キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、キャリアコンサルタントの成長モデルの考え方の、成長学習サイクルの部分を説明します。
1.成長学習サイクル
キャリアコンサルタント試験は、最低限必要な知識・技能の習得度を判定するものである。実務経験なく養成講習を修了し、試験に合格して資格を取得するという一般的なルートをたどる多くの資格者にとって、資格取得時点での能力水準はキャリアコンサルタントとしての入口に立った段階にある。
キャリアコンサルタントの質の向上に向けては、実務経験を積むこと、様々なネットワー クに所属して研鑽の機会を得ること、スーパービジョンや実力判定の機会を得て自らの成長課題を認識することに取り組みながら、更新講習によって知識・技能の維持・向上に努め、その上で資格更新を行うという学習の過程を自ら継続し、またこれを支援する環境を整備する必要がある。
何よりも実践の機会を得ることが成長のための基礎的要件であり、キャリアコンサルティングとその有効性を社会、とりわけ企業に周知することが重要である。そのうえで「実践→課題認識→学習→実践」の成長学習サイクルを、どの能力水準にあっても継続していくことが求められる。
成長学習サイクルにおける 「課題認識」はスーパービジョンを中心とする指導機会を通して行われ、「学習」は更新講習や事例検討会などの機会を通して行われるが、キャリアコンサルタントしての自らの水準と成長課題を正しく認識したうえで、必要かつ有効な学習機会や講習プログラムを選択することが重要である。したがってスーパービジョンや更新講習のレベルもまた、キャリアコンサルタントの能力水準に応じて質的に異なる内容が求められることになり、実施環境を整えていくと同時に学習者にわかりやすく示していく必要がある。
このようにしてキャリアコンサルタント資格者が到達した能力水準は、1級、2級の各技能検定試験によって判定され公的に証されることになるが、検定合格後も能力の維持・向上に向けてたゆまず学習を継続することは、変化し続ける社会、クライアントに対して質の高いキャリアコンサルティングを提供するための必須の条件である。
2.共通基盤学習と専門領域学習
キャリアコンサルタントは資格取得後、それぞれの勤務先や活動分野ごとに実践していくことになる。質の向上を実現していくためには、キャリアコンサルタント共通の基盤となる資質・能力と、それぞれの専門領域に求められる能力の両方を、継続して磨いていく必要がある。
(1)共通基盤を磨くための学習
第一の学習テーマは、働く期間の長期化等「働く」ことをめぐる大きな変化によって、これまで以上にクライアント個人の人生に深くかかわる相談が増えることから、対人専門職能として他者からの信頼を得て有効な影響力を行使できるだけの「人間力」を磨き続けることである。人間力の根底には、他者に対する誠実さ、真摯で謙虚な姿勢、あるいは人生や幸福に関する深い理解と洞察があることは言うまでもなく、「人間力」の向上は、キャリアコンサルタントへの信頼を生成するための基盤であり、最も重要な成長課題である。このテーマは、ツール、技法、テクニック等の習得では困難であり、キャリアコンサルタントとしての教養を高め続けるための研鑽の機会、そしてスーパービジョン等の全人的な教育指導を受ける機会を自ら求めることが重要である。
第二に、クライアントが自己理解を深め、問題や課題の解決に向けて主体的に意思決定できるように支援する能力を継続的に維持・向上していく必要がある。すなわち、クライアント特性の多様化や相談内容の複雑化、高度化が進む環境下にあっても、対話を通してクライアントが安心して相談できる信頼関係を築き、的確な問題把握を通して、必要かつ有効な方策を共に考えていくことができる能力の維持・向上である。これらはカウンセリングおよびキャリアコンサルティングプロセスの基盤である 「対話」と基礎技法に関する学習テーマであり、養成講習等の機会を通してこれらの基礎学習は修了している筈である。しかしながら、多くのキャリアコンサルタントが、実践を積む中で迷いをおぼえたり、知らず知らずのうちに望ましいとは言えない癖や偏りに陥る。これらを常に修正し、進化させ続ける必要があるという意味で、終わりのない学習テーマと言える。
このテーマは、特にキャリアコンサルタント資格取得後、少なくとも次回更新のタイミングまでに、経験が比較的浅いうちにスタートすることが望ましく、またテクニックや技法・ツールの学習にとどまらず、クライアントに向き合う姿勢と支援の本質を自らに問いかける内容であることが重要である。
更に技術の発達によって、面談手法という面からもAI活用面談や非対面型面談などが増加していくと考えられるが、新たな技術を面談に生かしていく観点での学習テーマも今後重要性を増すと考えられる。
第三に、キャリアコンサルタントに期待される役割変化、例えば労働法制、社会保障制度、 あるいはクライアント属性の多様化、シニア層に焦点を当てた学び直し支援の必要性といった環境変化を、タイムリーにキャッチアップすることが必要である。これらは経験の長さによらず常に更新される必要があり、最低限、知識講習等の機会によって実行される必要がある。
第四に、今後とりわけ重要になる基盤能力として、キャリアコンサルタントが自らの応答やクライアントとの関係を適切にモニタリングしてコントロールする「メタ認知能力」と、クライアントの問題を構造化してとらえ問題解決とクライアントの自律成長の双方に資する課題と方策を選択できる「見立ての力=問題解決能力」の2つがある。これらの能力を身に着けるには、キャリアコンサルティング技法の範疇を超えて心理学、認知科学や経営学などの幅広い学習が必要になると考えられる。
(つづく)A.K