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実践編・応用編

製造業を巡る現状と課題  部分最適と全体最適 具体例②

投稿日:2026年4月3日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド38ページ「部分最適と全体最適 具体例②」について、詳細な解説をします。

(出典)経済産業省 009_02_00.pdf

このスライドの狙い:なぜ「具体例②」なのか
このスライドは、前の「具体例①(原価管理)」に続いて、製造業DXにおける“部分最適”と“全体最適”の違いを、別の切り口から分かりやすく示しています。テーマは大きく二つです。
① ニーズ・シーズの把握(顧客や市場の声と自社技術の結びつけ方)
② 生産・物流を考慮した設計(つくり方・運び方まで含めた設計のあり方)
どちらも、製造業にとっては昔から重要だと言われてきたテーマです。しかし実際の現場では、
◆ 営業・サービスは営業・サービスの都合
◆ 設計は設計の都合
◆ 製造は製造の都合
◆ 物流は物流の都合
で、それぞれが自分の持ち場の中だけで最適化を進めてしまい、結果として全体としてはうまくつながらない、ということが頻繁に起きています。
このスライドは、まさにその状態を「部分最適」として示し、データとプロセスをつないで“全体最適”に転換すると、何がどう変わるのかを、具体的な企業事例とともに説明しています。

前半テーマ:ニーズ・シーズの把握 ―「分かっているつもり」が最大の落とし穴
■ 部分最適の状態:情報はあるが、つながっていない
まず、表の上段「ニーズ・シーズの把握」を見てみましょう。
部分最適の欄には、次のような状態が書かれています。
◆ 製品の使われ方や消費者ニーズを把握するための情報収集が十分にできていない
◆ 営業部門やサービス部門が部分的に情報を持っていても、設計・製造などの関連部門に共有されない
◆ その結果、自社の技術シーズと市場ニーズのマッチングや、製品設計・工程設計の見直しがプロセスとして機能しない
◆ 結果として、ヒット商品が生まれにくく、製品改良も場当たり的になりがち(いわゆるプロダクトアウト型)

ここで重要なのは、「情報がまったく無い」のではなく、「社内のどこかにはあるが、つながっていない」という点です。営業はクレームや要望を知っている、サービスは現場での使われ方を知っている、しかしそれが設計や製造に体系的に戻っていかない。この状態では、せっかくの“顧客の声”が、次の製品や改良に活かされないまま埋もれてしまいます。

■ 部分最適の具体例:化成品メーカーC社のケース
スライドに挙げられている【化成品メーカーC社】の例は、とても象徴的です。
浴室に保管している製品で、内容物の液漏れクレームが多発していました。調査の結果、原因は「浴室乾燥機の使用に伴う急な温度上昇に耐えられないポンプ仕様」だった、ということが分かりました。
しかし問題は、その“使われ方の変化”に、会社が事前に気づけていなかったことです。
◆ 企業が想定していた使用環境
◆ 実際の顧客の使用環境
このズレが、社内で共有されず、設計にも反映されていなかった。その結果、クレームが多発して初めて問題が表面化した、という構図です。
これは、「技術力が足りなかった」という話ではありません。顧客の使い方の変化という情報を、設計や製品仕様に反映する仕組みがなかった、つまり“部分最適”の情報管理にとどまっていたことが本質的な問題だと言えます。

全体最適にすると何が変わるのか:ニーズ情報は“経営資源”になる
全体最適の考え方:情報を蓄積し、分析し、つなげる
表の「全体最適」欄では、次のような姿が示されています。
◆ ニーズ情報を蓄積・統計解析する仕組みを構築する
◆ 製品の使われ方やVOC(顧客の声)を、組織的に把握・分析できるようにする
◆ その結果、顧客ニーズの“解像度”を高めることができる
◆ さらに、顧客ニーズと自社の技術シーズを組み合わせた新製品・新サービス・新工法の開発につなげられる
ここでのポイントは、ニーズ情報を「単なるクレーム対応の材料」から、「将来の価値創造のための資産」へと格上げすることです。全体最適の状態では、営業やサービスが集めた情報は、設計・製造・企画部門と共有され、次のビジネスにつながる“知”として再利用されます。

全体最適の具体例:飲料メーカーI社・容器メーカーJ社
スライドの具体例では、【飲料メーカーI社・容器メーカーJ社】が挙げられています。
このケースでは、VOCを蓄積・統計解析するシステムを構築し、顧客ニーズをいち早くキャッチできる体制を整えました。その結果、他社との共同開発によって、大ヒット商品が生まれたとされています。
ここで注目すべきなのは、「ITシステムを入れたから成功した」という話ではない、という点です。
◆ 顧客の声を会社の資産として蓄積する
◆ それを分析して意味のある情報に変換する
◆ さらに部門や会社の枠を超えて活用する
という“全体最適の考え方”があったからこそ、システム投資が価値を生んだのです。

後半テーマ:生産・物流を考慮した設計 ―「つくりやすさ・運びやすさ」は後回しになっていないか
■ 部分最適の状態:設計は設計の都合で進む
次に、表の下段「生産・物流を考慮した設計」を見てみましょう。
部分最適の欄には、次のような問題が整理されています。
◆ 設計段階で、製造・物流のしやすさが十分に考慮されていない
◆ DR(デザインレビュー)の場に、製造・物流関連部門が参加せず、設計部門内だけの視点でレビューが行われる
◆その結果、
①製造段階での効率低下
②不具合の発生
③物流段階での積載率低下
といった問題を後から招く。これは、多くの企業で「あるある」の話です。設計者は、
◆ 機能を満たすか
◆ 性能を満たすか
◆ 規格に合っているか
を中心に考えます。一方で、

◆ 組み立てやすいか
◆ 既存設備で無理なく作れるか
◆ 運びやすいか、積みやすいか
といった視点は、後工程になって初めて問題になることが少なくありません。

■部分最適の具体例:電子部品メーカーD社・自動車部品メーカーE社
【電子部品メーカーD社】の例では、ケース部品の取り付けにおいて、ネジ挿入部のクリアランスが厳しく、既存設備を使うとネジ締め不良が多発しました。設計段階では気づけなかった「つくりにくさ」が、製造現場で問題になった典型例です。
【自動車部品メーカーE社】の例では、包装材料のコストダウンを目的にサイズ変更を行った結果、トラックの積載効率が低下し、物流費が逆に上がってしまいました。これは、「包装コスト」という一部だけを最適化し、物流全体という視点を欠いた結果だと言えます。
どちらも、「設計」「コストダウン」という部分の合理性はありますが、全体としては非効率になってしまった例です。

全体最適にすると何が変わるのか:設計と現場が“データで”つながる
■全体最適の考え方:実績データを設計に戻す
全体最適の欄では、次のような姿が示されています。
製造・物流の実績データを蓄積し、設計にフィードバックする仕組みを構築する
◆ 製造実績工数、不良率、積載効率など、つくりやすさ・運びやすさに関する指標を評価できる
◆ そのデータを設計者に戻すことで、
①次回設計
②類似品設計
の段階で、改善点を反映できる

◆ その結果、DFM(Design for Manufacturing:製造しやすい設計)が実現する
ここでの本質は、「設計は設計で完結するものではない」という前提に立つことです。実際の製造・物流の結果をデータとして取り込み、次の設計に活かす“循環”をつくることが、全体最適の考え方です。

■全体最適の具体例:電子部品メーカーD社
全体最適側の【電子部品メーカーD社】では、
◆ 3D図面に基づくBOM・BOP展開
◆ 工程シミュレーションを行うソフトウェアを導入し、製品設計と工程設計を並行して進められるようにしました。

その結果、
◆製造段階で発生しうるリスクを事前に予測できる
◆設計段階で、工程設計も含めた見直しができる
ようになり、「作ってから困る」のではなく、「作る前に問題を潰す」設計プロセスへと進化しています。

経営層・管理職・一般社員にとっての意味
経営層にとって
このスライドは、DXを「IT導入」や「現場改善の高度化」で終わらせてはいけない、という強いメッセージを持っています。
◆ 顧客情報
◆ 設計情報
◆ 製造・物流の実績データ
を会社全体の資産としてつなげ、意思決定に使える形に再構成することが、経営の役割です。

管理職にとって
管理職は、部門の壁を越えて仕事をつなぐ役割を担います。
◆ 営業・サービスの情報を、設計や製造にどう戻すか
◆ 製造・物流の課題を、設計にどう反映させるか
こうした“つなぎ役”としてのマネジメントが、これからのDXではますます重要になります。

一般社員にとって
現場で集めるデータ、対応するクレーム、工夫する作業改善は、自分の持ち場だけの話ではなく、次の製品や次の仕事につながる材料になります。「どうせ上には伝わらない」と思うのではなく、会社全体を良くする循環の一部を担っているという意識が、仕事の意味を変えていきます。

このスライドが伝えたい本質
画像38が伝えているメッセージを一言で言えば、こうなります。
部分最適は、目の前の仕事を“それなりに”良くするが、全体最適は、会社の競争力そのものを変える。
ニーズ・シーズの把握も、生産・物流を考慮した設計も、どちらも“情報とプロセスをつなげる”ことで初めて価値を生む領域です。
DXとは、その“つながり”を、属人性や勘・経験ではなく、データと仕組みで回る形に変えていくことなのだ、ということを、このスライドは具体例を通じて分かりやすく示しているのです。
(つづく)Y.H

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