キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
前回に続き、初等中等教育の充実についてお話します。初等中等教育は、生徒が各自の興味・関心、能力・適性、進路等に応じて選択した分野の基礎的能力を習得し、その後の学習や職業・社会生活の基礎を形成することを役割としています。
◆キャリア教育・職業教育の推進
●キャリア教育の推進
○初等中等教育におけるキャリア教育の推進
日本社会の様々な領域において構造的な変化が進行しており、特に、産業や経済の分野においてその変容の度合いが著しく大きく、雇用形態の多様化・流動化に直結 しています。このような中で現在の若者と呼ばれる世代は、無業者や早期離職者の存在等に見られるように「学校から社会・職業への移行」が円滑に行われていないという点において困難に直面していると言われています。
こうした状況に鑑み、子供たちが、「働くことの喜び」や「世の中の実態や厳しさ」等を知った上で、将来の生き方や進路に夢や希望を持ち、その実現を目指して、学校での生活や学びに意欲的に取り組めるようになることが必要です。そのためには、「学校から社会・職業への移行」を円滑にし、社会的・職業的自立に必要な能力や態度を身に付けることができるようにするキャリア教育を推進していくことが重要です。小・中・高等学校の学習指導要領においても、キャリア教育の充実を図ることについて明示されています。このようなキャリア教育を推進するため、文部科学省では、キャリア教育の実践の普及・促進に向けて様々な施策を展開しています。例えば、児童生徒が自らの学習活動等の学びのプロセスを記述し振り返ることのできるポートフォリオ的な教材である「キャリア・パスポー ト」について、活用を促すとともに、中学校・高等学校 キャリア教育の手引きを改訂し、文部科学省のウェブサイ トに公開しました。 また、
①チャレンジ精神や他者と協働しながら新しい価値を創造する力など、これからの時代に求められる資質・能力の育成を目指した、小・中・高等学校等における起業体験の推進
②厚生労働省、経済産業省と連携した「キャリア教育推進連携シンポジウム」の合同開催
③キャリア教育の充実・発展に尽力し、顕著な功績が認められた学校、教育委員会等に対する「文部科学大臣表彰」や、学校、地域、産業界、地方公共団体等の関係者が連携・協働して行うキャリア教育の取組に対する 「キャリア教育推進連携表彰」(経済産業省と共同実施)を実施し、先進的な取組を全国へ普及・啓発等を通じ、児童生徒の社会的・職業的自立に向けた取組を推進しています。
●職場体験、インターンシップ(就業体験)等の体験活動の推進
職場体験やインターンシップは、生徒が教員や保護者以外の大人と接する貴重な機会となり、①異世代とのコミュ ニケーション能力の向上が期待されること、②生徒が自己の職業適性や将来設計について考える機会となり主体的な職業選択の能力や高い職業意識の育成が促進されること、③学校における学習と職業との関係についての生徒の理解を促進し学習意欲を喚起すること、④職業の現場における実際的な知識や技術・技能に触れることが可能となることなど、極めて高い教育効果が期待されます。このため、キャリア教育の中核的な取組の一つとして、学校現場における職場体験、インターンシップの普及・促進に努めています。
公立中学校における職場体験は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和4年度の実施率が54.1%と、 3年度の実施率28.5%より回復したものの、依然として実施率が低下しています。また、公立高等学校(全日制及び定時制)における4年度のインターンシップ実施率は66.2%と、3年度の実施率52.9%より回復したものの、職場体験と同様に、依然として実施率が低下しています。職場体験やインターンシップには、高い教育効果が期待される中、実施率の向上が今後の課題となります。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
●職業教育の推進
○専門高校における職業教育の現状
高等学校における職業教育は、農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉の専門高校を中心に、我が国 の産業経済や医療・福祉の発展を担う人材を育成する上で、大きな役割を果たしています。令和5年5月現在、専門高校の数は1,459校、生徒数は約50万人であり、高等学校の生徒数全体の約17.1%を占めています。また、生徒の進路状況は、4年3月卒業者のうち、大学などへの進学者約25.2%、専門学校などへの進学者約25.6%、就職者約46.7%と多様です。
◆いじめ・不登校等の生徒指導上の諸課題への対応
■生徒指導上の諸課題
●生徒指導の在り方
生徒指導は、全ての児童生徒を対象として、学校のあらゆる教育活動の中で、それぞれの人格の健全な発達・成長を目指すとともに、現在及び将来における自己実現を図っていくために、児童生徒が自らを導いていく能力を育成すること、そして、学校生活が有意義で興味深く、充実したものになることを目指して行われています。 一方、いじめの問題や少年による重大事件などは教育上の大きな課題となっています。文部科学省では、毎年度、各都道府県教育委員会等を通じて調査を行い、暴力行為、 いじめ、不登校などの生徒指導上の諸課題の実態把握に努めています。令和4年度の調査結果では、小・中・高等学校における暴力行為の発生件数は約9万5,000件、小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は約68万1,000件、いじめの重大事態の件数は923件、小・中・高等学校における不登校児童生徒数は約35万 9,000人となっています。 学校においては、日常的な指導の中で、教師と児童生徒との信頼関係を築き、全ての教育活動を通じて規範意識や社会性を育むきめ細かな指導を行うとともに、問題行動の未然防止と早期発見・早期対応に取り組むことが重要です。また、問題行動が起こったときには、粘り強い指導を行い、指導を繰り返してもなお改善が見られない場合には、出席停止や懲戒等の措置も含めた毅然とした対応を取るとともに、問題を隠すことなく、教職員が一体となって対応する必要があります。さらに、教育委員会は学校を適切にサポートする体制を整備すること、そして、家庭や地域社会、警察・法務局・児童相談所等の関係機関の理解と協力を得て地域ぐるみで取り組む体制づくりを進めていくことが重要です。報道等において、学校における校則の見直しや校則に基づく指導に関し、一部の事案で、必要かつ合理的な 範囲を逸脱しているのではないかといった指摘がなされています。こうした状況を踏まえ、文部科学省では、「校則の見直しについて」(令和3年6月8日付け 初等中等教育局児童生徒課事務連絡)を各教育委員会等に発出し、校則の内容は、社会の常識や時代の変化等を踏まえ、校長の権限のもとで絶えず積極的に見直さなければならないことや、児童生徒が主体となって校則の見直しに取り組む学校 や教育委員会の取組事例を周知しました。 さらに、文部科学省では、生徒指導上の諸課題の深刻化 やいじめ防止対策推進法等の関連法規の施行等を踏まえ、令和4年12月には、学校・教員向けの生徒指導の基本書である「生徒指導提要」を改訂し、その改訂内容の現場への周知を進めています。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
●いじめ防止対策
いじめ防止対策推進法(以下「法」という。)においては、いじめは「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(イ ンターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものと定義されています。個々の行為 が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的にすることなく、いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要です。 いじめ問題については、まず、「いじめは絶対に許されない」との意識を社会全体で共有し、子供を「加害者にも、被害者にも、傍観者にもしない」教育を実現することが必要です。また、いじめ問題に適切に対処するためには、子供たちの悩みや不安を受け止めて相談に当たることも大切です。
令和4年度、全国の国公私立の小・中・高等学校 及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は約68万 1,000件、いじめを認知した学校数は約2万9,000校で学校総数に占める割合は約82.1%となっており、いじめの重大事態の件数は923件となっています。 これを受けて、文部科学省では、令和5年10月に「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」を策定し、いじめの早期発見・早期支援に資するため、1人1台端末等を活用した「心の健康観察」の推進や、国の個別サポートチームの派遣による自治体支援等を緊急的に進めています。いじめ は、どの子供にも、どの学校にも起こり得るものですが、いじめの認知件数については、問題行動等調査における 1,000人当たりの認知件数の都道府県間の差が大きく、実態を正確に反映しているとは言い難い状況にあります。このため、文部科学省としては、いじめの認知件数が多い学校について、「いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている」と極めて肯定的に評価し、いじめの積極的な認知を徹底するよう促しています。
(つづく)Y.H