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実践編・応用編

製造業全体最適をする上でのデジタルの役割

投稿日:2026年5月17日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド41ページ「全体最適をする上での「ツールとしてのデジタルの役割」」について解説をします。

(出典)経済産業省 016_04_00.pdf

① 図表の全体像

この図表は、製造DXにおいてデジタルをどのように位置づけるべきかを示したものです。タイトルにある通り、ここでのポイントは、デジタルを「目的」ではなく、全体最適を実現するための「ツール」として捉えている点です。

製造DXというと、IoT、AI、ERP、MES、PLM、SCM、データ基盤などの導入が注目されがちです。しかし、この図表が伝えているのは、「システムを入れること」そのものが目的ではないということです。目的は、品質管理、原価管理、納期管理、環境管理などに関わるプロセスを、製造プロセス全体を視野に入れて最適化することです。そのために、デジタルが重要な手段になるという整理です。

上部の青い枠には、2つの重要なメッセージが記載されています。第一に、品質管理、原価管理、納期管理などにつながるプロセスを「デジタル上で一気通貫できるか否か」が、製造プロセス全体を視野に入れた最適化を行うために重要であるということです。第二に、デジタルツールによって、リアルタイム、大容量、限界費用なしでのデータ一元管理が可能になるということです。

つまり、この図表は、製造業の各業務を個別にデジタル化するのではなく、販売計画、需給計画、実行計画、製品開発、受注、調達、製造、品質管理、納品といった一連の業務をデジタルでつなぎ、経営課題の解決につなげる考え方を示しています。

② デジタルは「全体最適」のための道具です

この図表で最も重要なのは、デジタルの役割を「全体最適のための道具」として明確にしている点です。

製造業では、部門ごとに多くの業務があります。営業は販売計画や受注を管理し、生産管理は需給計画や実行計画を立て、設計部門は製品開発を行い、生産技術は工程設計や試作を担当し、調達は材料や部品を手配し、製造部門は生産を行い、品質保証部門は品質を管理し、物流部門は納品を担います。

これらの部門がそれぞれ個別に最適化されていても、会社全体として最適になるとは限りません。たとえば、営業が多く受注しても、生産能力や調達状況と連動していなければ納期遅れが発生します。設計が高性能な製品を開発しても、製造しにくければ原価が上がります。調達が安い部品を選んでも、品質不良や納期遅延が発生すれば、結果として全体コストは上がります。

このような部門間の分断を乗り越えるためには、業務とデータをつなぐ必要があります。そのための道具がデジタルです。デジタルを使うことで、部門ごとの情報をリアルタイムに共有し、同じデータをもとに意思決定できるようになります。

したがって、この図表は「デジタル化すればよい」と言っているのではありません。「全体最適に必要な情報連携を実現するために、デジタルを活用する必要がある」と示しているのです。

③ 左側に示された要求事項

図表の左側には、製造業を取り巻く要求事項が示されています。具体的には、次のような項目です。

① 超短サイクルの製品改廃
② 超短納期対応
③ マスカスタマイゼーション
④ カーボンニュートラル
⑤ 労働力対応
⑥ トレーサビリティの確保

これらは、現代の製造業が直面している代表的な経営課題です。

「超短サイクルの製品改廃」とは、市場や顧客ニーズの変化が速くなり、製品のライフサイクルが短くなっていることを意味します。新しい製品を素早く企画・開発し、不要になった製品を速やかに整理する力が求められます。

「超短納期対応」は、顧客から短い納期での供給を求められる状況です。これは、営業、生産管理、調達、製造、物流が連動していなければ実現できません。

「マスカスタマイゼーション」は、多様な顧客ニーズに応じて個別対応しながらも、量産に近い効率性を維持する考え方です。標準化と柔軟対応を両立する必要があります。

「カーボンニュートラル」は、CO2排出量やエネルギー使用量の削減を求めるものです。これは環境部門だけの課題ではなく、設計、材料選定、生産工程、物流、設備運用に関わる全社的な課題です。

「労働力対応」は、人手不足や技能継承、作業負荷の軽減に関する課題です。人の作業を見える化し、必要に応じて自動化や作業支援を行う必要があります。

「トレーサビリティの確保」は、品質保証や安全性、顧客説明責任のために、材料、工程、設備、作業、検査、出荷の情報を追跡できるようにすることです。

これらの要求事項は、いずれも一部門だけでは解決できません。したがって、図表では、これらの要求に応えるために、業務とデータをデジタルで一気通貫させる必要があることを示しています。

④ 販売計画・需給計画・実行計画のつながり

図表の中央上部には、「販売計画」「需給計画」「実行計画」という3つの計画層が示されています。これは、経営や営業の計画を、実際の製造活動へ落とし込むための流れです。

販売計画は、どの製品を、いつ、どれだけ売るかを考える計画です。市場動向、顧客要望、受注見込み、販売戦略などをもとに作成されます。

需給計画は、販売計画に対して、どれだけ生産すべきか、どれだけ在庫を持つべきか、どの拠点で対応するかを考える計画です。需要と供給を調整する重要な機能です。

実行計画は、実際にどの工程で、いつ、何を、どれだけ作るかを具体化する計画です。生産日程、作業指示、設備負荷、人員配置、調達予定などに関わります。

この3つの計画が分断されていると、さまざまな問題が起こります。販売計画が更新されても需給計画に反映されなければ、在庫過多や欠品が発生します。需給計画が変わっても実行計画に反映されなければ、現場は古い計画で動いてしまいます。実行計画が現場の実績と連動していなければ、納期回答や原価管理の精度が下がります。

デジタルの役割は、これらの計画をつなぐことです。販売、需給、生産実行が同じデータ基盤上で連動すれば、需要変化に対して素早く対応できます。これにより、納期短縮、在庫削減、生産効率向上につながります。

⑤ ERP、SCM、MES、PLMの役割

図表の中央には、ERP、ERP SCM、MES、PLMといったシステムが配置されています。これらは、製造プロセスをデジタル上でつなぐための代表的な仕組みです。

ERPは、企業全体の基幹業務を管理するシステムです。販売、購買、生産、在庫、会計、原価など、経営管理に関わる情報を統合します。図表では、販売計画や需給計画、原価管理などと関係しています。

SCMは、サプライチェーン全体を管理する仕組みです。需要、在庫、調達、生産、物流を連動させ、供給全体を最適化する役割を持ちます。図表では、受注、調達、製造、納品などの流れと結びついています。

MESは、製造現場の実行管理を担うシステムです。作業指示、進捗、設備稼働、品質実績、作業実績などを管理します。ERPやSCMが計画や管理の上位層を担うのに対し、MESは現場の実行情報を扱うシステムです。

PLMは、製品ライフサイクル全体を管理する仕組みです。製品企画、設計、試作、工程設計、仕様変更、部品表など、製品開発に関わる情報を管理します。図表では、製品開発を中心に配置され、企画、試作、設計工程などとつながっています。

重要なのは、これらのシステムを個別に導入するだけでは不十分だということです。ERP、SCM、MES、PLMが相互に連携し、製品情報、計画情報、現場実績、品質情報、原価情報がつながることで、初めて全体最適に近づきます。

⑥ 各業務機能をデジタルでつなぐ意味

図表の中央下部には、企画、製品、試作、設計工程、企画原価、受注、調達、製造、品質管理、納品といった業務機能が並んでいます。これらは、製造業の価値創造プロセスを構成する主要な業務です。

従来は、これらの業務が部門ごとに分かれて管理されていることが多くありました。たとえば、製品企画の情報は企画部門に、設計情報は設計部門に、原価情報は経理や原価管理部門に、製造実績は製造部門に、品質情報は品質保証部門にあるという状態です。

しかし、全体最適を目指すには、これらの情報をつなぐ必要があります。製品企画の段階で目標原価を設定し、それが設計や工程設計に反映される。試作で得た品質情報が量産工程に反映される。受注情報が調達や製造計画に連動する。製造実績が原価管理や納期管理に反映される。品質管理の情報が設計改善や顧客対応に活用される。このような流れが必要です。

図表では、各業務機能の下に「各種高度化ソリューション」と記載されています。これは、それぞれの業務を高度化するためのデジタルツールや分析手法を示していると考えられます。ただし、個別業務の高度化だけではなく、それらを全体として連携させることが重要です。

⑦ 人・設備・物の見える化ソリューション

図表の下部には、「人」「設備」「物」を対象とした「見える化ソリューション」が示されています。これは、製造現場の実態をデータとして把握するための基盤です。

製造現場では、人が作業し、設備が稼働し、材料や仕掛品、製品が移動しています。これらの状態をリアルタイムに把握できなければ、正確な品質管理、原価管理、納期管理はできません。

「人」の見える化では、作業者の配置、作業時間、スキル、作業負荷、作業進捗などを把握します。これにより、人員配置の最適化、作業負荷の平準化、技能伝承、労働安全の向上につながります。

「設備」の見える化では、稼働状況、停止時間、故障履歴、保全状況、加工条件、エネルギー使用量などを把握します。これにより、設備稼働率向上、故障予兆、保全効率化、エネルギー削減につながります。

「物」の見える化では、材料、部品、仕掛品、完成品、在庫、物流状態などを把握します。これにより、欠品防止、在庫削減、納期遵守、トレーサビリティ強化につながります。

このように、人・設備・物の情報をデジタルで見える化することは、現場の実態を経営管理に結びつけるための重要な土台です。

⑧ 品質管理への効果

図表下部には、デジタル活用によって実現する管理領域として、品質管理、原価管理、納期管理、環境管理が示されています。

まず、品質管理では、設計品質、製品品質、消費期限管理、サービス品質、品質コストなどが挙げられています。これらをデジタルでつなぐことにより、情報連携の強化、トレーサビリティの確保、品質保証の高度化が可能になります。

たとえば、不良が発生した場合、設計情報、材料ロット、設備条件、作業者、検査結果、出荷先情報がつながっていれば、原因追跡が速くなります。また、品質問題の発生傾向を分析し、設計変更や工程改善に反映することも可能になります。

品質管理におけるデジタルの役割は、単なる検査結果の記録ではありません。品質をつくり込むプロセス全体を見える化し、問題発生時の追跡と再発防止を容易にすることです。

⑨ 原価管理への効果

原価管理では、労働生産性、設備生産性、材料生産性、標準原価達成率、標準原価改善率などが示されています。これらは、製造現場の活動と経営上の収益性をつなぐ指標です。

デジタルによって、人、設備、材料の実績データを収集し、原価情報と結びつけることで、どこにコスト増の要因があるのかを把握できます。たとえば、作業時間が長いのか、設備停止が多いのか、材料ロスが多いのか、不良による再加工が多いのかを分析できます。

これにより、原価低減の対象を明確にできます。単に「コストを下げる」と言うのではなく、「この工程の歩留まりを改善する」「この設備の停止時間を減らす」「この材料の使用量を削減する」といった具体的な改善につなげられます。

図表では、原価管理の下に「効率化、原価低減」とあります。これは、デジタルが現場改善と経営成果を結びつける道具になることを示しています。

⑩ 納期管理への効果

納期管理では、開発リードタイム、納期回答、基準日程遵守、在庫適正化、供給リードタイムなどが示されています。

納期管理は、営業、生産管理、調達、製造、物流が連動していなければ実現できません。顧客からの受注に対して、在庫があるのか、材料は調達できるのか、設備に空きがあるのか、製造に何日かかるのか、物流は間に合うのかを確認する必要があります。

デジタルでこれらの情報がつながれば、納期回答の精度とスピードが上がります。また、生産計画と実績が連動していれば、計画遅れを早期に検知し、代替手段を検討できます。

図表では、納期管理の効果として「受注機会を逃さない」と示されています。これは非常に重要です。納期回答が遅い、あるいは不正確な企業は、顧客から選ばれにくくなります。逆に、正確で素早い納期回答ができれば、受注獲得の可能性が高まります。

⑪ 環境管理への効果

環境管理では、CO2排出目標達成率、CO2排出量、エネルギーロス率、廃棄量などが示されています。これは、近年ますます重要になっているテーマです。

カーボンニュートラルや環境規制への対応では、全社合計のCO2排出量を見るだけでは不十分です。どの製品、どの工程、どの設備、どの材料、どの物流ルートでCO2が発生しているのかを把握する必要があります。

デジタルを活用すれば、設備ごとのエネルギー使用量、工程ごとの排出量、材料ロス、廃棄量などを可視化できます。これにより、環境負荷の大きい工程を特定し、省エネルギーや原材料ロス削減につなげることができます。

図表では、環境管理の効果として「原材料ロス削減」「省エネ」が示されています。これは、環境対応が単なる規制対応ではなく、コスト削減や競争力向上にもつながることを意味しています。

⑫ 右側の「デジタルインフラ」の意味

図表の右側には、「デジタルインフラ」という縦の枠が示されています。この枠は、上部の業務プロセスから下部の経営課題までを支える基盤として描かれています。

デジタルインフラとは、単一のシステムを指すのではありません。ERP、SCM、MES、PLM、現場データ収集、データ基盤、マスター管理、分析ツール、可視化ツールなどを含む、デジタル活用の土台全体を意味しています。

このインフラが整っていれば、現場のデータが経営管理に活用され、経営課題が現場の改善活動に落とし込まれます。逆に、デジタルインフラが分断されていれば、各部門でデータが孤立し、全体最適は実現しにくくなります。

つまり、デジタルインフラは、業務と経営をつなぐ背骨のようなものです。

⑬ この図表が示す実務上のメッセージ

この図表が伝えている実務上のメッセージは、デジタルを部分最適の道具として使うのではなく、全体最適の道具として使うべきだということです。

たとえば、品質管理システムだけを導入しても、設計情報や製造条件とつながっていなければ、原因分析は限定的です。原価管理システムだけを導入しても、現場KPIとつながっていなければ、具体的な改善活動に落とし込めません。納期管理システムだけを導入しても、調達や製造実績と連動していなければ、正確な納期回答は難しいです。

したがって、重要なのは、品質、原価、納期、環境などの管理領域を横断して、業務データをつなげることです。そのために、ERP、SCM、MES、PLM、見える化ソリューションなどを組み合わせ、製造プロセス全体をデジタル上で一気通貫させる必要があります。

デジタルは、あくまで手段です。しかし、現代の製造業において、全体最適を実現するためには不可欠な手段です。この図表は、その関係を非常に分かりやすく示しています。

⑭ まとめ

この図表は、製造DXにおけるデジタルの役割を、全体最適のための「ツール」として整理したものです。製造業は、超短サイクルの製品改廃、超短納期対応、マスカスタマイゼーション、カーボンニュートラル、労働力対応、トレーサビリティ確保など、多くの要求に直面しています。これらに対応するには、部門ごとの個別対応ではなく、製造プロセス全体をつなぐ必要があります。

そのために、販売計画、需給計画、実行計画、製品開発、受注、調達、製造、品質管理、納品などを、ERP、SCM、MES、PLMなどのデジタルツールで連携させることが重要になります。また、人、設備、物の見える化によって、現場の実態をデータとして把握し、品質管理、原価管理、納期管理、環境管理に活用することが求められます。

この図表の本質は、デジタル化そのものを目的にしないことです。目的は、品質を高め、原価を下げ、納期を守り、環境負荷を減らし、顧客価値を高めることです。その目的を実現するために、デジタルを使ってデータを一元管理し、業務を一気通貫でつなぎ、製造プロセス全体を最適化することが重要です。

(つづく)Y.H

 

 

 

 

 

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