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初等中等教育は、生徒が各自の興味・関心、能力・適性、進路等に応じて選択した分野の基礎的能力を習得し、その後の学習や職業・社会生活の基礎を形成することを役割としています。今回は、初等中等教育の充実についてお話しします。文部・科学技術施策の展開についてみていきたいと思います。
◆初等中等教育の充実
文部科学省は、教育機会の確保や教育水準の維持向上のため、学習指導要領が目指す教育の実現、学校における働き方改革の推進科学技術系人材を育成するための理数教育の推進、グローバル人材の育成に向けた教育の充実、キャリア教育・職業教育の推進、高等学校改革の推進、教科書の充実、いじめ・不登校等の生徒指導上の諸課題への対応、道徳教育の充実、人権教育の推進、子供の健康と安全の確保、きめ細かで質の高い教育に対応するための教職員の資質能力向上や指導体制の整備、生涯にわたる人格形成の基礎を培う幼児教育の振興、障害のある子供一人一人の教育的ニーズに応じた特別支援教育の推進、地方教育行政の在り方と地域とともにある学校づくり、少子化に対応した活力ある学校づくりの推進、夜間中学の設置 促進・充実及び幼児・児童・生徒に対する経済的支援の充実など、様々な施策を実施しています。
■学習指導要領が目指す教育の実現
学習指導要領は、子供たちが全国どこにいても一定水準の教育を受けられるようにするために、学校の教育課程の大綱的な基準として、国が学校教育法等に基づいて定めるものです。これまで、おおむね10年ごとに改訂してきています。令和2年度から順次実施されている学習指導要領では、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという理念を学校と社会が共有し、社会と連携・協働しながら新しい時代に求められる資質・能力を育む「社会に開かれ た教育課程」の実現を重視しています。その上で、子供たちの「生きる力」を育むために、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善やカリキュラム・マネジメントの充実を通して、これからの時代に求められる資質・能力を一層確実に育むことを目指しています。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
●学習指導要領
近年、情報技術の急激な進展を背景とした人工知能 (AI)の飛躍的な進化やグローバル化の進展等に伴い、社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となってきています。一人一人の子供たちが、自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められます。このような時代において、子供たちが未来を切り拓くために必要な資質・能力を確実に育成するため、平成28年12月に中央教育審議会で取りまとめられた「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を踏まえ、 29年から31年に学習指導要領等の改訂を行いました。この学習指導要領等は、幼稚園では30年4月から、小学校では令和2年4月から、中学校では3年4月から全面実施 し、高等学校では4年4月から年次進行で実施しています。また、特別支援学校についても、幼・小・中・高等学校学習指導要領等に合わせて実施しています。
○学習指導要領の基本的な考え方
1 「社会に開かれた教育課程」の実現
学習指導要領では、教育基本法、学校教育法等を踏まえ、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を生かし、子供たちが未来を切り拓くために必要な資質・能力を確実 に育成することを目指しています。そのためには、学校が社会と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠です。そして、学校が社会や地域とのつながりを意識し、社会の中の学校であるためには、学校教育の中核となる教育 課程もまた社会とのつながりを大切にする必要があります。そこで、学習指導要領では、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていく「社会に開かれた教育課程」の実現の重要性について明記しました。
2 「何ができるようになるか」を明確化
「社会に開かれた教育課程」を実現する観点からも、「何のために学ぶのか」という学習の意義について、各教科等で育成を目指す資質・能力という形で、できるだけ分かりやすく示すことが重要です。学習指導要領では、「生きる力」を子供たちに育むため、各教科等の指導を通して子供たちに育成を目指す資質・能力を、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」 の三つの柱として示しました。全ての教科・科目等の目標及び内容も、この資質・能力の三つの柱で再整理しています。
3 「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
こうしたこれからの時代に求められる資質・能力を子供たちに育むためには、子供たちが「どのように学ぶか」という学びの質を重視した授業改善を図っていくことが必要です。学習指導要領において、学びの質を高めていくための授業改善の視点として示しているのが、「主体的・対話的で深い学び」です。「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善は、1単位時間の授業の中で全てが実現されるものではなく、単元や題材などのまとまりの中で、例えば主体的に学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか、対話によって自分の考えなどを広げたり深めたりする場面をどこに設定するか、学びの深まりをつくりだすために、子供たちが考える場面と教師が教える場面をどのように組み立てるか、といった視点で行っていくことが重要です。
4 各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進
教育課程は学校におけるあらゆる教育活動を支える基盤となるものであり、教育課程に基づく教育活動をより効果的に実施していく観点から学校の組織運営がなされる必要があります。このことを踏まえ、学習指導要領では、教育 課程に基づき組織的・計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていく「カリキュラム・マネジメント」に努めるものとすることについて次の三つの側面を示しました。 ・教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等 横断的な視点で組み立てること ・教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこ と ・教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図ること 各学校においては、管理職のみならず全ての教職員がカリキュラム・マネジメントの必要性を理解し、適切に役割分担をして相互に連携するとともに、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置づけを意識しながら取り組むことが重要です。
(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
5 教育内容の主な改善事項
a 言語能力の確実な育成
学校という場において言葉は、子供たちが行う学習活動を支える重要な役割を果たすものであり、全ての教科等における資質・能力の育成や学習の基盤となるものです。したがって、言語能力の向上は、学校における学びの質や、教育課程全体における資質・能力の育成の在り方に関わる課題であり、ますます重視していく必要があります。学習 指導要領においては、言語能力を支える語彙の段階的な習得も含め、発達の段階に応じた言語能力の育成が図られるよう、国語科を要としつつ教育課程全体を見渡した組織的・計画的な取組を進めることとしています。
b 理数教育の充実
次代を担う科学技術系人材の育成や国民一人一人の科学に関する基礎的素養の向上を図るため、理数好きな子供を増やしていくことや子供の才能を見いだし伸ばしていくことが重要です。学習指導要領においては、算数・数学、理科で育成を目指す資質・能力を明確化し、日常生活等から問題を見いだす活動や見通しをもった観察・実験などの充実により学習の質を向上させることとしています。
c 伝統や文化に関する教育の充実
国際社会で活躍する日本人の育成を図るためには、我が国や郷土の伝統や文化を受け止め、その良さを継承・発展させるための教育を充実することが必要です。このため、学習指導要領においては、我が国の言語文化、県内の主な文化財や年中行事の理解、我が国や郷土の音楽、和楽器、武道、和食や和服などの指導を通して、我が国の伝統や文化についての理解を深める学習の充実を図っています
d 道徳教育の充実
学校教育では、心と体の調和のとれた人間の育成を目指 して、子供たちの発達の段階に応じた道徳教育を展開することとしています。小学校では平成30年度、中学校では令和元年度から 「特別の教科道徳」が全面実施され、高等学校では、平成30年3月に公示した学習指導要領において、校長のリーダーシップの下、道徳教育推進教師を中心に、全ての教師が協力して道徳教育を展開することを新たに規定するとともに、公民科の「公共」及び「倫理」並びに特別活動が、人間としての在り方生き方に関する中核的な指導の場面であることを明記しました。文部科学省では、各地域の特色を生かした道徳教育を推進するため、研修の実施や地域教材の活用など、各学校や地方公共団体等の多様な取組を支援するとともに、授業動画等を掲載する「道徳教育アーカイブ」の充実を図っています。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
e 体験活動の充実
生命や自然を大切にする心や他を思いやる優しさ、社会性、規範意識等を育てるため、学校において、自然体験活動や集団宿泊体験、奉仕体験活動といった様々な体験活動を行うことは極めて有意義です。学習指導要領においては、生命の有限性や自然の大切さ等を実感するための体験活動の充実や自然の中での集団宿泊活動、職場体験を重視するといった体験活動の充実を進めることとしています。
(つづく)Y.H