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基礎編・理論編

うつ病を自覚したクライエント I テクノファ

投稿日:2024年8月10日 更新日:

仕事や人間関係に行き詰まり、自分がうつ病であることを自覚しないままキャリアコンサルティングの面談に訪れる人が多くなっています。厚生労働省のサイトによると、うつ病など気分[感情]障害(躁うつ病を含む)患者は、2014年は111万人、2017年は127.6万人、2020年は172万人と増加しています。 この数値の伸びに比例するようにうつ病の症状のある人との面談の機会が増えてきたということでしょう。

今回はうつ病を発症した人との面談事例を紹介します。相談者は30代後半の女性Aさんです。Aさんとは以前にも面談したことがあります。当時の面談内容は次のようなものでした。

Aさんは、新卒で地元の中堅企業に勤め、庶務作業を長年にわたり行っていました。勤めていた企業は、中堅企業にはよくありますが、明確なステップアップの規定はなく、特に女性社員に対してはその傾向が顕著なものでした。

年に2回、上司との面接で目標設定と成果確認を行う人事評価制度はありますが、そのことが機能していないとAさんは感じていました。Aさんは、会社内の他の女性社員と比べて、仕事面給与面で差がつくこともないので特に不満もなく、仕事に対する特別な思いもなかったようです。しかし部署の異動をきっかけにしてキャリアコンサルの面談を思い立ちました。

Aさんが異動した先は、社内の業務をコンピューターシステム化して維持管理する部門で、女性はそこでも庶務作業を行っていましたが、職場内の自分の作業と他の人の作業に違いがあることに違和感を持ち、庶務作業だけでこの先もやっていけるのかという漠然とした不安を抱き、面談を希望しました。

面談を思い立った時点で、本人に何かしないといけないという思いがあったため、面談によりその思いを明確な行動目標にし、目標達成のために具体的な手段を考えることができたと喜んでいました。

その後Aさんは目標を具体化するために、新しい職場で庶務作業のかたわら、運用している会計システムを維持管理できるように、簿記の講習を受け簿記資格をとる、減価償却のシステムを維持管理できるように、減価償却制度を学ぶ、またコンピューター言語を習得し、プログラムの解析や作成を行うなどしてコンピューターシステムの維持管理業務を行うなど、着々と新しい世界を開いているようでした。

Aさんから最近また面談依頼があり、次のステップへの手伝いができればと思っていました。今回の面談の主な内容は、前回の面談以後は目標設定しそれを実現するために行動してきたが最近は何をしたらよいか考えられない、今までのように仕事を続けていくことが出来なくなってしまったように感じるため、以前のような前向きな感覚を取り戻したいというものでした。

以前の面談記録を参考に、その時の面談内容、面談後の目標達成の成果について語ってもらうなどして、自信をもって次のステップに進めるようにしましたが、話が普段の生活面になった時に不眠、食欲がない、疲労感がある、意欲がわかないなどの話がAさんから聞かされました。その後Aさんは不眠、食欲がない、疲労感などを主訴として通院しましたが、仕事に対しての意欲低下、不安感があることを担当医に伝えて、心療内科等を受診し、初めてうつ病であることを告げられました。Aさんがうつ病に至った経緯は定かではありませんが、面談中の話題の中に発症要因の一つではないかと推測する事項がありました。

Aさんは、前回の面談後になりたい自分を目指して、着実にキャリアアップしてきたことはすでに書きましたが、その時の面談で注意点として高い目標設定をすることはよいが、そこに至るための過程の目標実現手段は無理のないもので何度でも見直しができるものを設定し、また見直しを行うよう話をしてきました。

Aさんはそれに従い、目標、実現手段などを自己管理してきました。ところが新しくその職場に異動してきた管理職の上司が、職場の活性化を図るために、コーチングの手法を取り入れるという方針を打ち出しました。方針はよかったのですが、問題はこの管理職が、本から得たうわべだけの知識をもとにコーチングと称して行動したことにありました。

その結果、その職場では自己評価を下げるに至ったメンバーの中から退職者まで出すという結果を招いてしまったようです。Aさんも誤ったコーチングを受け、自分にはなにもできそうもないと思い込むまでに追い詰められたことが、うつ病を発症する1つの要因になったのではないかと推測しています。Aさんはこのような状況で、以前面談を受けたことで前向きになれたことを思い出して、実際に面談に来ることができたため、うつ病に気が付くことができました。この事例のように自分がうつ病であることに気付かずに、仕事や生き方に行き詰まりキャリアコンサルティングを受けようとする人がいることにも注意しなければなりません。このような場合には早く気付いて適切なアドバイス(キャリアコンサルタントは自分で踏み込まず専門医に相談することが大切、今回の場合はAさん自身が担当医を経由して心療内科で見ていただいたので良かったです)ができることもキャリアコンサルに求められていると感じている昨今です。

(つづく)A.K

 


							

-基礎編・理論編

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