのような人間存在に対する基本的信頼と愛情がそれである。人間の自律性に対するポジティブな確信のないところに人間の自由化が展開するはずがない。最近、内外の識者、特に行動科学的な立場からの人間性の洞察(マグレガー、ハーツバーグ等は特に日本の経営者に多くの示唆を与えた)、日本の先進的経営者の大胆な実践(ソニー経営陣、特に小林茂氏を一般に対する影響カの点でその代表と考える)、あるいはまた、文化人類学的立場から、人間(特に日本人)のビヘイベアの独自性、孤立性に注目と反省を喚起した一連の書物(加藤秀俊氏の著書、訳書は特に筆者の共感を呼んだ)などによって信賞必罰的統制 (つまりムチとニンジン)や集団動物学理的な人事管理理念に痛撃が与えられたことは刮目すべきことである。また、大脳生理学の立場からの人間行動の研究と推論が新しい人事管理理念に貴重な示唆を行なったことも見逃せない。時実利彦(東大教授)、武田豊(新日本製鉄常務)の両氏の著書、講演は多くの経営者、管理者に多大の感銘を与えたに相違ない。

2 人間の動物本能(不満の種)
企業における人間の自由化の第二の前提は人間の低次元本能欲求― 動物である人間の、動物的欲求、すなわち動物体として生存するための三大本能とよばれる自己維持本能、種族維持本能、集団維持本能を意味する。―の適度な充足を実現することである。それには企業を含めた現実社会の経済的水準がまず問題になるであろう。食うや食わずの経済社会では、とかく人間の高次元欲求はあとまわしにされやすい。”衣食足って礼節を知る”のは人間一般の現実の姿であるからである。

幸い、いわゆるヨーロッパなみの所得水準に到達したわれわれの平均的生活水準は、金銭に換算可能な低次元欲求の充足をほぼ可能にしていると考えられる。こうした経済環境のなかの企業としては、その従業員の生活水準を社会水準以下に落とさないように努めることを企業に課せられた社会的責任として受けとめるべきであろう。
従業員の所得水準を世間なみ程度におくことでよしとするか、上位、一流の水準とするか、あるいは最高レベルにするかは、企業の種類、経営の規模と内容にもよるが、それ以上に経営者の経営理念によるところが大きいと思う。ちなみに、モービル石油では給与を中心とする総合的労働条件をいわゆる世間なみを上まわる上位水準のなかにおくことを公約しているが、これは世界企業モービルの世界各国に共通のルールを日本でも採用したものである。これは”一流の人材には一流の待遇を”という考えに基づくものであるが、同時にまた、給与を含めて労働条件的な所遇は本質的に、人間の生きがい、従業員の働きがいとなりうるものではなく、単に待遇上の不平不満の種となることを防ぐに役立つにすぎないことを知っているつもりである。不満の種を少なくすることは大事なことにはちがいないが、ほんとうにたいせつなことは、仕事そのもののなかに真の満足、働きがいが得られるように、従業員の自由な意思と主体性を尊重した配慮を行なうことである。

3 日本人の集団主義
人間のもう一つの低次元欲求に集団欲がある(低次元とは賎しいという意味ではない。それが強烈な原始本能である集団維持本能に根ざしているという意味である)。
日本人の集団形成の特異さについての記述が識者によってなされることが多くなった。
「日本人には独自の肌のあたたまるような連帯感がある。」
「他のいかなる国もまねしえない独得の連帯行動をとりうる国民である。」
「日本人はそもそも集団と個人という西欧流の分類による意識、感覚をもたないのだ。」
「集団内において日本人の形成する人間関係はきわめて独自で、きわめて変わりにくいものである。」
「日本的集団の力は個人の行動のみならず私的な思想、考え方にまで浸透してくる。そして個人はこの徹底した仲間意識に安定感をもつ。」等々。

このように日本人の集団意識、集団行動の特異さが指摘され、その文化的、社会的要因の分析が識者によってなされることが多くなった。このこと自体はたいへんに結構なことであるが、これがセンチメンタル・ナショナリズムと共鳴して、日本人の集団主義の再認識 → 再強化の方向に動きそうな気配が感じられることには大きな危倶を感ずる。日本と日本人がいまや、国際場裡において、ビジネス、政治外交、文化、技術研究などあらゆる面で諸外国と密接なかかわりをもつ立場になりつつある現在、日本人のなかでしか通用しない非論理性、例外性を国際社会にまでもちこもうとする危険に同調するような動きは警戒すべきである。

日本文化と日本社会の単一性から生まれた独自の価値観を認め、これを日本人のなかで保存することにはそれなりの意義があるが、これに脚光を浴びせ、外国の追従や賞讃を期待するかのごとき動きは、日本人の国際感覚の甘さと独善を物語るものといわざるをえない。

素朴で原始的な人間の本能が単一文化、単一民族、そして単一社会の土壌で育くまれ、いささか特異な味わいのある集団を形成した、というだけのこと(もちろんそのこと自体は日本人としては大きな問題であるが)ではないのだろうか。

日本に固有のものをそのまま押し通そうとする独善は、国際化の潮流のなかでの人間の自由化を妨げこそすれプラスに働くものではないと思う。

GNP世界二位ということと、日本人がいまのままで国際社会に通用するか、ということは別問題である。日本と日本人はいま史上最大の転機にさしかかっている。ここで誤った自信を抱くことは破滅への道であり、謙虚に国際的日本人への脱皮成長を考えることこそ、さらに大きな繁栄につながる道だと信ずる者の一人である。

後進国であるうちは問題にされなかったわれわれの行動様式、価値観が、彼らと肩を並べ、あるいは追い越そうとするような地位にのしあがると、にわかに、問題にされ、批判され、攻撃される。われわれに対する誤解を正すのみならず、われわれ日本(人)が文字通り世界のリーダーとしての役割を果たしうるためには伝統的日本人ではだめで、日本人の伝統をふまえ、一つの大きな脱皮を行なった新しいタイプの国際的日本人でなくてはならない。人間(日本人)の自由化は国際化につながるものでなくてはならないと信ずるのである。

(つづく)平林良人

-基礎編・理論編

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