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基礎編・理論編

横山哲夫先生の思想ー人間自由化の具体的展開 5

投稿日:2025年9月21日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は7回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「硬直人事を打破するために-人事管理自由化論」の中で、管理なき人事へ(人間の自由化)を説いている部分を紹介します。

モービルにおける人間自由化の具体的展開について述べる。
8 昇進の自由化
昇進が発令(または内示)されるとき、モービル石油には二種類の光景がみられる。これは主として発令する上司の側の態度によって分かれる、といってよい。そのひとつは、日本のどの会社でもよくみかける光景であって、発令者(上司)は権威と恩恵をただよわせた面持ちで「君を〇日付で〇〇長にすることにしたからね(俺が特におまえのことを考えてやったんだぞ、というニュアンスで)」という調子で申し渡しを行なう。これに対して発令を受けた当人は緊張と感激を適度に表わしながら「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう頑張ります」と申し述べることを期待されているわけで、事実、そういう具合に反応することが多いようである。

もうひとつのタイプ(モービルではこのほうが多い)は、「君は〇日付で〇〇長に任命されるチャンスがあるが、どうするか(ゃってみたいか、引き受けるか、など言い方はいろいろあるが、要するに、少なくとも決定したものとして言い渡すことはしない)」と、発令(内示)の前に本人の意思を確認するというステップがひとつ入ってくる。 昇進(したがって昇給)をよろこばない奴はいない、 と頭から決めてかかるのは人間軽視というものである。特に、一応の生活の安定が得られた後(管理者の場合には地位の安定も頭にある)の個人的な価値観、人生観は他人の想像とはだいぶ違っていることが少なくない。経済生活の向上と自律心の涵養が進んでいる現在、一方的で恩恵的な昇進発令が必ずしも無条件にはよろこばれない傾向があらわれつつあるように思う。モービル石油のように自律的、自主的に自分の人生設計を行なっている者が多いところでは、選択の余地のないような昇進発令のおしつけは時に迷惑に感ぜられるものである。

昇進(昇給を伴う)は社会的地位と経済生活の向上をもたらしはするが、同時にまた、心身の疲労の急増と私生活への仕事の侵入(特に管理者の場合)を伴うのが普通であり、その総合的評価 はまさに当事者個人の問題である。しかも、 一般には昇進を断わることは通常の日本人の感覚ではきわめて異例とみなされ、したがって当人は変わり者であるとか、会社の方針に反抗している―とさえ思われかねないのである。昇進の発令(内示)は事程左様に強制力をもっていることを否定できないからこそ、本人の意思、意欲を確認することなしに強制的発令を行なわない、という経営幹部側の意識の改革が必要であろうと思うのである。

昇進とは本来拡大された責任と権限にスリルとチャレソジを感ずるようなものであるべきである。そのような昇進は現実には管理職位においてしかみられないが、一般社員のレベルにおいても、たとえば大卒社員で営業関係分野にある場合、四等級の格付と、各等級ごとにおおよその責任の範囲、程度、および上司から受ける指示、監督の程度の区分がなされており、進級の速さは業績によって大きく異なる。一等級の標準勤務年数が示されてはいるが、これは単なるガイド以上のものではない。入社後大卒者(新卒者)が管理職位に任命されるまでの年数は通常九年ないし十二、三年を要しているが、場合によっては七年から十五、六年に及ぶこともある。一般社員の進級の場合は、責任や権限の拡大および昇給の額はめだって大きいものではないが、業績、能力の向上に対する会社の具体的な認識、評価の表われとしてモービルの人事管理システムの中での必要な措置としてうけとめられている。

モービルでは幹部職位への昇進が、学歴、年齢、勤続年数などに全く拘束されないことはいうまでもない。そのような自由な昇進が可能となるのは、職務先行の科学的な人事システムと、一部エリートの選別重用にとどまらず多くの社員の可能性に信をおく人材開発の思想がかなりよく理解されているからだと思う。

大卒新入社員に私はよくこう言う。 「会社は諸君を幹部要員として採用したのではない。高卒者にも幹部への道はちゃんと開けている。もちろん大学四年間の勉学と鍛練によって得られた(はずの)幅広い知識と人間性によって、幹部職位に早く到達する有利なスタートをきったことは間違いない。しかし、いまの時点で言えるのはそれだけである。何年度卒(入社)などというかたちでの取扱いが便宜上なされるのは最初の数年間だけである。権力やしきたりに負けない豊かな自律心と創意、および国際人として通用する文化的共感力と多元的な価値に対する適応力、これが責任ある地位を占めるためのキメ手であり、このような幹部として必要な基本的資質をいかにして早く身につけるか、それは諸君ひとりひとりの努力の問題である」と。
(つづく)平林良人

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