基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 86 | テクノファ

投稿日:2021年7月22日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
両社ともに家族であることが語られてきたが,家族という言葉に伴う意味はそれぞれの企業で全く異なっていた。DECではその基本的な前提認識は,家族メンバーたちは戦うことができるけれども,メンバーはお互い愛し合い,メンバーの資格を失うことはない,というものであった。チバ・ガイギーの前提認識は,両親の権威が尊重されるべきであり,子供たち(従業員や部下のマネジャーたち)はルールにしたがって行動し,その両親に従うべきだ,というものであった。もし彼らがそのように行動すると,両親から十分に処遇され,世話をされ,支援されることが期待できた。DECでは終身雇用は暗黙の了解であったけれども,一方チバ・ガイギーではそれは当然のものとして受けとめられ,インフォーマルに保障されていた。それぞれのケースでこの家族モデルは,それぞれの企業が存在する国のマクロカルチャーのより広範な前提認識を反映して作られていたのだ。

チバ・ガイギーのパラダイムを理解したあと,私自身はコンサルタントとしてどうしたらより効果的に行動できるのかを判断することが可能となった。私はさらに多くのマネジャーに会い,彼らが成し遂げようとしていることに適切な情報を集めると,チバ・ガイギーの組織のさまざまな部署に私の接点に当たるロイポルト博士を通じて私のメモを送りつけるのではなく,もし私が直接的に関係するマネジャーに情報を提供すれば,たとえそれが望ましい情報でなくともしっかり受けとめてもらえることを学んだ。それは私が「専門家」であったからであった。またその情報を組織内に回覧してもらいたい場合には,私自身の率先行動として適切なグループに直接その情報を送るか,あるいは組織の下部にまで情報を浸透させたい場合には,まずその上司に情報を送り,さらにその情報は組織の下部の人たちにも有益であることをその上司に納得してもらうか,の方法が可能であった。またマネジャーたちに今までとは違った方法で行動してもらうといった本格的なインターベンション(介入)を実現したい場合には,専門家の立場を活かして,CEOのサム・コクリンにフォーマルに提案することによってこの種のインターベンションを成功に導くことができた。もし彼が私の提案を認めたときには,彼自身が彼のもとの「部隊」にそれを実行するように命令することとなった。たとえば,私は「キャリア・アンカー」についてレクチャーを提供したことがあった。そこでは,組織内のさまざまな個人は,それぞれで異なるコアの価値観にもとづいて自分のキャリアを築いており,さらに各職務はそれに伴う責任ではなく,その役割ネットワークを反映して記述されるべきだ,と提案した。コクリンはただちに,企業のトップを含めたいくつかの階層において,このキャリア・アンカーに伴うエクササイズを実行し,かつ自分たちの役割ネットワークを分析すべし,と命令を下したのだ(Schein,1978,2006)。

チバ・ガイギー文化に含まれるほかの側面は後の章で詳しく検討する。たとえば,彼らの我慢強さ,時間に対する厳格な態度,また彼らの普段の堅苦しい態度と,組織挙げての「行事」における遊び心とくだけた態度を発揮する能力等は,いかに彼らが職務を完遂するのかを理解するうえで重要な側面であった。

本章の要約と結論
上記のケース分析を通じて,組織文化はいくつかのレベルごとに分析可能であることを指摘した。つまり(1)可視的な人工の産物,(2)信奉された信条,価値観,ルール,行動上の規範,(3)目に見えにくい,当然のものとして受け留められている,基本的な底流の前提認識の3つのレベルである。私の主張は,あなたが基本的前提認識のレベルに至るまで深く分析しないと,人工の産物,価値観,規範を正しく理解することはできない,というものだ。一方あなたがこれらの基本的前提認識の一部を見つけ出し,その相互関連性を探求すれば,文化の中核に迫ることが可能となり,さらに現在進行していることの多くの部分を説明することが可能となる。この文化の中核は,固く結ばれ,相互に調整された基本的前提認識のセットの力によって一部の組織が機能しているパラダイム(枠組み)として分析可能となる。個別にはあまり意味をなさない場合でも,それらが生みだすパターンを通じて,組織が外的,内的なチャレンジを克服する行動とその成功を説明することができる。

ここで私は文化の一部の要素を記述することに留めた。何故ならこれらの要素は,その組織が達成したいと願う主要なゴールに深く関連しているからだ。しかし,これらのパラダイムが文化全体を記述するものととらえてはいけないし,一部のパラダイムが組織内のいずれの部分でも機能していることを見いだすことができるととらえることも許されない。それらの前提認識の普遍性は詳しく研究され,検証されたうえで決定されなければならないのだ。
私はこの種の基本的前提認識を私自身の観察,さらに私が観察した変則的なことがらに対する,内部の情報提供者との探求を通じて見つけ出した。何かわれわれが理解できないことが出てきたときこそ,何故われわれが理解できないのかを厳しく探求すべきときであり,またこの探求のための最善の方法は自らの無知とうぶさを大いに活かす方法なのだ。

これらのケースから学べる教訓はいかなるものか,リーダーシップに対してどのような意味を持つのか?私にとっての最大の学習は,文化は深く,広く浸透し,複雑で,パターン化され,倫理的には中立的であるという理解であった。ふたつのケースでは,ものごとを遂行するうえでの正しい方法と間違った方法に対して私自身が抱く文化的偏見を克服することが求められた。文化は単にそこに存在するものであることを学んだ。また両社とも,自分たちが属する技術的,政治的,経済的,さらに広範な文化的環境において長い間成功を収めてきた。しかし両社とも,独立した経済的存在としての消滅を招いた,厳しい環境変化に遭遇してきた。これらの経済的困難を生んだ側面で両社の文化が果たした役割については後の章でさらに詳しく検討する。

両方のケースで,初期のリーダーたちと歴史的状況からの強い影響が色濃く観察できる。その文化的な前提認識は初期のグループの経験,さらにこれらの企業が経験した成功と失敗のパターンのなかにルーツを発見することができる。現在のリーダーたちもその文化を強力に評価し,誇りを感じ,さらにその組織のメンバーたちがこれらの基本的前提認識を守り続けることが大切だと感じている。両社において,企業が運用されている方法を好きになれずに社を去った不適応の人たち,あるいはあまり建設的でない,ないしは最初から企業になじめないという理由で採用に至らなかった人たちについての物語も語り継がれてきている。
どちらの企業でもリーダーたちは変転する環境からの要求と戦い続け,さらに彼らの経営の方法を向上させ,変革するためにいかに行動すべきかという課題に直面していた。しかし当初これは文化の変革ではなく,既存の文化の一部の再確認というように定義されていた。両社はそれぞれその成長の異なった段階に位置していたけれども,両社ともその文化を重要なアセットと評価しており,一所懸命それらを保持し,補強しようと努力していたのだ。

最後に,両社とも彼らが経営を続ける国の文化と彼らのビジネスを下支えするテクノロジーを尊重していた。DECは創造的な電子エンジニアが全く新しいテクノロジーを築き上げた米国企業であった。チバ・ガイギーのほうはスイスとドイツの企業であり,数多くの高度な教育を受けてきたケミカルエンジニアの企業であり,彼らはきわめて古いテクノロジー(染色)ときわめて新しいバイオケミカル技術(製薬)の両方に取り組んでいた。電気回路と化学プロセスでは,それぞれ全く異なった製品開発のための方法論とタイムテーブルが要求される。この事実は私に対して関係者からたびたび指摘された。ここでの重要な意味は,文化というものはそのコアのテクノロジー,組織メンバーの遂行している職業,組織が存在を続けているマクロカルチャーの環境を検討しない限り,十分な理解には達しないというものであった。
(つづく)平林良人

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