基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 79 | テクノファ

投稿日:2021年7月4日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳したものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
オフィスレイアウトや会話のパターンを見ても誰がどの地位にあるのかを判別することはきわめて難しかった。また私は,地位に伴う特権は全く存在しないとも教えられた。たとえば個人用のダイニングルーム,特別に割り当てられた駐車スペース,特別の眺望を備えたオフィスは全く存在しなかったのだ。ロビーやオフィスに置かれた家具はあまり高価ではなく,かつ機能的であった。またDEC本社は,本社オフィス用に改造された,古い工業用ビル内に置かれていた。またほとんどのマネジャーと従業員が身につけているくだけた服装も,経済性重視と平等主義の感覚(センス)を強調していた。

私は,トップ経営層のティーム要請に応じて,コミュニケーションとグループとしての生産性を向上させることを支援するためにDECに招かれていた。私は,シニア経営陣のスタッフミーティングに出席しはじめると,きわめて激しいレベルの対人関係上の衝突,議論好き,対決が取り交されている様子にまず驚いた。グループのメンバーは,ちょっとしたきっかけできわめて感情的になり,お互いに怒りをぶつけ合っていた。しかし,そのような怒りはミーティングが終ったあとまで持ちこされることがないことに気づいた。

社長兼創設者のケン・オルセンを除いては,社員がいかに接するかという点で,目に見えて地位を表わす社員はほとんど存在しなかった。オルセン自身もその打ちとけた行動を通じて,パワーが備わる彼のポジションをとくに深く意識していないことを感じさせた。グループメンバーたちはお互いに議論し合うのと同程度にオルセンとも議論を繰り返しており,ときどきは彼の発言をさえぎることさえあった。しかし彼は,メンバーたちが何かを理解できていないとき,何かについて「間違って」理解していると感じたとき,彼がメンバーたちに教訓を与えるためのレクチャーをするときには,地位の差を明確に表明した。そのようなときのオルセンは,ほかのメンバーであれば決して見せないような感情の高ぶりを示した。

この企業,さらにこの種のミーティングに対する私の反応は,記録しておくべき「人工の産物」としてとらえられるべきだろう。トップ経営陣のミーティングに出席することは大変刺激的なことであったし,さらに私にとっては,機能不全と感じられるほどの行動をたびたび観察したことは大きな驚きでもあった。私が観察した対決のレベルは,私に不安感を生みだすほどであり,第1章の例で表現したように,これが本当は何を意味するのかを私が理解していないことを思い知らされた。しかしさらなる観察からの学習を通じて,ミーティングを進めるこのスタイルこそ当たり前のことであり,人々がコミティーに費やす時間が長過ぎると苦情を述べはじめるほどに,たびたびミーティングが開かれていた。同時にメンバーたちは,もしこの種のコミティーが存在しない限り,彼らは適切に仕事を遂行できないとも述べていた。

DECはマトリックス型に組織されており,このタイプの組織型を最初に取り入れた企業のひとつであった。機能組織と製品ラインを組み合わせた形を取っていたが,しかしそこには断え間ない組織変更,さらに「より生産性の高い」構造を求める必要が感じられていた。さらに組織構造は,自分が満足が得られるまであれこれいじくりまわすものととらえられていた。技術と経営の階層構造には数多くのレベルが存在していたけれども,この階層構造は単に便宜上作られたものであり,あまり深刻にとらえるべきものではないと考えられていた。一方,コミュニケーションのための構造はきわめて真剣に考慮されていた。すでに数多くのコミティーが作られていたし,新しいコミティーも続々作られていた。DECは世界中で稼働する充実したEメール網を築いていたうえに,つねにお互いに電話で連絡し合っていた。オルセンは,コミュニケーション不足やミスコミュニケーションを見つけると,怒りを爆発させた。またコミュニケーションや会話を促す一環としてDECは,数機の航空機とヘリコプターを所有する,自社版の「エアフォース」さえ築いていた。ケン・オルセン自身もパイロットの免許を持ち,レクリエーションのためにメイン州で休暇を取るときなどには自己所有の飛行機を操縦していた。

この企業で見いだされた,そのほかの人工の産物の例はのちに詳しく紹介するが,私自身がDECで遭遇したことに関する感触を伝えるためには,ここまでの記述で十分であろう。ここで生じてくる問いは,「これが一体何を意味するのか」という問いであった。私の感情的な反応はひとまず理解できた。しかし何故このようなことが発生し,企業のメンバーたちにどのような意味をもたらしているかについては全く理解が進んでいなかった。さらに理解を深めるためには,私は次のレベル,信奉された信条と価値観に歩を進めることが求められたのだ。
(つづく)平林良人

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