キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

日本企業にしか存在しない“経営企画部門”

投稿日:2025年10月9日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課について今後の政策の方向性」からスライド17ページ「日本企業にしか存在しない“経営企画部門”」について、背景・構造・課題・国際比較の視点から解説をします。

(出典)経済産業省 016_04_00.pdf
◆ 「経営企画部門」に対する問題提起の背景
このスライドは、**日本企業特有の「経営企画部門」**が持つ構造的な問題と非効率性を指摘するものです。多くの日本企業では、事業戦略・予算編成・計数管理・情報収集といった重要な経営機能が「経営企画部」や「財務部門」として独立的に運営されており、部門横断的な統合が弱いままに運用されていることが指摘されています。
また、この構造は急激なグローバル展開に対応しにくく、情報の分断、意志決定の遅延、責任の所在の不明確化など、多くの「組織的非効率性」の温床となっているとされています。

◆ 日本型「経営企画部式経営」の構造と問題点
図の左側では、「経営企画部(全社)」と「財務部門(全社)」という2つの管理部門が、企業全体の戦略・予算・会計・情報をそれぞれ分担して担っている構造が示されています。
この構造の特徴:
① 経営企画部門が戦略立案やモニタリングを担い、
② 財務部門が予算・予実管理・資金計画などを担当するが、
③ その間を結ぶシステムや言語の統一が進んでおらず、情報が分断されている。
さらに、事業部や現場では、これら2つの部門に対応するために企画部門と財務部門が並存しており、サイロ化した組織構造となっています。その結果、

  • 情報が断片化され、全社最適ではなく部分最適に陥る
  • 意思決定に必要な統合的視点が得られない
  • 「全社経営」の俯瞰的議論が最終工程にしか現れない

という課題が浮き彫りになります。
非効率性の具体例:

  • 予算編成が「積み上げ方式」で行われ、戦略的優先順位や資源再配分の議論が乏しい
  • 各部署が経営企画・財務の両方に報告しなければならず、調整コストが増大
  • 現場主導ではなく、**“調整のための調整”**が組織内で頻繁に発生する

◆ 「バケツリレー式経営」の問題構造(右図)
図の右側に描かれているのは、情報や意思決定プロセスがバケツリレーのように段階的に伝達される構造です。情報が縦方向(階層)にのみ流れるため、経営の意思決定に必要な情報が

  • 必要なタイミングで
  • 必要な精度で
  • 経営層に届かない

という状況が頻発します。
この構造の問題点:
① 情報収集が人手主体・非デジタルであり、スピード・正確性に欠ける
② 意思決定のプロセスが属人的で、組織知としての蓄積がない
③ 各部門が自分の業務だけを最適化しようとし、全社的視野が持てない

このようなバケツリレー構造では、全社戦略の一貫性が保てず、環境変化に迅速に対応できません。また、部門間での目的や評価軸がずれることで、経営資源の重複や無駄な対立も起こりやすいのが特徴です。
◆ CxOファンクションの曖昧さ・混在
右下に指摘されている通り、グローバル企業においては、たとえば「CFO(最高財務責任者)」が戦略的資源配分の中心を担い、デジタル・人材・マーケティングなども明確にCxOレベルで役割分担が決まっているのが一般的です。
しかし日本企業では、CxO職が設けられていても、実質的な権限と責任の所在が曖昧で、「部門に聞かないと分からない」状態になっているケースが多く見られます。その結果、CxOの本来の役割(戦略執行・ガバナンス・リスク管理)が果たされず、個別最適な執行だけが進む形骸的な役割になっていることが指摘されています。

◆ 全体のまとめと問題提起
このスライドが伝えたい核心は、「経営企画部門」という名称そのものの是非ではなく、それを取り巻く組織構造と意思決定プロセスが日本企業特有の“連邦型・調整重視型”であり、全社最適・スピード・機動性に欠けるという点にあります。
つまり、

  • 戦略と予算の一体化ができていない
  • 部門横断のガバナンスが効かない
  • デジタルによる情報統合が遅れている
  • 意思決定が属人的・間接的・遅延型である

といった一連の問題が、「経営企画部門」の存在形態に象徴的に現れているのです。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

  ドイツの労働施策 5

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、ドイツの労働施策についてお話しします。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。 ◆労働条件対策 ■賃金・労働時間の動向 ●賃金 2020年のフルタイム被用者(製造業及びサービス業)の平均年収(特別手当を含む総額)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの企業が …

学校教育 高等(大学等)教育の充実

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 高等教育は、中等教育を修了した者またはそれと同等以上とみなされた者が、知識、倫理、技術などを深く学び、さらにそれらの理論や実践を身につけます。そのことを通じて、過程を終了した後に職業人となるなどして広く社会に、教育の成果を還元します。 今回は、高等教育の充実についてお話します。 ◆高等教育施設の動向 ●大学改革を取り巻く現状 我が国の高等教育機関への主たる進学者である18歳人口は、平成4年の約205万人をピークに令和5年には約110万人まで減少し、国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計では、23年には79万人に減少すると推計さ …

今日から始めるミドルシニアのキャリア開発(前編)

キャリアコンサルタントの皆さんに有用な情報をお届けします。 1.はじめに 「今の仕事に満足していますか」「あと何年働き続けますか」――本書は、こうした問いかけから始まります。著者は、法政大学教授の田中研之輔氏、NTTコミュニケーションズ人材開発課長の浅井公一氏、ミドルシニア研修講師の宮内正臣氏であり、第一線の研究者、大手企業で50代社員と数多く面談してきた人材開発の専門家、シニア層のキャリア支援を専門する研修講師といった、多様な知見と経験を持つ共著者たちです。 本書では、キャリアを考える出発点として「まず自分に視点を向ける」ことの重要性が強調されています。組織内の昇進や昇格に一喜一憂するのでは …

海外進出日本企業で働く人々_インド_職業能力開発 

インドの人口は、中国を追い越して世界1位となりました。また30歳未満の人口が多いことから、今後も生産人口は増加する見込みです。I Tなどの分野で、高度な人材資源を多く有している事も有名です。ただ、インドは歴史、宗教による独自の文化があり、またビジネス慣習も日本とは異なります。そんな中で、インドへ進出している日本企業は約1,400社です。キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回はインドの職業能力開発についてお話しします。若年層に職業教育を行うことを内容とする「スキル・インディア」イニシアティブなどを通じ、職業訓練に力を入れています。職業訓練は主に …

組織視点を組み込んだキャリアコンサルティングの役割り拡大

キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルティングの役割り拡大に対応するスーパービジョンについて説明します。 はじめに キャリアコンサルティングの活動は時代とともに変化し、その役割りを拡大してきた。従来、キャリアコンサルティングの活動は、主として心理カウンセリングの延長として位置付けられ、(心理)カウンセリングアプローチがクライアントとの面談で主として採用され、それが現在も活用されている状態であるともいえる。それ故、キャリアコンサルタントの研鑽の場であるスーパービジョンも、このカウンセリングアプローチが …