キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
前回に引き続き、持続可能な医療・介護の実現についてお話しします。少子高齢化によって、ますます労働力の減少が進んでいます。医療・介護も例外ではなく、将来的に医師や看護師、介護従事者が減っていくことは避けられません。つまり、社会と同じく需要と供給のバランスが崩れてしまう可能性があります。このバランスをどう保っていくかが、医療・介護業界の課題です。また、医療費も今後増える一方であり、税金が減ってしまえば、必然的に社会保障費の確保が難しくなってきます。
◆歯科医師の確保
人口構成や歯科疾患の罹患状況の変化、医療や介護等における歯科保健医療に対するニーズの多様化などに対応するため、地域の状況に応じた歯科医療提供体制を構築することが求められています。こうした中、「歯科医療提供体制等に関する検討会中間とりまとめ」(2024年5月)において、地域における歯科医療提供体制の検討で重要となる視点が整理され、2024年12月より、歯科医療提供体制の在り方に関する具体的な検討が開始されています。
「第8次医療計画等に関する検討会」においても歯科医師の確保の必要性が指摘されており、医療計画作成指針において、地域における歯科医療従事者の配置状況の把握を行った上で、医科歯科連携における歯科の果たす役割を認識し、病院の規模や機能に応じて地域の歯科医療従事者を病院において活用することや、病院と歯科診療所等の連携を推進することなど、地域の実情を踏まえた取組みを推進すること等が考えられる旨盛り込まれています。
◆薬剤師の確保
少子高齢化の更なる進行や、今後人口減少地域が増大することが予測される中で、人口構造の変化や地域の実情に応じた医薬品提供体制を確保することが求められています。一方で、2021(令和3)年6月に公表された「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会とりまとめ」では、薬剤師の従事先には地域偏在や業態偏在があり、特に病院薬剤師の確保が喫緊の課題であることが指摘されています。全国の薬剤師総数は、おおむね今後10年間は需要と供給が同程度で推移すると推計されていますが、都道府県等への偏在実態に係る調査結果から、今後当面は偏在が続いていくと想定されています。「第8次医療計画等に関する検討会」においても薬剤師の確保に関する議論が行われ、医療計画作成指針において、医療従事者の確保に関する記載に当たって踏まえるべき観点として、地域の実情に応じた薬剤師の確保策の実施等が新たに盛り込まれました。
これまで、地域ごとの薬剤師の比較には人口10万人対薬剤師数が用いられてきましたが、医療需要に基づき、地域ごと、病院・薬局の業態ごとの薬剤師数の多寡を統一的・客観的に把握できる「薬剤師偏在指標」を2023年6月に策定しました。また、各都道府県が薬剤師確保策を検討する際の参考となるよう、「薬剤師確保計画ガイドライン」を発出しました。さらに、地域医療介護総合確保基金の事業例として、「地域包括ケアの拠点となる病院・薬局における薬剤師の確保支援」を位置づけ、薬剤師修学資金貸与を行うために必要な経費や、都道府県が指定する病院へ薬剤師派遣を行うための経費として活用できるようにするなどの取組みを行っています。
◆看護職員の確保
医療ニーズの増大・高度化などに対応し、看護職員の確保対策を推進してきたことにより、その就業者数は着実に増加(2020(令和2)年には約173.4万人が就業)していますが、少子高齢化の進行に伴って、現役世代(担い手)が急減する一方、看護ニーズが増大する中で、看護職員の確保対策の強化が求められています。
看護職員の人材確保に関しては、「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき、国、地方自治体、国の指定する中央ナースセンター、各都道府県の指定する都道府県ナースセンターが連携して、①新規養成、②定着促進、③復職支援を柱とした取組みを進めています。具体的には、地域医療介護総合確保基金を活用した看護師等養成所や病院内保育所の運営などに対する財政支援、医療勤務環境改善支援センターによる総合的・専門的な助言などを行っています。また、都道府県ナースセンターが、中央ナースセンターの助言も得ながら、無料職業紹介や相談対応、研修等を通じた復職支援等を実施しており、今後、「デジタル改革関連法を踏まえた看護職の人材活用システム」の運用により、看護職の資質向上及び潜在看護職に対する復職支援等の更なる充実を図る予定です。
また、2024年度からの第8次医療計画を通じて、都道府県・二次医療圏ごとの課題に応じた看護職員確保対策の実施や、今後、需要の増大が見込まれる訪問看護に従事する看護職員の確保などを推進することとしています。
あわせて、看護師等の人材確保の促進に関する法律に基づく「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」について、本指針を制定してから現在までの間に看護職員を巡る状況が大きく変化したことを踏まえ、2023年10月26日に改定を行いました。
◆女性医師等の離職防止・復職支援
近年、医師国家試験の合格者においては、女性の占める割合が約3分の1となっています。このため、出産や育児といった様々なライフステージに対応して、女性医師等に安心して業務に従事していただけるよう、出産や育児等の様々なライフステージに対応した環境の整備が重要です。具体的には、
①病院内保育所の運営等に対する財政支援
②出産や育児等により離職している女性医師等の復職支援のため、都道府県に受付・相談窓口を設置し、研修受入れ医療機関の紹介や復職後の勤務形態に応じた研修の実施
③ライフステージに応じて働くことのできる柔軟な勤務形態の促進を図るため、女性医師バンクで就業斡旋等の再就業支援
などの取組みを行ってきました。
なお、①・②については、2014(平成26)年度から地域医療介護総合確保基金の対象とし、③については、女性医師支援センター事業として継続しています。
さらに、2015(平成27)年度から、女性医師支援の先進的取組みを行う医療機関をモデルとして選定し、モデルの普及啓発を図る事業を実施し、2022(令和4)年度からは子育て世代の医療職支援の先駆的な取組みを行う医療機関に対して財政支援する事業(子育て世代の医療職支援事業)として実施しています。こうした取組みを病院勤務医等の勤務環境の改善対策と併せて実施することで、女性医師等が安心して就業の継続や復職ができ、更に活躍いただくための環境の整備を行うこととしています。
■医療を担う人材の質の向上
◆診療参加型の臨床実習の充実
近年、医療の高度化・複雑化により医師が修得すべき知識・技能が増えていることなどから、卒前教育においても医学生が診療に参加し、卒前・卒後の医師養成を、医療現場を中心として一貫して行うことの重要性が高まっています。診療参加型の臨床実習を充実するため、2021(令和3)年に医師法を改正し、共用試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨を明確化するとともに、2023(令和5)年度から、公的化された医学生の臨床実習前の能力を評価する共用試験(CBTとOSCE)を実施しています。
なお、歯学生についても2021年に歯科医師法を改正し、2024(令和6)年度から、同様に共用試験を実施しています。
◆医師臨床研修
2004(平成16)年度から必修化した医師臨床研修においては、2020(令和2)年度から「臨床研修の到達目標、方略及び評価」(到達目標、方略(必修科、経験すべき疾病・病態等)、研修医の評価方法等を記載)に基づいた研修を実施し、基本的な診療能力の向上を推進しています。併せて、都市部への臨床研修医の偏在を抑制するため、都道府県別の定員上限を設定しています。
また、医師臨床研修制度の見直しを検討し、2024年3月に、更なる偏在対策等を含む「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書」を取りまとめました。
◆新たな専門医の養成の仕組み
厚生労働省では、医師の質の一層の向上等を目的として、「専門医の在り方に関する検討会」を開催し、2013(平成25)年4月に報告書を取りまとめました。報告書では、新たな専門医の仕組みは、プロフェッショナルオートノミー(専門家による自律性)を基盤として設計されるべきであり、また、医療を受ける患者の視点に立って、医師の地域偏在の解消に向けて寄与するなど地域医療に十分配慮すべきであるとされています。
これを受けて、2018(平成30)年度から新専門医制度における養成が開始されています。その後も良質な医療を提供する体制に責任を有する国の立場から、医師のキャリアや地域医療に対する配慮が継続的になされるような、安定した仕組みの構築が求められたことから、「医療法及び医師法の一部を改正する法律」(平成30年法律第79号)に基づく医師法(昭和23年法律第201号)の一部改正により、厚生労働大臣が、医師の研修を行う団体に対し、医療提供体制の確保の観点から意見及び研修機会の確保の観点から要請を行うこととされました。本改正法に基づき、医道審議会医師分科会の下に医師専門研修部会を設置し、同部会の審議結果を踏まえ、厚生労働大臣から日本専門医機構等に対し、専攻医の都市への集中抑制や柔軟なカリキュラム制などを内容とする意見・要請を通知しました。特に、専攻医の採用数の上限設定(シーリング)については、2020年度の専攻医募集から、より実態に即したシーリングの設定を行うため、都道府県別診療科別の必要医師数を基に、日本専門医機構が足下の医師数が必要医師数を上回る都道府県・診療科に一定のシーリングを設定しています。
また、今後、高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が増えることから、総合的な診療能力を有する医師の専門性を評価し、「総合診療専門医」として新たに位置づけ、他の領域分野とともに2018年度から養成が開始されています。
◆医師の働き方改革
我が国の医療が医師の長時間労働によって支えられ、今後さらに、少子高齢化に伴う医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進むなど、医療を取り巻く環境が変化していく中で、医師の働き方改革を進めることは、医師自身が健康で充実して働くことのできる環境を整備していくだけでなく、医療を受ける立場にある患者・国民に対し、質の高い安全な医療を持続可能な形で提供する体制を維持していく上での喫緊の課題です。
医業に従事する医師(勤務医)については、2024年4月から時間外・休日労働の上限規制が適用され、原則として年960時間以内/月100時間未満(いわゆるA水準)となっていますが、地域医療の確保や集中的に技能を向上させるために必要な研修実施の観点から、やむを得ず長時間労働となる医師については、医療機関が医療機関勤務環境評価センターによる労務管理体制等についての評価を受け、特定地域医療提供機関(B水準対象機関)、連携型特定地域医療提供機関(連携B水準対象機関)、技能向上集中研修機関(C-1水準対象機関)、特定高度技能研修機関(C-2水準対象機関)として都道府県知事の指定を受けた医療機関(特定労務管理対象機関)においては、追加的健康確保措置(面接指導、勤務間インターバル等)の実施を義務とした上で、時間外・休日労働は年1,860時間以内/月100時間未満となっています。また、特定労務管理対象機関においては、医師労働時間短縮計画を策定し、当該計画に基づき医師の労働時間の短縮に向けた取組みを計画的に推進することが求められています。
こうした長時間労働の医師がいる医療機関を含め医療従事者の勤務環境の改善の促進を図るための拠点として、各都道府県には医療勤務環境改善支援センターが設置されており、社会保険労務士等の労務管理の専門家等による助言・指導を行っています。また、地域医療介護総合確保基金による医師の勤務環境の体制整備に係る支援も実施しており、これらの取組みを通じて、医師の働き方改革に取り組む医療機関を支援しています。
◆看護職員の資質向上
看護職員のより一層の資質向上を図るため、厚生労働省では、地域医療介護総合確保基金を通じて、新人看護職員研修や看護職員の実務研修等に対する支援を行っています。
さらに、医療介護総合確保推進法により、保健師助産師看護師法が改正され、特定行為に係る看護師の研修制度が創設され、2015(平成27)年から施行されています。2019(令和元)年4月には、研修時間と内容の見直し及び領域において頻度の高い特定行為をパッケージ化し研修することを可能とする省令改正を行いました。進展する少子高齢化に向けた在宅医療等の更なる推進や医療従事者の働き方改革の推進を図るため、特定行為研修を修了した看護師の養成と活用のより一層の推進が必要です。そのため、厚生労働省では指定研修機関の設置準備や運営、医療機関における特定行為研修を修了した看護師の活用推進のための体制整備等に対する財政等支援を実施し、制度の普及に取り組んでいます。
■国立病院機構や国立高度専門医療研究センター等の取組み
歴史的・社会的な経緯等により他の設置主体での対応が困難な医療や、国民の健康に重大な影響のある疾患に関する医療については、国の医療政策として、国立病院機構や国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)などが着実な実施に取り組んでいます。
国立病院機構では、全国的な病院ネットワークを活用しながら、診療・臨床研究・教育研修を一体的に提供し、他の設置主体では必ずしも提供されないおそれのある筋ジストロフィー等の神経・筋難病、重症心身障害、結核、精神疾患、エイズ等の分野の医療や、災害等の国の危機管理に際して求められる医療等を提供しています。
ナショナルセンターでは、国民の健康に重大な影響のある特定の疾患(がんその他の悪性新生物、循環器病、精神・神経疾患、成育に係る疾患、加齢に伴う疾患)等について高度先駆的な研究開発、これらの業務に密接に関連する医療の提供や人材育成等を行っています。2018(平成30)年に取りまとめられた「国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会報告書」を踏まえ、2020(令和2)年4月1日に横断的な研究推進組織として、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部が設置されました。本組織では、ナショナルセンターの資源及び情報の集約による研究の更なる活性化や、他機関との連携強化等に取り組んでいます。
地域医療機能推進機構では、救急からリハビリまでの幅広い医療機能を有し、また、約半数の病院に介護老人保健施設が併設されているなどの特長をいかしつつ、地域の医療関係者等との協力の下、地域において必要な医療及び介護について、「急性期医療~回復期リハビリ~介護」まで切れ目なく提供し、地域医療・地域包括ケアの確保に取り組んでいます。
また、全国に13施設ある国立ハンセン病療養所では、ハンセン病の後遺障害に加え、高齢化に伴う認知症や四肢の障害等を有する入所者が増加しているため、医師・介護員をはじめとする職員の確保など、入所者の療養体制の確保に努めています。
(つづく)Y.H
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書