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経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」から「(参考)経営企画部門の成り立ちと役割」」について、歴史的経緯から成り立ち、制度背景、構造的矛盾、今日の課題、改革の方向性に至るまでを多面的に解説します。
(出典)経済産業省 016_04_00.pdf
〇歴史的背景と成り立ち: なぜ日本に「経営企画部門」が生まれたのか
◆ 1950年代の通産省による経営合理化の試み
戦後日本の経済成長を支えるために、通商産業省(現在の経済産業省)は、欧米企業に倣って「コントローラー制度(統制的な経営管理機能)」と「事業部制(分権的な責任体制)」の導入を企業に提言しました。これは、中央が戦略と管理を行いながら、現場が自律的に事業運営を担うという、経営の高度化を狙った構想でした。
通産省の主な答申:
〇1951年・答申第1号「企業における内部統制の大綱」→ 管理会計、組織統制、業績モニタリングの制度整備を提案。
〇1953年・答申第2号「内部統制の実施に関する手続要綱」→ **本社にコントローラー(経営管理機能)**を導入し、戦略と財務の連携を強化することを提言。
〇1960年・答申第4号「事業部制による利益管理」→ 現場に事業部制を導入し、現場主導の利益責任を明確化するよう推奨。
◆ 成果と限界
この流れを受けて、日本企業では事業部制は急速に広まった一方で、コントローラー制度はほとんど根づかなかったのです。その結果、
〇戦略と管理(本社)と、執行と利益責任(事業部)との間に大きな分断が生まれました。
〇「戦略と数値を横断的に管理する中枢機能」が不足し、代わりに中途半端に設けられたのが経営企画部門です。
この部門は、本来であれば財務部門や事業部内のコントローラーが担うべき機能(戦略管理、予算統制、業績分析など)を、全社横断的に取りまとめる“調整役”として曖昧に補完していきました。
〇経営企画部門のミッション:なにをする組織か
◆ 本来のミッション(理想形)
経営企画部門が期待されている役割は、以下の3つに集約されます。
①戦略マネジメント機能
〇中期経営計画や事業ポートフォリオの設計
〇新規事業、撤退判断、投資意思決定の支援
②組織設計と統制機能
〇グループ経営、ガバナンス体制の設計
〇役員会や経営会議の事務局運営(アジェンダ設計、資料調整)
③数値管理と管理会計の整合機能
〇利益計画(PL) ・資本配分(BS) ・投資対効果(ROIC)など
〇経営の意思決定に資するKPI分析、予実管理、業績モニタリング
このように、本来は「トップマネジメントの右腕」であるべき部門です。
3.現実に直面する課題と構造的な矛盾
経営企画部門はその性質上、経営と現場の間に立つ存在ですが、日本企業特有の組織慣行・制度的制約により、以下のような課題が慢性的に発生しています。
①経営企画部と財務・経理部との分断
〇戦略と数値が分離されており、予算や会計が形式的に運用されている。
〇CFO機能が弱いため、財務的視点から経営戦略を設計できていない。
②本社と事業部門のコントローラー機能の断絶
〇欧米では、各事業部にコントローラー(数値管理責任者)がいて、自律的に経営分析を行っている。
〇日本では、事業部が現場主導で動き、経営企画部門が報告を集める構造になっており、**「ボトムアップ集約型」かつ「全社戦略が最後にやってくる」**という現象が起きている。
4.なぜ「庶務的業務」に埋没してしまうのか?
経営企画部門は、現場や経営層の「なんでも屋」的存在になってしまいがちです。
〇会議の準備、資料作成、調整作業に忙殺され、本来の企画・設計機能が弱体化。
〇経営トップからの指示を待つ受動的なポジションに陥り、戦略提案機能が失われている。
〇「リソースが足りないから経企にやらせよう」といった消極的な役割付与が多く、人材開発も進まない。
5.今後求められる方向性:再定義と変革の視点
経営企画部門が本来の戦略中枢として再生するためには、以下の方向性が求められます。
① 経営企画×財務×人材の「トライアングル統合」
〇CFO、CHRO、CSO(Chief Strategy Officer)と連携し、部門横断的な意思決定インフラを整備
〇財務KPI(ROIC、CF)と戦略KPI(成長率、NPSなど)の統合分析
② 管理会計・コントローラー機能の再設計
〇各事業部に「戦略参謀」としてのミニ経企・コントローラーを配置
〇全社の数値と戦略をリンクさせる機能の強化
③ デジタルツール活用による業務自動化と可視化
〇会議資料・報告業務の自動化(BIツール、RPA、ERP)
〇リアルタイムダッシュボードによる業績管理と意思決定支援
④ 戦略人材の専門育成とキャリア体系の整備
〇経営企画職を“ゼネラリストの通過点”ではなく、“経営プロフェッショナルの母体”として育成
〇戦略・財務・人材・DXの横断的スキルを持つ人材の流動化を促進
◆ 経営企画部門を“ビジネスアーキテクト”に再構築する
このスライドが示している最大の教訓は、「経営企画部門」は調整役にとどまるべきではないということです。もともと「経営の設計者」「変革の推進者」として構想されたこの部門が、今や組織の形式的な機能に埋もれつつあるとすれば、それは組織にとって大きな機会損失です。
グローバルな経営環境においては、経営企画部門は単なる事務局でも参謀でもなく、戦略を可視化し、実装し、成果に結びつける“実行知”の担い手として位置づけ直されるべきです。
(つづく)Y.H