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基礎編・理論編

横山哲夫先生が逝去されて今年で6年になります

投稿日:2025年6月8日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年で6年になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に15年もの間先生の思想に基づいた養成講座を開催し続けさせてきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがありはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
先生には多くの著者がありますが、今回は「硬直人事を打破するために-人事管理自由化論」の中で、管理なき人事へ(人間の自由化)を掲載させていただきます。

人間を最も人間らしく特徴づけるのは、「創造的意欲」であろう。創造的意欲は人間が「自分は自由である。自主的に、主体的に働いている」と自ら感じている状態から生まれるものである。サラリーマンの仕事にはとうていそんな自由は望めない、とあきらめる人は、時に人間らしく生きよう、と思い立つとにわかに脱サラリーマンを真剣に考えたり、これが大学生となると、自由を束縛される企業への就職を敬遠したり引き延ばしたりしようとする者が出てくる。しかしサラリーマンの世界を、いちがいに自由のない、主体性無視の歯車のような生活だと決めつけてしまうのは早計にすぎる、と言いたい。自由で創造的な人事システムを展開させて、そのなかで人間が自律的に、主体的に働き、生きられるように真剣に取り組み、すでにその実践に踏みきっている企業が急速に増加しつつあるからである。それに私は日本のサラリーマン諸氏が、ほんとうにどれくらい自由を欲しているかについて実は疑いをもっている。

自由気ままさはほしいが、現実に自律的に生きてゆくとなるとあまり自信がもてない。つまり、時間的な束縛からの解放には無条件で賛成だが、精神的な束縛からの解放、つまり、他人から指示されることなしに自分の行動を自分で考え自分で決めていく、ということになると一人では心細い。こういうサラリーマンが実は断然多いのではないかとすら思う。「枠」があるうちはその枠に対して文句をいうが、その枠がはずれそうになるとそのあとどうしてよいかわからなくなる。つまり、もともと自律的に生きようとする心構えが欠けているということである。もちろん、これはサラリーマン諸氏だけが悪いのではなくて、彼らを他律の中に安住させてしまった企業組織の側により大きな問題があるというべきかもしれないが、ほんとうはもっと根源的な我々の伝統的な文化そのものに由来しているのだと思う。

いったい、自由主義の主たる要素である、個人の尊重が日本ではどれだけ認められてきたのだろうか。集団組織の利害に反する(おそれのある)ような個人の意見は始めから無視またはたちまち抹殺されるのが普通であって、世上、ほんとうの意味の個人主義はその主張の場を正当に与えられず、たちまち利己主義のレッテルを貼られ白眼視されるのが関の山ではなかったろうか。義務観念のみ旺盛で、権利の主張の少ない、勤勉な日本人であったからこそ、いまこのような国家的経済繁栄を築きあげることに寄与したという見方もあるのかもしれないが、問題はこれからである。人間ひとりひとりの自由、自主性の尊重をおろそかにしたまま、集団的機動力と勤勉さを主たる武器として、自分の国を現在のような経済大国に押し上げることに成功した我々日本人が、これからさきの国際社会で、いままでのやり方でどこまで押し通せるものか、はなはだ疑問というべきである。そもそも日本人が得意とする集団的行動が成立する基盤は、均一の文化、均一の民族、歴史の共有にある。高い精神的安定度と相互信頼、むだの少ないコミュニケーションはこの基盤から生み出されたものであり、これが時と場合に応じてすぐれた指導者のもとに結束して、強力な集団行動力の駆使と経済目標の達成を可能にした、という見方に私は同意する。しかし我々はいまや、異なった伝統と価値観をもつ欧来人と文字通り一線に並び、能力を競う国際競争社会に突入したわけである。外国(人)が日本(人)の常識、価値観に従って行動してくれるような錯覚に陥ってはならない。この原稿を書いているときに相次いで起こった政治、経済、外交上の事件(日中問題、通貨問題など)は、またしても我々の国際感覚の甘さを身にしみさせてくれた。

新しいタイプの日本人の出番が来た、と私は思う。他国の文化に対する豊かな共感力をもち、自分の考えで、個人として行動できる自律型人間が日本を代表して、ビジネスに、政治外交に、学問研究にリーダーシップをふるう時が来たと思うのである。そして、それにつけても、この産業社会におけるビジネスマンの一人として、長期的視野における新しい人材育成の責任を痛感する。せっかく、自分の意見を堂々と(たとえ未熟でも)述べることを身につけた若い人達の自律の芽を摘み、逆にあたかも他律の中に安住することを教え込もうとするようなことのないように心しなくてはなるまい。
(つづく)平林良人

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