基礎編・理論編

キャリコンサルタント養成講座 64 | テクノファ

投稿日:2021年5月11日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリコンサルタントが知っていると良いと思われる「硬直人事を打破するために-人事管理自由化論」の中で、管理なき人事へ(人間の自由化)を説いている部分を紹介します。

モービルにおける人間自由化の具体的展開について述べる。
10 労使関係の自由化
労働組合の活動は成員の画一的平等のうえに成立し、よりよい労働条件を求めて展開する。
モービルのように社員の自由化と個別化に人事管理上の大きな特色を有する企業においても、そのような労働組合の存在とその意義は必ずしも理念的な矛盾を起こすものではない。なぜならば労働組合との交渉は労働条件の一般的基準をめぐって行なわれるものであり、他方会社は、短期的な業績の上下にかかわらず、上位一流の水準を維持するという建前を公約しているのであるから、組合の判断が労働条件に関する社会通念としての常識の範囲内にあるかぎりは、会社公約の線と大きな差はないはずである。問題は”上位水準”の内容、解釈に関する認定の方法をめぐっての論議による同意または妥協で解決されるはずのものである。

しかも人間心理(本能)として、人間は自分が安定感、親近感を見出すことのできる従属組織を求め、その組織と一体感、連体感をもとうとするものであるから、社員が労働組合にそのよりどころを求めるのは自由であり、人間の権利でもあると思う。企業という公式組織そのものが人間(社員)に安心感を与え忠誠心をよびおこすことには限度があり、特に若い世代では既成の(いわゆる体制内にある)公式組織に無条件で献身、貢献するという、従来、日本人の体質に強くあった帰属意識が急速に姿をひそめつつあることは、多くの識者によって指摘されているとおりである。

問題は二つあると思う。一つは企業の経営者の意識の問題で、その利己的な(企業の存続上、当然な)立場から、社員の企業に対する帰属心、忠誠心をどう鼓吹し、どう利用しようと考えるかであり、他の一つは従業員の知的レベルとともに集団欲(本能欲求)をどんな形で充足したがっているかを知ることであろう。

モービル石油は一般に労使関係については管理者、組合員いずれの間においても統一見解の得られにくいものであることを認め、したがってまた、ややもすれば労使の交渉と合意がご都合主義や便宜主義に流れて一貫性を欠いたり、職場における日常の労使慣行の積重ねが思わぬ方向に走ったりしやすいものであるから、こうした弊害を防ぐためにも次のような基本的指針を明らかにしてある。そのうちの主要なものは次のように述べられている。

―「従業員は組合をつくり、加入し、その代表を通じて意見を表明し、意見の実現をはかる権利を有する。」
当たり前といえば当たり前だが、組合をつくる、つくらない、加入する、しない、組織を改める、改めない、これらはすべて組合員の資格をもつ従業員が独自に決定できる、という会社の見方を確認したものである。会社がしっかりしているから組合はいらない、という意見は従業員の意見ならともかく、会社の意見ということならまったく無用の意見である。

―「組合に加入するかどうかを決めるに当たって、従業員は組合に加入することのもつ意義のすべてを知る権利と責任(少なくとも自己に対する責任)をもっている。その意義を知らしめるためには、会社と組合は同等の権利を有する。」

―「組合に加入することは、その一員としての権利と義務をもつことであるが、人間個人としての意思の表明と自由な行動はいかなる場合でも決して失われてはならない。」
組合がはじめて結成され、労働協約が結ばれて以来、いわゆるオープンショップの存続を会社が厳として守っているのはモービルの人事管理理念と深いかかわりがあるからである。個人尊重の強い信念に基づくものであるからである。このことは会社が自ら行なうべき反省にもつながるものである。すなわち、会社組織の中に従業員一人一人の自由な意見の表明を妨げる要因が巣くっているときは、従業員はその表明の場を会社組織以外の組織、たとえば組合にその場を求めるかもしれない。いずれにしても、人間はその属する組織・団体に身も心も売り渡してしまう、ということがあってはなるまい。

企業も、組合も、生きものである。経営責任者、組合のリーダーの考え方の変化によっては、たとえ生々活動する民主的組織であってもいつしか硬直した権力機構に化しかねない。会社は会社自身の反省を忘れないことと合わせて、労使関係という場にあっては、少なくとも従業員が組合に加入する自由、脱退する自由、組合員であることによって得られるもの、失うものをすべて知る自由をもつこと、その自由が保証されるようにとりはからう責任をもつと考えるのである。

―「組合員である従業員が自分の所属する組合に連帯感と帰属意識をもつのは当然である。しかしこれによって、従業員が会社に対してもつ連帯感と帰属意識が不当に妨げられるようなことがあってはならない。」
人間が自分の属する組織や集団に親近感、一体感をもつのは百の理屈も不要の、人間本能 (集団本能)の作用である。だからこそ人間は、自分の国、社会、家、学校、会社、組合などに多種多様の帰属意識、仲間意識をもつのであって、これらは本来相互に不利益をもたらすものではない。従業員として会社から得る便益を享受する気持と、組合員としての仲間意識とは決して利益を相殺するものではない。会社は従業員が組合に対してもつ正当で自然な帰属意識を故意に妨害してはならない。同時に組合は従業員が会社に対して抱く正当で、自然な帰属意識を破壊しようとしたり、故意に傷つけようとすべきでない。この二つの帰属意識の共存が成立するところに、従業員の利益の自然な共存が成立すると考えるのである。

均一の文化と単一の民族の歴史を長く有する我々日本人が多元的な価値観に不馴れであるのはやむを得ないことではあるが、センチメンタリズムを交えた、日本人独得の性急な二者択一的な行動様式からの脱却は、新しいタイプの、新しいリーダーとしての日本人の必須の資格要件となるものであろう。
(つづく)平林良人

 

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