キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

日本企業のHRの現状:経営戦略との距離感  

投稿日:2025年9月15日 更新日:

製造業を巡る現状と課題  日本企業のHRの現状:経営戦略との距離感

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド20ページ「日本企業のHRの現状:経営戦略との距離感」について、踏み込んだ視点から、背景・構造・課題・海外比較を交えて解説します。

(出典)経済産業省 016̠04̠00.pdf

◆ 1.背景:なぜ「HRの戦略貢献」が注目されるのか
近年、企業経営において「人材」は単なるリソースではなく、競争優位の源泉と認識されつつあります。とくにDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)が求められる現代では、事業環境の変化に迅速に対応できる「組織能力の再設計」が不可欠であり、その中核を担うのがHR部門です。
しかし、日本企業の多くでは依然として「人事部=制度管理・採用・給与管理」といったオペレーション中心の役割にとどまっており、戦略機能が限定的であるというのが本スライドの主旨です。

◆ 2.図の構造:人事機能の分類と関与度
図は縦軸に「人事課題 → 事業部課題 → 経営課題」と並べ、右方向に進むほど「人事部門が深く関与している割合(関与度%)」が高くなる構造です。
●人事部門の主導が強い:オペレーション領域
〇 新卒採用(87.0%)
〇 人事制度策定、評価調整(50%台~70%台)
〇 → この領域は「HRオペレーション機能」と「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」に該当します。
〇 つまり、人事制度やルールの管理運営、実務レベルの調整・実施には長けているということ。

●関与が中位:事業に寄り添うべき人事領域(HRBP機能)
〇 管理職の異動配置(49.2%)
〇 要員計画(47.6%)
〇 非管理職の配置(38.1%)
〇 → 本来は、HRBP(Human Resource Business Partner)として、人事が事業責任者と並走して人材配置・要員最適化を支援するべき領域。
〇 しかし実際には、事業側が主導し、人事は補完的関与にとどまっていることが多い。

●関与が弱い:経営課題に直結する「戦略人事」
〇 組織戦略(32.0%)
〇 事業戦略の策定(27.2%)
〇 → 「OD&TD(Organization Development & Talent Development)」に関わる高度なHR領域。
〇 つまり、将来の成長を担う人材の育成と、組織の変革構想を策定する仕事だが、現状の人事部門はこの領域に「ほとんど関与していない」。

◆ 3.分析:日本企業のHR部門が戦略貢献できていない要因
①組織のヒエラルキーと人事部門の立ち位置の低さ
〇 多くの企業で人事部門は経営会議に入っておらず、「事業部の補助機能」と見なされがち。
〇 その結果、戦略や事業計画に関する議論に初期から関与できない。

② 専門分化の未発達(HRBP・CoE・OD&TDの役割分担が不明確)
〇 外資企業ではHR機能が明確に分化しており、戦略担当と運用担当が役割分担されている。
〇 日本では、一人の人事担当者が全領域を横断して対応する構造が多く、専門性が深まりにくい。

③ 人的資本経営に向けた意識・システムの遅れ
〇 経営層が人事・組織を「戦略資源」として認識していない。
〇 人材データ(スキル、経験、配置履歴など)を活用した分析も未整備。

◆ 4.海外先進企業との比較(戦略HRのあり方)

項目 日本企業 欧米グローバル企業
HRBP制度 一部導入、機能不十分 全社で導入、戦略HRの主力
CHROの位置付け 管理系の一部門長 経営会議メンバー、CEOの参謀
タレントマネジメント 属人的・運用主義 システム化、ピープルアナリティクス活用
組織開発(OD) 担当者がいない/限定的 専任チームがリード、変革の牽引役

→ 欧米企業では、HRが事業計画の策定段階から参加し、人的資本の最適活用を経営の中心に据える構造になっているのに対し、日本企業は人事が「後追い対応」になりがちです。

◆ 5.今後のあるべき方向性(改革への処方箋)
① CHROの設置と権限強化
〇 経営会議メンバーとして戦略に関与し、人的資本への投資判断を主導する。

② HRBP制度の全社導入と育成
〇 各事業部門に戦略人事担当を配置し、事業・組織の橋渡しをする役割を担わせる。

③ 人材・組織データ基盤の整備
〇 職務・スキル・学習履歴・配置効果などの定量的管理を可能にし、科学的人事を実現。

④ 組織開発機能(OD)の内製化と可視化
〇 DX、働き方改革、リスキリングなどの変革を推進する中心組織として、組織変革を支える。

⑤ 人的資本開示(ISO30414/有価証券報告書)の活用
〇 人材育成や配置方針を定量化・開示し、投資家・社会への説明責任を果たすことで、経営層の関心と責任を高める。

◆ まとめ
このスライドが突きつけている本質は、「人事部門がまだ“人を管理する組織”にとどまり、“人を動かす・活かす戦略部門”にはなりきれていない」ということです。人口減少・人材多様化・グローバル競争という時代において、今こそHRの機能を**“未来の成長のエンジン”へと進化させる必要がある**というメッセージが込められています。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

暮らしの安心確保について

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 高齢になっても、住み慣れた地域で安心して暮らしていくことは、国民共通の願いです。そのためには、地域共生社会の実現に向けて努力することが重要です。今回は、暮らしの安心確保についてお話しします。 ◆地域共生社会の実現の推進 ■地域共生社会の実現について 少子高齢・人口減少、地域社会の脆弱化等、社会構造の変化の中で、人々が様々な生活課題を抱えながらも住み慣れた地域で自分らしく暮らしていけるよう、地域住民等が支え合い、一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていくことのできる「地域共生社会」の実現が求められている。地域共生社会の実現 …

日本における電波政策の動向 2

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。 前回に引き続き、電波政策の動向について、お話しします。 先進的な電波利用システム 非地上系ネットワーク HAPS、衛星通信等の非地上系ネットワーク(NTN)は、陸・海・空・宇宙をつないで離島、海上、 山間部等を効率的にカバーし、通信インフラが未整備の地域に対しても通信サービスの提供が可能です。また、自然災害をはじめとする非常時等の通信手段としても有用です。 総務省では、「デジタルインフラ整備計画2030」(2025年6月策定)に基づき、NTNの早期国内展開等に向け、関連する制度整備を進めるなど、サービス導入を促進のための取組を推進していま …

ICTの活用と次世代DXの推進2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 ICT活用についての最終回です。ICTとは、情報通信技術を意味します。ICTの普及により、私たちの生活は各段に便利になりました。インターネットを使えば、世界中の情報をリアルタイムで簡単に手に入れることができますし、スマホを片手に家族や友達と手軽に連絡したり、音楽や映画を楽しむこともできます。このように、ICTは私たちの暮らしに溶け込み、より快適な楽しいいために欠かせないツールとなっています。 ◆次世代の校務DXの推進 統合型校務支援システムの整備率は年々上昇し、校務 の効率化に寄与してきましたが、多くの自治体ではシステ ムを自前サ …

海外進出日本企業で働く人々_ベトナム_社会保障についてーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。日本とベトナムは、長年にわたって政治、経済、文化、スポーツと幅広い分野で友好関係が続いています。日系企業の進出も盛んで、約2千社がベトナムへ進出しており、キャリアコンサルタントが日系企業で働く人々と接触する機会は年々増加しています。私の友人も、6年間ほどベトナムの日本企業に派遣され、2年ほど前に帰国しました。彼の話しによると、ベトナムは人口に占める若年層の割合が大きいせいか、その企業にも多くの現地の若者が働いていたそうです。その中で、優秀な人材が他の企業に転職する例 …

日本の環境の保全と創造 5

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、環境の保全と創造についてお話しします。環境保全とは、自然環境や生態系を保護し、持続可能な状態を維持するための取組みのことです。保全の目的は、自然資源の持続可能な利用や再生、生物多様性の保全、大気や水の浄化、エネルギーの効率的な利用などです。これらにより、地球上の生態系のバランスを保ち、将来世代に美しい環境を受け継ぐことができます。 ■水の恵みを将来にわたって享受できる社会を目指して 水資源政策については、平成27年3月国土審議会答申に基づき、安全で安心できる水を確 保し、安定して利用できる仕組みをつくり、水の恵みを将来 …