基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 45 | テクノファ

投稿日:2021年3月20日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜15
横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に横山哲夫先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に14年もの間横山哲夫先生の思想に基づいた養成講座を開催し続けさせてきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがありはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

キャリアコンサルタント養成講座をご指導いただいた横山哲夫先生には多くの著者がありますが、今回はその中から「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。

今回は引き続き「個立の時代の人材育成」からの紹介です。

社内的に通称”ヤング”CD会議といわれるCDM②の主たる対象者は毎年、アセスメントの高さによっていくつかのカテゴリーに分類された上で個別に討議の対象とされる。課長以下の100名に近い若年社員である。この他に同一ジョプに在職年数が五年を上まわる者についても、その是非をめぐって討議される。会議の出席者は人事担当役員の他、主要ライン(部長・支店長)を合わせた数十名の大合宿(昼夜二日間)である。

比較的中高年者の多いCDM①の対象者とは異なり、一部20代を含む、30代中心の若手を対象とするこの会議では、中・長期の将来性予測と、重点的育成プランの討議に焦点が移る。しかし、一人ひとりについて、上司としての部長・支店長の原案を皮切りに、出席者のコメントや修正案が交換されるすすめ方はCDM①と変わらない。担当役員が直接意見を述べる機会が減じてくるのはやむを得ないが、その熱心に耳を傾け、メモをとる姿は毎年印象的である。部長・支店長同士はお互いに有用のロ出しが多く、評価やローテーション・プランなどの討議は活発である。実はこれにはそれなりの背景がある。まず、部長・支店長の中にはキャリア開発委員会(略称CDC―後述)の面接委員としての経験者、現位者が多く含まれていることである。つまりCDC面接を通じて、他系列の対象者をかなりよく把握している場合が少なくないのである。また、役員同様、自分自身がCDPによるローテーションによって、他部門の若手スタッフと共働体験を持つ者が大部分であることも会議を活性化させる要因となっている。つまり、自分の直接の部下はいうまでもなく、他系列、他部門の若手についても、”育成の目”で見ることを体で学んできているのである(人材育成には速効薬のないことをつくづくと思う。しかし、いくつかの制度の連動による相乗効果は期待できる。つまり、”合わせわざ”である。合わせわざが効果を発揮するまでは時間と忍耐が必要なのである。実務家の読者は百も承知と思われるが……)。

対象者に対する育成プラン(口―テーション、育成的出向、留学援助、語学特訓など)は、ライン提案に、出席者の異論がなければ、そのまま基本的に承認される。翌年以降、そのプランは再度検討され、もしその間に予定された異動その他の育成プランがあれば、それが実施されたか否かを当ラインの長は会議(CDM)で報告しなくてはならない。

総じて、部長・支店長のレベルでも、人材育成は人事部教育担当者の仕事であるよりはライン管理者の責任でもあり、権限でもあるとの意識はかなり高くなったといえよう。

その他、両CDMにみられるM社の特徴は、①評価も異動も長期的な継続プロセスの中の一年の視点で捉えられていること、②育成は個別(立)が基調であり、年功・年齢・学歴など集団的序列基準への配慮はあまり意味を持たないこと、③CD会議の場そのものが、個別ケースについて総合的でオープンな調整の場にされていること(調整には休憩時間などでの根まわしや、じか取引なども含ませて一向に差し支えない。要は、よい育成プランができることである)、④ トップ、ラインを主役に立て、人事関係者は黒子に徹する場合が多いこと、などである。

キャリア開発委員会
M社トップは人材育成を全社的に統合、促進するために委員会を常設することが必要であると考えた。その委員会は、人事担当役員を含め、トップが任命する役員(ラインマネジメント)によって構成すべきであると考えた。20年も前のことである。保守的な日本の会社の人事部の過剰統制による弊害を、M社トップは充分に認識していた。人材育成の名の下に人事部を強化し、ライン対人事部の対立の図式をつくってはならないと考えたのであろう。この考えは、前述のCD会議のあり方によってすでに明らかにされているが、人材の早期確認と異動プランの勧告を主務とする委員会の構成についても、同様の考えを貫こうとしたものである。このことは、かねてから、個別人事に対する介入に疑間を抱きつつ、ライン間異動の円滑化に苦しんでいた人事部門責任者に強力な支持体制を提供することとなった。トップに対するコーポレイト・スタッフとして、戦略人事の立場に徹しようと念願していた人事部門責任者の見解とベクトルの一致をみたわけである。

数名の役員を以て構成するキャリア開発委員会(図9参照)はこのようにして誕生した。委員長には人事担当役員、事務局の人事(教育)部長と専任のコーディネーターが任命された。現在、委員会は採用面接の最終決定への参加、部門間異動の勧告を含め、その責任範囲はかなりの広さに及んでいる。当初は採否や異動のプランをめぐり(とくに、後述の将来性評価をめぐって)、ラインと委員会間の意見調整に人事スタッフが苦心する場面も少なくなかったが、経験を重ねるにつれて個々の評価や育成プランについての一致度が高まってきた。部門間異動についてもCD会議の結論による基本線に沿って、ラインとCDCの合意が成立しやすくなった(CDCはラインによる構成であることをお忘れなく)。同一のラインの長が二つの帽子(CDC委員とラインの長)をかぶり続けているうちに、全社的見地からの育成を考える姿勢を身につける。委員をつとめること自体がラインの長自身を育成する結果になることがきわめて重要である。

委員会面接
時間・労力とユニークさにおいて、特筆に値すると思われるCDCの活動は、委員二名による社員の個別面接が常時行なわれることであろう。委員会は正規委員の他に、面接専門委員の増員をトップに進言して認められ、現在の常務以上を除く五名の取締役(正規委員)と8名の部長(面接専門委員)の合計13名が面接活動に当たっている。現社長、副社長が共に、部長の時代から、CDC委員を勤めてきた事実そのものが、この委員会が人材育成に果たしてきた役割を物語っている。

面接の直接目的は、社員との個別面接によるキャリア・ガイダンスとキャリア・アセスメントにある。厳密にはガイダンスとアセスメントの両立はむずかしい面もあるが、面接する側も、される側も、この面接に期待されるパフォーマンスを心得てきており、実際上の問題は少ない。個別に複雑な、または心理的な要因が含まれる場合には、別途、キャリコンサルタントによる非公式な相談面接が受けられる仕組みにもなっている。この場合は公式な評価やアセスメントは伴わない。キャリア・プラン中心の「社員相談室」と考えればよい。

(つづく)平林良人

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