キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

目標管理と人事考課ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

投稿日:2024年4月26日 更新日:

横山哲夫先生(1926-2019)の「個立の時代の人材育成」からの紹介です。

キャリアコンサルタントすべての方に読んでいただきたい本です。

―目標管理と人事考課 ―
R大社会学部の私の授業の一つのテーマに、W大ビジネススクールと同様に、「目標管理」をとりあげている。R大の場合は学部の学生であり、アルバイト以外は勤務経験がないから、人事管理論その他の関連課目の授業から得た知識をもとにして討議させることになる。目標管理サイクルの 仕上げの部分、業績評価の段階で、業績評価がそのまま人事考課の最大主要部分となっている米国系多国籍企業M社と、同じく米国系大手多国籍C銀行の書式の実物をみせる。次に、MBO方式をとらず、典型的に、伝統的な、日本の某大手都市銀行の人事考課表書式の実物をみせる。前者は、あらかじめ設定された目標に対する成果を中心に評価し、発揮された能力項目(分析力、判断力、人間関係能力など)を診断的、分析的、具体的に検討する。項目的には簡素な記述形式であり、M社とC銀行のフォームは酷似している。これに対し日本のX銀行は、業績に関する項目(目標設定はない)は多くの評価項目のうちの一部分を占めるに過ぎず、勤務態度、性格特徴から私的な生活態度にも及ぶきわめて数の多い、詳細をきわめた評定項目によるチェック方式である。

出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年

企業の人事考課はどうあるべきかの議論は昔から人材活性化のキーであるとして重要視されてきました。特に学生を相手の議論になると、評価、考課の現物を手にしながらであるゆえに横山先生もつい熱が入ったようです。「なるほど、会社に入るとこういうふうに勤務評定されるのか」というふうにとらえて、場合によっては社会人には想像もできない珍妙な感想なども出てきます。多くの学生は、圧倒的にMBO方式を支持するそうであるが、その理由を横山さんは次のように分析していました。
①仕事をするからには具体的な目標がはっきりしている方がよい。
②個人的な性格や、プライベートな生活などにかかわりなく勤務成績が評価されることがよい。
③仕事のすすめ方に比較的自由さがありそうだ。
④業績評価段階で部下との面接を義務づけていることがよい。
⑤目標設定のない場合に比べれば評価の客観性が高いだろう。
⑥将来指向的に個人の能力育成と自然に結びついている。

MBO方式に対する不安材料としては、新入社員としての一、二年間をひどく気にする彼らは、「目標のたて方がわからない」とか、「目標が達成できなかったときはどうなるか」などに心配を集中させる。これに対しては、「年数経験を経てから次第に目標設定に自主参画できるようになる」ものであることや、職種によっては、目標設定になじまず、アウトプットよりも、インプット(態度、速さ、正確さなど)で成績が評価される(ただし、M社もC銀行も私的な生活態度を勤務成績に関係づけることは少ない)」ことのあることを説明してやると納得顔になる。また「MBO方式では人格的要素がまったく無視されるのではないか」、と心配する学生に対しては、通常MBO方式をとる企業では、別途、アセスメントが行なわれ、人物要素、性格要因はむしろそこでとりあげられることを補足説明する。これらは、人的要素の大きい総合管理職指向か、技術的要素の大きい専門職指向かを判断する上で、当人にとっても会社にとっても大きな要素となる。また、対人関係、コミュニケーション、協調性の能力などは、短期的な業績評価段階においても、現実の目標達成のためにあきらかに必要な能力である。これら能力の改善や強化は業績達成の診断材料として、MBOサイクルの中でも当然問題にされる。場合によっては、そのこと自体が次のサイクルの目標に設定されることもあり得る。これらの説明は大方の学生に受け入れられるようである。

出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年

(つづく)平林良人

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

カウンセリングの基礎的スキルに関して

キャリアコンサルタント基礎編・理論編としてアサーション、グループワークなどカウンセリングの基礎的スキルに関して説明をします。 ■アサーション キャリアコンサルティングの相談において、キャリアコンサルタントは的確なフイードバックができることに加えて、適切な助言や提言ができることも求められる場合があります。そのためには、積極的傾聴のスキルに加えてアサーションも必要となります。アサーションとは、アサーティブの動詞ですが、いわゆる日本語の自己主張とは違います。「自分のことを大切にしながら同時に相手のことも大切にして、自分の気持ち、意見、信念などをその場に合った適切な方法で正直に、率直に表現する」ことで …

キャリアコンサルティングの成長モデル

熟練キャリアコンサルタントを目指すにあたって、近道はありません。実践経験を積みながら、日々研鑽を重ねることが何より重要です。 ■「自ら成長したい」という強い思いが不可欠 熟練キャリアコンサルタントになるために、近道や特効薬はありません。継続した学習と実践を積むしかありません。そのうえで、ケースにおける失敗経験を反省し、自身の力量を自覚するとともに、成功経験をその後の活動に効果的に反映させるべく、活動に対する先輩や指導者からのフィードバックを求め、自分の資質の向上に努めることなどで、はじめて熟練キャリアコンサルタントに近づいていきます。つまり、熟練キャリアコンサルタントを目指すには、受け身の姿勢 …

横山哲夫先生が逝去されて今年で6年になります3 

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。 キャリアコンサルタントに参考になる話として、横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがありはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。 先生には多くの著者がありますが、今回は「硬直人事を打破するために-人事管理自由化論」の中で、管理なき人事へ(人間の自由化)を掲載させていただきます。 人間自由化のモー …

キャリアコンサルタントの行う相談過程6ステップ

キャリアコンサルタントの行う相談過程には6つのステップがあります。 第一ステップ :「自己理解」の支援 第二ステップ :「しごと理解」の支援 第三ステップ :「啓発的経験」の支援 第四ステップ :「意思決定」の支援 第五ステップ :「方策実行」の支援 第六ステップ :「新たな仕事へ適応」の支援 今回、開発した技法はキャリア形成の 6 つのステップ(自己理解・しごと理解・啓発的経験・ 意思決定・方策の実行・新たな環境への適応)をベースにしつつ、ポストモダンの理論等も反 映させ、個人が未来を予測し、職業生活設計、職業選択、職業能力の開発・向上に取り組む動 機づけを与えることを目的として開発されてい …

カウンセリング技法についての概説

キャリアコンサルタントが行うカウンセリング技法について概説します。ここに記す内容は、1995年大学院での國分教授カウンセリング概論講義の私ノートと國分康孝1996年「カウンセリングの原理」誠信書房を参考にしました。また、カウンセリング技法の捉え方は同書に記される次の解説をそのまま用いています。『面接目標達成のために、カウンセラーがクライエントにどういう反応を重ねていくか。これがカウンセリングの技法論である』『カウンセリングの技法は理論・哲学・パーソナリティが三位一体になって具象化した反応のことである』 1.技法概説のまとめ 今回、これまで学んできたキャリアコンサルティングに用いる各種カウンセリ …