実践編・応用編

うつ病を自覚したクライエント I テクノファ

投稿日:2020年5月25日 更新日:

仕事や人間関係に行き詰まり、自分がうつ病であることを自覚しないままキャリアコンサルティングの面談に訪れる人が多くなっています。厚生労働省のサイトによると、うつ病など気分[感情]障害(躁うつ病を含む)患者は、平成14年は71.1万人、平成29年は127.6万人と16年で倍近くまで増加しています。 この数値の伸びに比例するようにうつ病の症状のある人との面談の機会が増えてきたということでしょう。

今回はうつ病を発症した人との面談事例を紹介します。相談者は30代後半の女性Aさんです。Aさんとは以前にも面談したことがあります。当時の面談内容は次のようなものでした。

Aさんは、新卒で地元の中堅企業に勤め、庶務作業を長年にわたり行っていました。勤めていた企業は、中堅企業にはよくありますが、明確なステップアップの規定はなく、特に女性社員に対してはその傾向が顕著なものでした。

年に2回、上司との面接で目標設定と成果確認を行う人事評価制度はありますが、そのことが機能していないとAさんは感じていました。Aさんは、会社内の他の女性社員と比べて、仕事面給与面で差がつくこともないので特に不満もなく、仕事に対する特別な思いもなかったようです。しかし部署の異動をきっかけにしてキャリアコンサルの面談を思い立ちました。

Aさんが異動した先は、社内の業務をコンピューターシステム化して維持管理する部門で、女性はそこでも庶務作業を行っていましたが、職場内の自分の作業と他の人の作業に違いがあることに違和感を持ち、庶務作業だけでこの先もやっていけるのかという漠然とした不安を抱き、面談を希望しました。

面談を思い立った時点で、本人に何かしないといけないという思いがあったため、面談によりその思いを明確な行動目標にし、目標達成のために具体的な手段を考えることができたと喜んでいました。

その後Aさんは目標を具体化するために、新しい職場で庶務作業のかたわら、運用している会計システムを維持管理できるように、簿記の講習を受け簿記資格をとる、減価償却のシステムを維持管理できるように、減価償却制度を学ぶ、またコンピューター言語を習得し、プログラムの解析や作成を行うなどしてコンピューターシステムの維持管理業務を行うなど、着々と新しい世界を開いているようでした。

Aさんから最近また面談依頼があり、次のステップへの手伝いができればと思っていました。今回の面談の主な内容は、前回の面談以後は目標設定しそれを実現するために行動してきたが最近は何をしたらよいか考えられない、今までのように仕事を続けていくことが出来なくなってしまったように感じるため、以前のような前向きな感覚を取り戻したいというものでした。

以前の面談記録を参考に、その時の面談内容、面談後の目標達成の成果について語ってもらうなどして、自信をもって次のステップに進めるようにしましたが、話が普段の生活面になった時に不眠、食欲がない、疲労感がある、意欲がわかないなどの話がAさんから聞かされました。その後Aさんは不眠、食欲がない、疲労感などを主訴として通院しましたが、仕事に対しての意欲低下、不安感があることを担当医に伝えて、心療内科等を受診し、初めてうつ病であることを告げられました。Aさんがうつ病に至った経緯は定かではありませんが、面談中の話題の中に発症要因の一つではないかと推測する事項がありました。

Aさんは、前回の面談後になりたい自分を目指して、着実にキャリアアップしてきたことはすでに書きましたが、その時の面談で注意点として高い目標設定をすることはよいが、そこに至るための過程の目標実現手段は無理のないもので何度でも見直しができるものを設定し、また見直しを行うよう話をしてきました。

Aさんはそれに従い、目標、実現手段などを自己管理してきました。ところが新しくその職場に異動してきた管理職の上司が、職場の活性化を図るために、コーチングの手法を取り入れるという方針を打ち出しました。方針はよかったのですが、問題はこの管理職が、本から得たうわべだけの知識をもとにコーチングと称して行動したことにありました。

その結果、その職場では自己評価を下げるに至ったメンバーの中から退職者まで出すという結果を招いてしまったようです。Aさんも誤ったコーチングを受け、自分にはなにもできそうもないと思い込むまでに追い詰められたことが、うつ病を発症する1つの要因になったのではないかと推測しています。Aさんはこのような状況で、以前面談を受けたことで前向きになれたことを思い出して、実際に面談に来ることができたため、うつ病に気が付くことができました。この事例のように自分がうつ病であることに気付かずに、仕事や生き方に行き詰まりキャリアコンサルティングを受けようとする人がいることにも注意しなければなりません。このような場合には早く気付いて適切なアドバイス(キャリアコンサルタントは自分で踏み込まず専門医に相談することが大切、今回の場合はAさん自身が担当医を経由して心療内科で見ていただいたので良かったです)ができることもキャリアコンサルに求められていると感じている昨今です。(A.K)

 


							

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタント養成講座11 I テクノファ

今回は、職業相談の奥深さについて振り返ってみようと思います。当然ですが、職業相談に来られる方の目的は仕事の相談です。相談の目的が明瞭であれば、ご本人の意向や希望に沿ってマッチングや自己アピールの支援等を比較的順調に進めていくことができますが、このような例はごくわずかです。 相談の目的が仕事に関することであっても、具体的なビジョンが描けず、何をやっていいか分からない方が多くおります。ただし、食べていくために収入が無いのは困る、何か仕事はないでしょうかという相談から話が始まります。 インテーク(最初の面接)の中で、そのような心境状態に至った段階を理解するようにします。何をやったらよいか分からないと …

キャリアコンサルタント実践の要領 83 | テクノファ

このコーナーは、テクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業され、現在日本全国各地で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報などを発信しています。今回はM.Iさんからの発信です。 私がキャリアコンサルタントとしての活動を通して感じていることについてお伝えすることの第二弾です。今回は大学とのかかわりについて書いていきます。一般的に、大学でキャリアコンサルタントが担っている役割としては、 *キャリアセンター等で学生たちを対象にした相談業務 *キャリアデザイン科目等の講師 といったものが主な分野になるのではないでしょうか。 私は地元の私立大学で非常勤講師を担当させていただいています …

一つの重要な要素にMBO(目標による管理)がある

キャリアコンサルティングの社会的意義 キャリアコンサルティングを学ぶ前提 キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぼうとするとき、日本の産業社会においてはキャリアという言葉も概念も、つい最近まで正しく存在していなかったという点をふまえておかなければならない。キャリアコンサルティングはキャリア開発の支援活動であり、キャリア開発のためのコンサルティングであるが、キャリアコンサルティングを学ぶということは単にキャリアコンサルティングを技法としてとらえるのではなく、キャリアコンサルタントが果たさなければならない役割など、キャリアコンサルティングの前提や背景、あるいは周辺についても正しく理解 …

キャリアコンサルタント実践の要領 22 I テクノファ

Aさんの「キャリコンサルタント養成講座」受講奮闘記をお伝えしています。 Aさんは中小企業に勤めている小学生と4歳半の子供をもつ女性ですが、ある事をきっかけに「キャリアコンサルタント」という資格を知りました。厚生労働省の国家資格であること、企業の中で人間関係の相談に乗ってあげられる力を付けられることなどを知り、どこかの「キャリコンサルタント養成講座」を受けたいとNetで多くの「キャリコンサルタント養成講座」を調べました。 その結果テクノファの「キャリコンサルタント養成講座」が自分に合うのではないかと思い、3か月にわたる12日間「キャリコンサルタント養成講座」講座を受講することに決めました。決めた …

働き方改革の推進 | キャリコン実践の要領263テクノファ

キャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。 ■働き方改革の推進 (1)非正規雇用の現状と課題 近年、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者は全体として増加傾向にあり、雇用者の約4割を占める状況にある。これは、高齢者が増える中、高齢層での継続雇用により非正規雇用が増加していることや、景気回復に伴い女性を中心にパートなどで働き始める労働者が増加していることなどの要因が大きい。なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、2020(令和2)年以降、非正規雇用労働者は対前年比で減少し、2021(令和3)年には2,075万人となっている。高齢者や学 …