基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 76 | テクノファ

投稿日:2021年6月19日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
底を流れる基本的な前提認識
問題に対する解決策が繰り返し成功を収めると,それが当然のこととして認められるようになる。直感や価値観によってのみ支持されていた仮説(hypothesis)が,しだいに現実のものとして認められるようになる。自然の世界はこのように機能しているとわれわれは信じはじめる。この意味で基本的な前提認識は,一部の文化人類学者が「主要な価値の尊重(dominant value orientation)」と名付けたものとは異なっている。主導的な価値尊重では,いくつかの解決案のなかから好ましいと考える解決案を選択することが主張されているけれども,その文化のなかにはなお数多くの解決案が目に見える状態で残っているのだ。また文化に属するすべてのメンバーはときによって,主導的な選択のみならず,代替的選択に沿って行動することも許されているのだ(Kluckhon & Strodtbeck,1961)。

本章で定義した基本的前提認識は,メンバー全員によって当たり前のものとして受けとめられており,またひとつの社会的ユニットにおいてもこれらの原則からの逸脱は認められない。この状況は,先にも述べたように一定の信条と価値観を実践して成功を繰り返したことから形成される。実際に,基本的な前提認識がグループ内で強力に保持されるようになると,ほかの考え方にもとづく行動は全く思いもよらないものとなる。たとえばグループ内の基本的前提認識が,「各個人の権利はグループ全体の権利を上回る」というものの場合,たとえある個人がそのグループの名を汚していた場合でも,その人物が(責任を感じて)自殺をしたり,グループのために何らかの方法で自分を犠牲にするといったことは全く考えもつかないこととなる。資本主義の国々では,財政赤字を垂れ流し続けるビジネス組織を作るということは全く考えられないし,さらに製品がうまく機能しようとしまいとお構いなしという経営は成り立たない。またエンジニアリングといった職業で,意図的に安全でないものをデザインすることなど,もってのほかということになる。ここでは「ものごとは安全であるべし」ということが当然のこととして認められているからだ。この意味で基本的前提認識は,アージリスとショーンが「稼働している理論(theories-in-use)」と名付けたものと類似している。実際に行動をガイドし,グループメンバーがどのように認識すべきか,思考すべきか,感じ取るべきかを指示する暗黙の前提認識なのだ(Argyris & Schon,1974,1996)。

稼働中の理論と同様に,基本的前提認識も挑戦や論争を許さない傾向を示し,したがってそれを変えることもきわめて困難となる。この領域で何か新しいことを学ぶ際には,われわれは,われわれ自身の認知構造のより安定した部分の一部を復活させ,再検討し,ときによっては変化させることが求められる。アージリスほかが「双環学習(double-loop learning)」,あるいは「枠組をこわす(frame breaking)」と呼んだプロセスである(Argyris,Putnam &Smith,1985;Bartunek,1984)。このような学習は,基本的前提認識の再検討によってわれわれの認知と対人関係の世界を一時的にせよ均衡を失わせ,基礎的な不安感を大幅に拡大させることから,本来的に困難なものとなる。

われわれはこのような高いレベルの不安感を我慢する代わりに,われわれを取り巻く出来事をわれわれの基本的前提認識に合致するものへ転換して認識しようと努める。たとえそれがわれわれのまわりで起こっていることを歪曲し,否定し,投げだし,ある意味で自分自身に対して偽わることになってもである。文化がその究極的なパワーを保有するのはこの心理的プロセスにおいてなのである。基本的前提認識とセットとしての文化は,われわれに何に関心を示すべきか,それが何を意味するのか,進行していることに感情的にどのように対応すべきなのか,さらにさまざまな状況でどのような行動を取るべきかをガイドしてくれる。われわれがこのような基本的前提認識の統合されたセット,言い換えると「思考の世界」または「メンタル(精神)マップ」を築き上げると,基本的前提認識において同一のセットを抱いているはかの人たちとはきわめて安心してつき合えるようになる。逆に,われわれが何が進行しているかきちんと理解せず,あるいはさらに悪いことにわれわれがほかの人たちの行為を間違って認識し,解釈したことから,全く異なった基本的前提認識が示されるような状況では,われわれはきわめて気まずく感じ,自分がぜい弱であると感ずる(Douglas,1986;Bushe,2009)。

人間の頭脳は認知における安定性を必要としている。したがって基本的前提認識に対する挑戦,あるいは論争は不安感と防御姿勢を増大させる。この意味で,グループの文化を生みだしている共有された基本的前提認識は,グループが継続的に機能することを可能にする「心理的な認知における防御メカニズム」として,個人とグループの両方のレベルにおいてとらえることができる。同時に,このレベルにおける文化はそのメンバーに,アイデンティティー(帰属意識)の基本的な感覚を植えつけ,さらに自己尊厳(self-esteem)を促す価値観を定義する(Hatch & Schultz,2004)。文化はそのメンバーに,自分が誰であり,お互いに向けてどのように行動し,自分自身にいかに自信を感ずるべきかについて教えてくれる。このような重要な機能を認識することを通じて,文化を「変えること」が何故それほど不安感を増大させることにつながるのかについてのわれわれの理解も促される。

無意識のうちに抱かれている前提認識がいかにデータを歪曲し得るかをたしかめるために,次の例を取り上げよう。もし,われわれが過去の経験や教育にもとづいて,ほかの人たちは機会があればいつでもわれわれを好きなように利用しようとすると信じていると,われわれ自身は利用されやすい存在だと認識して,ほかの人たちの行動をこの認識に合うような方法で解釈しがちなのだ。ある人物が自分の机でリラックスして座っているのを見ると,われわれは「重要な問題についてしっかり考えている」と言うよりは,「のらくら怠けている」というふうに解釈する。また仕事を休むと,「自宅で仕事をしている」と考えるよりは,「さぼっている」と考えがちだ。 もし上記のようなことが個人によって抱かれている前提認識に留まらず,組織文化の一部としてメンバー間で共有されている場合には,メンバーたちはこのような「怠けもの」の人たちをどう処遇するかを議論しはじめ,さらに人材をすべて自分のデスクで一所懸命働くように厳しくコントロールしはじめる。また従業員が自宅で仕事をしたいと申しでると,不信感を募らせ,従業員は自宅で仕事をさぼるに違いないと解釈して彼らのリクエストを却下する行動に走る(Bailyn,1992;Perin,1991)。

この反対に,われわれは誰もが十分にモティベートされ,有能だと考えている場合には,われわれはこの考え方にもとづいて,人材が自分のペースで,自分の好きなように仕事を進めることを促すようになる。もし誰かがデスクに静かに座っているのを見ると,われわれはこの人材は思考を巡らし,プランを練っていると解釈する。またこのような組織で,誰かが成果を挙げていないことが発見されると,その人物は怠けもので無能だとは解釈されずに,その人物と任された仕事の間にミスマッチが存在するのではないかというふうに解釈される。また従業員が自宅で仕事をしたいと申しでると,彼らが成果を挙げたいと願っている証拠として認められる。
(つづく)平林良人

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