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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_イギリス_労働施策 3

投稿日:2024年7月1日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、英国の労働施策の3回目です。英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。

◆労働条件対策

■制度概要
1996年雇用権利法(Employment Rights Act 1996)においては、雇用される労働者(worker)について、被用者(employee)と被用者以外の労働者(limb (b) worker)の2区分が設けられている。したがって、就業者は被用者、被用者以外の労働者、自営業者の3つに区分されている。雇用権利法における労働者性を決める要素として、助言あっせん仲裁機構(Advisory, Conciliation and Arbitration Service:ACAS)では以下の3点を挙げている。

・仕事において就業者が事業主にどの程度依存しているか
・事業主が就業者及び就業者の仕事をどの程度管理下においているか
・就業者自らが役務の提供を行うことが期待されているか

雇用権利法において、労働者とは、①雇用契約(contract of employment)により働いている者、②職業的または営業的事業の顧客でない契約の相手方に、当該個人本人が労働またはサービスをなし、または遂行することを約する雇用契約以外の契約により働いている者と定義されており、特に①に該当する労働者を被用者と定義している。なお、以下では被用者でない労働者を単に労働者と表記する。被用者と労働者では認められる権利の範囲が異なる。

なお、法定傷病給付や出産給付等の受給においては、雇用権利法における区分とは関係なく、国民保険において第1種国民保険料を納付していることが要件とされている。2022年7月に被用者、労働者と自営業者に関する判断基準の明確化を図ることを目的として人事や法律の専門家等向け、就労者向け、雇用主向けのガイダンスが公表された。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■賃金、労働時間
消費者物価の上昇が2022年に入ってから著しく、2022年9月の消費者物価指数の対前年同月比の伸びは10%を超えました。一方、週当たり名目賃金の上昇率も上昇していますが直近では消費者物価上昇率を下回っています。被用者の労働時間は、2020年にやや落ち込みましたが、2021年以降は新型コロナ感染症の感染拡大前の水準に戻っています。

■最低賃金制度
1998年全国最低賃金法において、法的拘束力を有する最低賃金の適用対象、最低賃金の決定方式等を定めています。低賃金委員会の勧告を踏まえて、政府が決定しています。適用対象は英国で労働する労働者であり、家内労働者及び派遣労働者 にも適用されます。最低賃金には、①23歳以上の者に適用される全国生活賃金、②21歳~22歳の者に適用される最低賃金、③18歳~20歳の若年労働者に適用される若年者最低賃金、④16歳~17歳の若年者に適用される最低賃金及び⑤19歳未満または訓練開始後1年以内の養成訓練生に適用される最低賃金、の5種類があります。

■労働時間制度

“●法定労働時間の原則
1998年労働時間規則(Working Time Regulations 1998)により、労働者の労働時間は、時間外労働を含め、17週の期間(参照期間:Reference Period)で週平均48時間を超えないものとされている。雇用期間が17週未満の労働者については、参照期間は当該雇用期間とされる。ただし、以下に該当する場合等においては、上記の参照期間を26週間まで延長することができる。

①労働者の職場と住居とが互いに離れている場合
②労働者に複数の異なった職場があり、それぞれが互いに離れている場合
③労働者が警備及び監視活動に従事しており、財産及び人を保護するために継続的な駐在が必要な場合
④労働者の労働がサービス・生産の継続に関わる場合

また、労働の編成に関する客観的で技術的な理由に基づき、労働協約または労使協定が例外規定を置く場合には、参照期間を52週まで延長することができる。労働者は書面によって、週48時間を労働時間の上限とする規定の適用除外を表明することもできる。適用除外は労働者本人が行わなければならず、労働協約で包括的に適用除外規定を設けることはできない。幹部管理職(managing executive)、家族労働者(family workers)等については、法定労働時間、休息・休日及び深夜労働の規則は適用されない。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

  • 深夜労働
    深夜労働者の労働時間については、17週の参照期間を平均して1日当たり8時間を超えないものとしています。ただし、労働協約・労使協定により、深夜労働者の変形労働期間等については、原則を変更し又はその適用を除外することができます。また、「特別な危険」や「重度の肉体的もしくは精神的緊張」を伴う労働については、任意の24時間における労働時間は8時間を超えてはならないことになっています。事業主は、労働者が深夜労働者となる前及びその後定期的に無料の健康審査(通常は問診票による)を実施する必要があります。
  • 休息・休日
    ①1日の休息時間
    労働者には、任意の24時間につき、少なくとも11時間の連続した休息時間が与えられています。また、労働日における労働時間が6時間以上の場合は、連続する20分間の休憩が与えられています。

②1週の休息時間
労働者は、1週間につき24時間以上、または2週間につき48時間以上の連続した休息時間の権利を有しています。

  • 年次有給休暇
    労働者は、年に週の就労日×5.6日間の年次有給休暇を取得する権利を有しています。したがって、週5日労働している人は、年28日の有給休暇の権利を有します。なお、年次有給休暇は、勤務を開始した初日から取得可能です。
  • 柔軟な働き方
    26週以上継続雇用されているすべての被用者に、柔軟な働き方を要求する権利が認められています。雇用主は、申請を合理的に取り扱い、原則3ヶ月以内に返答することになっています。拒否できる理由は、1996年雇用権利法で定められています。なお、柔軟な働き方について、被用者の権利の拡大に向けた動きがあります。

■派遣労働施策
英国は、欧州の中で最も労働者派遣業が発達し、かつ規制の緩やかな国の一つと言われています。実質的な規制は2010年派遣労働者規則を除きほとんど存在しておらず、派遣労働の利用を限定する法的規定はありません。2010年派遣労働者規則では、給与水準や、労働時間、時間外労働、休憩、休息時間、夜間労働、休日、祝日に関して派遣先の被用者と均等処遇をすることを定めています。従来、同一業務に12週間従事した派遣労働者のみが対象とされていましたが、2020年4月6日以降は全ての派遣労働者に対象が拡大されました。

■ゼロ時間契約等の対策
ゼロ時間契約は、雇用主により仕事が提供された場合は就労し、かつ雇用主による仕事の提供が保証されない就労形態です。一般的には、労働者も仕事を引き受けるか否かを任意で決めることができます。なお、雇用権利法においてこのような労働者は、被用者以外の労働者として位置づけられています。2015年小企業・企業・雇用法では、ゼロ時間労働契約における排他条項の禁止が盛り込まれており、政府に対し、ゼロ時間契約労働者の保護に関する規制の制定権を与えています。労働契約の排他条項の禁止の対象については、2022年12月5日から、賃金額が報酬下限額(2022年度においては週24,600円)以下の労働契約にも拡大されています。

■労働安全衛生施策
労働安全衛生に関する法律として、1974年職場における健康・安全法があり、雇用年金省安全衛生庁が所管しています。同法では、使用者に合理的に実行可能な範囲において、全ての被用者の就労中の衛生、安全、福祉を実現する義務があると定められています。法律では基本的な事項のみが定められており、これに加え、規則、指針、承認実施準則が安全衛生庁により定められています。このうち指針、承認実施準則は、遵守は強制されていませんが、遵守していない状況で災害が起きた際、使用者が他の方法により同等以上の防止対策を講じていない場合、責任を問われることとされています。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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