キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

製造業を巡る現状と課題  製造業DXの必要性

投稿日:2026年3月10日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド32ページ「製造業DXの必要性」について解説をします。

(出典)経済産業省 016_04_00.pdf

このスライドが言いたい結論:DXは「効率化」だけでなく「事業拡大」の手段

このスライドの核は、とてもシンプルです。
製造業のDXは、
①業務を全体最適にする(ムダ・ムラ・重複を減らし、QCDを上げる)ためだけではない
②事業機会そのものを広げ、成長の打ち手を増やすためにも必要だ
――という主張です。

スライド冒頭の箇条書きでは、製造業DXの狙いが二段に整理されています。
① 業務の全体最適
■エンジニアリングチェーン(EC)の最適化
■サプライチェーン(SC)の最適化

② 事業機会の拡大
■規模拡大
■サービス化・プラットフォーム化

ここで大事なのは、DXを「現場のIT化」「工場の自動化」といった狭い話に閉じないことです。DXとは、情報(データ)で仕事をつなぎ直し、会社全体の動き方を変えることです。だから、結果として「QCDの改善(守り)」だけでなく、「新しい稼ぎ方の獲得(攻め)」にも直結する――それがこの1枚の狙いです。

左側の表が示す4分類:DXは“段階”ではなく“両輪”
左の表は、DXの典型的な効果を4つに分け、それぞれ代表例を挙げています。見方のポイントは、①②が「業務の全体最適(効率・品質)」、③④が「事業機会の拡大(成長・拡張)」に対応している点です。

① EC最適化(設計・生産・保守などをデジタルでつなぎ、QCD向上)
事例は Siemens(シーメンス)社。ドイツのアンベルク工場で、AIやクラウドなど最新のデジタル技術を、設計・生産・検査工程へ導入した例が示されています。スライドでは、次のような成果が具体的に書かれています。

■2018年までの28年間で、生産スペースや人員をほぼ変えずに、生産性は約13.5倍
■不良品数が1/60以下に減少
■さらに、1日350回の生産変更で、1,200種の製品に対応(多品種・変種変量への対応力)

ここが非常に重要です。製造現場では、製品が多品種化し、変化も早くなっています。つまり「同じものを大量に作り続ける」時代よりも、変化に強い工場が勝ちます。
DXが効く理由は、熟練者の勘や属人技能だけに頼らず、設計から生産、検査、設備状態までをデータでつなぐことで、変化に強い“仕組み”を作れるからです。

② SC最適化(調達・生産・販売などのSCをデジタルでつなぎ、QCD向上)
事例は Volkswagen(フォルクスワーゲン)社。MicrosoftやAmazonと連携し、1,220工場、30,000施設、1,500のサプライヤーをクラウドで接続し、生産性と利便性を向上させたとあります。
ここでのメッセージは、「サプライチェーンは会社の外まで広がっており、全体像が見えないと最適化できない」ということです。原材料不足、物流遅延、地政学リスク、需要の急変などが当たり前の時代に、SCが“見えない”状態だと、現場は毎回火消しになります。
DXはこの“見えない”状態を、“見える・予測できる・先回りできる”状態に変える土台です。

右側の図表が核心:DXが「事業拡大」を可能にする仕組み
スライド右側には、「デジタルによる事業効率化・事業拡大」という見出しがあり、次の2点が箇条書きで述べられています。

①デジタルドリブンで業務の最適化が図られる
②製造プロセスに関する技術・ノウハウを標準化・デジタル化することで、移転・コピーが容易になり、迅速に横展開できる

ここが、このスライドの“最も言いたいところ”です。
単にECやSCをデジタル化して効率を上げるだけではなく、製造プロセスそのものの技術
(やり方)をデジタル化して資産化する。すると、その技術は工場や拠点、人が変わっても再現できるようになります。これが「事業機会の拡大」につながります。

図の読み方:縦軸と横軸
■縦軸:業務の全体最適(低→高)
■横軸:事業機会の拡大(低→高)
左下に「非デジタル」、中央やや左に「デジタルドリブン」が描かれ、そこから右上へ太いオレンジ矢印が伸びています。つまり、DXを進めると、会社は「業務最適」も「事業拡大」も同時に高められる方向へ進む、という構図です。

「アナログの壁」とは何か
図中に赤い点線で「アナログの壁」が引かれています。上側にはこう書かれています。
■EC・SCは硬直的。 また、ヒトを通じたノウハウ移転で事業拡大しづらい。

つまり、ECやSCの改善だけをしても、そこに“アナログ”が残っていると、伸びが止まる、という指摘です。
ここでいうアナログとは、紙やExcelの話だけではありません。もっと本質的には次のような状態です。
① ノウハウが人の頭や経験に依存している(暗黙知のまま)
② 工場ごと・部門ごとに「やり方」が違う(標準がない)
③ 変更や改善が、個別最適でバラバラに起きる(横展開できない)
④ 他拠点に移すとき、結局“人が張り付いて教える”しかない

この状態では、たとえ一つの工場で成果が出ても、別の工場にコピーできません。だから事業拡大(拠点増、増産、海外展開、委託生産など)が遅くなります。スライドが言う「壁」とは、“人の頑張り”で回している限り、伸びが止まる限界線のことです。

壁を越える条件:製造プロセス技術の「デジタル化」
図の右下には、こう書かれています。
■デジタルを活用したEC・SCの最適化に加え、製造プロセスに関わる技術をデジタル化し、事業拡大が可能。
ここが最重要ポイントです。
DXの本丸は、基幹システム刷新だけでも、IoT導入だけでもありません。製造プロセス技術(工程条件、検査基準、段取り、設備能力、品質の作り込み方など)を“再現可能な形”に変えることです。再現可能になると、次のことが起こります。

① 新工場立ち上げが早くなる(立上げの教科書がある)
② 海外・委託先でも品質を揃えやすい(標準がある)
③ 設備投資の意思決定が速くなる(能力・稼働・損失が見える)
④ 新製品の量産移管が速くなる(設計~製造がデータでつながる)
⑤ “現場の強さ”が企業資産になる(属人ではなく仕組みになる)

つまりDXは、単なるIT導入ではなく、製造業が得意としてきた現場力を「会社の資産」に変換する装置なのです。
規模拡大、サービス化・プラットフォーム化:成長のスイッチ
表の③④は「事業機会の拡大」に該当します。

③規模拡大(標準化・デジタル化でスピーディにスケールする)
事例は 平田機工。ラインビルダーとして、標準モジュール等のコア製造ソリューションを持ち、これを標準化して効率的なスケールアップを両立、さまざまな製造ラインを手掛け、顧客(OEM)の生産拡大に寄与している、という内容です。
ここでの示唆は、「規模拡大は“設備を増やす”だけではなく、“標準を持つ”ことで速く安全に増やせる」ということです。標準がない拡大は、拠点やラインが増えるほど品質ばらつきとトラブルが増え、経営は複雑になります。標準とデータがある拡大は、増えるほど学習が蓄積し、強くなります。

④ サービス化・プラットフォーム化(製造技術を“他社展開”できる)
事例は Vinfast。BMWの車体ライセンスを購入し、BMWが活用したラインビルダーを用いて同様の生産ラインを構築、創業21か月で工場稼働、2025年までに年50万台を製造する計画とあります。
ここは「製造の仕組みを借りて、短期間で立ち上げる」例ですが、裏側にあるのは、製造技術・工程設計・品質保証が“パッケージ化”されているから可能だという点です。
製造技術がデジタルで標準化されていれば、サービスとして提供したり、プラットフォームとして他社に横展開したりしやすくなります。これが、従来の“モノ売り”から、“製造能力を価値として提供する”方向への転換です。

経営層・管理職・一般社員それぞれの理解ポイント
このスライドは一枚ですが、読む立場で刺さるポイントが違います。社内の啓蒙では、立場ごとに「自分ごと化」させることが大切です。

①経営層が押さえるべき点
 DXはコスト削減ではなく、全体最適と事業拡大の両輪
■アナログの壁は「投資不足」より「仕組み不足」(標準化・資産化不足)
■何をデジタル資産にするか(工程条件、検査、設備能力、原価、需給、技能)を定義し、投資の優先順位を決めることが経営の仕事

②管理職が押さえるべき点
■部門最適のIT導入ではなく、横展開できる標準を作る
■「人が教える」から「仕組みが再現する」へ(属人の縮小)
■現場改善を“データで残す”ことが、将来の拡大を可能にする
■部門間(設計・製造・品証・調達・物流)の言葉をそろえるのが管理職の役割

③一般社員が押さえるべき点
■DXは現場を否定するものではなく、現場の強みを“会社の資産”に変えるもの
■入力の手間が増えると感じることがあるが、それは「再現性を作る」ための投資
■自分の工夫や改善が、別の拠点でも役に立つ形で残れば、会社の成長に直結する

まとめ:製造業DXとは「コピーできる強さ」を作ること
このスライドを一言でまとめるなら、こうです。
製造業DXとは、業務を最適化するだけでなく、製造プロセス技術を標準化・デジタル化して、移転・コピー・横展開できる形に変え、事業拡大を可能にする取り組みです。

つまり、DXの最終ゴールは「便利なシステム」ではなく、“強さが再現できる会社”です。強さが再現できれば、拠点が増えても、製品が増えても、海外に出ても、品質と効率を維持しながら成長できます。
逆に、再現できない強さ(人に依存する強さ)は、アナログの壁にぶつかり、どこかで成長が止まります。

このスライドは、その“壁”を越えるために、EC・SCの最適化にとどまらず、製造プロセス技術のデジタル化まで踏み込む必要がある、と強く訴えているのです。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

海外進出日本企業で働く人々_イギリス_社会保障施策

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。今回は、英国の社会保障施策についてお話しします。 英国は、2016年の国民投票の結果を受け、2020年EUを離脱しました。この間、社会保障に関して大きな制度改革は実施されていません …

日本の環境の保全と創造 2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、環境の保全と創造についてお話しします。環境保全とは、自然環境や生態系を保護し、持続可能な状態を維持するための取組みのことです。保全の目的は、自然資源の持続可能な利用や再生、生物多様性の保全、大気や水の浄化、エネルギーの効率的な利用などです・これらにより、地球上の生態系のバランスを保ち、将来世代に美しい環境を受け継ぐことができます。 ○海運における省エネ・低脱炭素化の取組み 国際海運分野においては、令和5年7月に 国際海事機関(IMO)において我が国の提案をベースとした「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を目標とする新た …

製造業を巡る現状と課題 製造業企業の状況

キャリアコンサルタントに有用な情報をお伝えします。 日本の製造業が置かれている構造的変化を企業行動の観点から読み解き、グローバル化の進展とその影響が、どのように企業の売上、利益、そして雇用構造に反映されているのかを解説します。 (出典)経産省 製造業を巡る現状と課題今後の政策の方向性2024年5月製造産業局 – 検索 ◉1.グローバル化の進展:日本企業の海外売上比率が世界を上回る まず注目すべきは、日本の製造業大手企業の「海外売上比率」である。かつては、欧米企業の方が積極的に海外市場に展開していると捉えられていたが、図表によれば2013年には日本企業が米国企業を逆転し、現在では海外 …

学校教育 文部・科学技術施策の展開

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 初等中等教育は、生徒が各自の興味・関心、能力・適性、進路等に応じて選択した分野の基礎的能力を習得し、その後の学習や職業・社会生活の基礎を形成することを役割としています。今回は、初等中等教育の充実についてお話しします。文部・科学技術施策の展開についてみていきたいと思います。 ◆初等中等教育の充実 文部科学省は、教育機会の確保や教育水準の維持向上のため、学習指導要領が目指す教育の実現、学校における働き方改革の推進科学技術系人材を育成するための理数教育の推進、グローバル人材の育成に向けた教育の充実、キャリア教育・職業教育の推進、高等学校 …

組織パフォーマンス最大化に「人材という資本」を活かす3

キャリアコンサルタントの皆さん方に有用な情報をお伝えしています。 3)WHYと期待をしっかり伝える 人的資本経営において、メンバーに仕事をアサイン(渡す)するときは、WHAT(何をするのか)やHOW(どのように進めるのか)だけでなく、WHY(なぜその仕事を行うのか)を伝えることが重要です。 WHYが明確になることで、仕事に向き合う動機づけが高まります。 WHYを伝える際には、次の3つの視点が有効です。 ① キャリアプランの視点 その仕事が本人の将来像につながるものであると理解できるようにし、仕事を通じてキャリアのイメージが持てるよう支援します。 ② 働く動機の視点 メンバー一人ひとりの働く動機 …