テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。
横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006年来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。
横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
マクロカルチャー,サブカルチャー,マイクロカルチャー
ここまでは組織文化が分析のフォーカス(対象)となってきた。しかし先にも指摘したように,デジタル・イクイップメント社(DEC)もチバ・ガイギ一社(Ciba-Geigy)も,ともにその国や地域の文化のなかで存在しているのだ。そこで組織内で何が起こっているのかを十分に理解するためには,その組織を取り巻くマクロの環境を理解することが求められる。というのは組織内でわれわれが観察することの多くは,国の文化とさまざまなサブカルチャーの相互作用を反映しているからだ。また組織メンバーの職業別の文化を反映することが多いことからサブカルチャーの相互作用を反映することともなるのだ。
組織内でしばらくの間継続していることの多くは,組織文化のより大きな脈絡のなかで機能している,さまざまなサブカルチャーの相互作用のセットと理解することがもっとも適切であろう。これらのサブカルチャーは,全体組織の基本的前提認識の数多くを共有しているけれども,同時に全体組織の前提認識を越えた独自の前提認識も保持している。通常の場合,機能別のタスク,メンバーの職業,彼らの独自な経験を反映して形成された前提認識だ。またこれらのサブカルチャーが,医療とかエンジニアリングといった大規模な職業にもとづいて形成されている場合には,そのメンバーたちが,より広範で,ときによっては国際的なべースにもとづく組織の前提認識を持ち込んでくることもあり得ることを銘記すべきだ。したがって,たとえば大規模な病院システムでは,その文化は医師がもたらすサブカルチャーから影響を受ける。この種のサブカルチャーは一般的な医療の考え方を反映するだけに留まらず,さまざまな国の医学教育の差によって生ずるさまざまな考え方をも反映するものとなる。
サブカルチャーを生みだす,共有された前提認識は,その組織内の機能組織ユニットを巡って形成されることが多い。このようなサブカルチャーは,メンバー間の学歴の共通性,共有されたタスク,あるいは組織内の経験の共通性にもとづいて形成されることが多い。これら共通性をわれわれは「ストーブに取りつけられた煙突」とか「サイロ」とか名付けることもある。われわれは,クロスファンクショナルなプロジェクトティームを,ひとつにまとめて運営することが難しいことをよく理解している。何故なら,各メンバーがそのプロジェクトに自分たちの出身のカルチャーを持ち込み,その結果お互いにコミュニケートし合うことに,またコンセンサスを得ることに,さらに効果的に意思決定を遂行していくことに困難を感じるからだ。垣根を越えたコミュニケーションに伴う困難性は,各機能グループが異なったゴールを設定しているという事情だけから生じているわけではない。メンバーが使う言葉の意味が異なるという,もっと根本的な問題からも困難性が生じているのだ。たとえば「マーケティング」という言葉は,エンジニアにとっては製品開発を意味し,プロダクトマネジャーにとっては市場調査を通じてカスタマーを分析することを意味し,セールス担当にとっては仕入れを意味し,製造担当マネジャーにとってはデザインの頻繁なチェンジを意味する(Dougherty,1990)。彼らが一緒に仕事を進めようとするとき,彼らは意見の不一致を性格の差に求めることが多く,各機能組織がどのように考えるかを律している,より深いところで保たれている「共有された前提認識」の存在には気づかないことが多い。
もうひとつの種類のサブカルチャーは,人々に気づかれにくいけれども,階層構造のあるレベルにおける共通の経験を反映して形成されている文化だ。この文化は,成功体験の共有から生まれてくる。たとえば第一線管理者が,その部下たちをマネジする方法のうち,つねに成功を収める方法を発見すると,彼らはどのように自らの職責を果たすべきかについて,共有する前提認識のセットを築きはじめる。これは「第一線管理者のサブカルチャー」と認識することができる。先輩の第一線管理者は,昇進したての第一線管理者に対して,どのようにその役割を遂行すべきかを教えはじめる。この種のメンタリングは,新任管理者が受ける公式的な訓練よりも間違いなく効果性が高い。同様に中間管理職,さらにシニアレベルの管理職も,自ら自身のための共有された前提認識を築く。またそれぞれのレベルで,これらの前提認識が,そのレベルに昇進してきた新任管理者に対して教育される。この階層レベルごとのサブカルチャーは,コミュニケーション上のさまざまな問題を発生させる。たとえば,「シニアマネジメントに,新しい仕事の進め方を売り込まなければならない」,「新しい機械を購入するため,予算の承認を得なければならない」,「この人員増を認めてもらわなければ」といった問題だ。その提案が文化の枠を越えるときには,まず次の上位レベルに合った適切な言葉によって書き換えられ,さらに上位レベルの価値観や前提認識を反映したものに脚色される必要がある(Thomas,1994)。あるいは上位レベルの視点から書かれた意思決定を,下位レベルの人たちが理解できるように適切な形に書き換えることも必要となる。このような「翻訳」が,上位レベルが望んでいることをねじ曲げたり,最悪の場合には逆転させてしまうことも起こり得る。
(つづく)平林良人