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イノベーションとは、全く新しい技術や考え方を取り入れて、新しい価値を生み出し、大きな変化を起こすことをいいます。近年医療業界においてもイノベーションが強く求められています。その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。今回は、医療のイノベーション推進についてお話しします。
医療DX等の推進
我が国では、世界に先駆けて超高齢社会に直面しており、健康寿命の延伸や社会保障制度の持続可能性の確保という問題に国を挙げて取り組む必要がある。こうした中で、保健・医療・介護の情報の積極的な利活用を推進し、切れ目ない質の高い医療・介護の効率的な提供、医療現場等の業務効率化、公衆衛生の向上、医学・産業の振興等を目指すことは非常に重要です。
厚生労働省においては、2023(令和5)年6月に、総理を本部長とする医療DX推進本部において策定された「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、医療DX実現の基盤である「マイナ保険証(健康保険証としての利用登録がされたマイナンバーカード)の利用促進等」、「全国医療情報プラットフォームの構築」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」等の取組みを進めてきました。
2024(令和6)年度には、医療DXの取組みを更に推進するため、
・必要な電子カルテ情報の医療機関等での共有
・公的DBにおける仮名化情報の利用・提供等の医療情報の二次利用の推進
・社会保険診療報酬支払基金の医療DXの運営に係る母体としての改組
等を含む「医療法等の一部を改正する法律案」が、第217回国会に提出されたところです。
■2024年度の取組み
◆マイナ保険証の利用促進等
2023年4月から保険医療機関・薬局におけるオンライン資格確認導入の原則義務化を実施するとともに、居宅における資格確認の仕組み等の導入を進めています。また、2023年6月に成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」 により、2024年12月2日から従来の健康保険証は新規の発行がされなくなり、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行した。これを踏まえ、医療機関・薬局や保険者等の関係者と連携し、マイナ保険証の積極的な利用促進に取り組むとともに、最長1年間、発行済の保険証を使い続けられることや、マイナ保険証をお持ちでない方に対して申請によらず保険者から資格確認書を交付することなど、デジタルとアナログの併用期間を設け、全ての方が安心して確実に保険診療を受けられる環境整備に取り組んでいます。
◆電子処方箋の導入推進
2023年1月から全国的な運用を開始した電子処方箋の普及状況は、2025(令和7)年3月31日時点で、病院844(オンライン資格確認を導入した10.6%)、医科診療所13,723(16.6%)、歯科診療所2,295(3.8%)、薬局46,818(77.7%)であす。医療現場にとって電子処方箋を利用しやすく安全に運用できる仕組み・環境を整えながら、医療機関・薬局への普及や、国民向けの周知広報に取り組んでいます。
◆「全国医療情報プラットフォームの構築」
オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、保健・医療・介護の情報を共有できる全国的なプラットフォームの創設に向けて取り組んでいます。
全国の医療機関間等で電子カルテ情報を共有する「電子カルテ情報共有サービス」については、2025年2月から全国数か所の地域においてモデル事業を開始したところであり、法改正を経て、2025年度中の本格稼働を目指しています。
◆「電子カルテ情報の標準化等」
異なる医療機関間等で電子カルテ情報を共有するためには、各医療機関の電子カルテ情報を標準化させる必要があります。
既に電子カルテを導入している医療機関については、電子カルテシステムを標準規格に改修する必要があり、厚生労働省は、2024年3月から医療情報化支援基金を活用し、改修費用への補助を行っています。また、電子カルテを導入していない診療所等に向けては、クラウドベースの標準型電子カルテを開発・提供していく予定です。既にデジタル庁とともに開発に着手しており、2025年3月から、一部の医療機関での試行的実施を開始しています。
◆「診療報酬改定DX」
進化するデジタル技術を最大限に活用し、医療機関等における負担の極小化を目指して、2024年度診療報酬改定においては、施行時期をこれまでの4月から6月に後ろ倒すとともに、診療報酬の算定と患者負担金の計算の機能について各レセプトコンピュータが共通に利用できるプログラムとして共通算定モジュールの設計開発を2024年3月から開始し、2026(令和8)年度中の本格提供に向けた取組みを進めています。
◆「医療等情報の二次利用の推進」
全国医療情報プラットフォームで共有される医療等情報の利活用を通じた研究開発の促進に向けて、厚生労働大臣が保有する医療・介護関係の公的DBについて、これまでの匿名化情報に加えて仮名化情報の利用・提供を可能とし、他の仮名化情報や次世代医療基盤法の仮名加工医療情報との連結解析を可能とすることや、「電子カルテ情報共有サービス」で共有されるカルテ情報の二次利用を可能とすること等について審議会等で議論し、必要な法改正を盛り込んだ「医療法等の一部を改正する法律案」を第217回国会に提出しています。
医療DXの推進は、患者、医療機関、企業、研究者等に様々なメリットをもたらします。まず、患者へのメリットとしては、日常診療のみならず、災害時や救急時も含め、全国いつどの医療機関や薬局にかかっても、必要な医療情報が共有されることが挙げられます。患者がこれまでに受けた治療や薬、健康診断の情報が、他の医療機関等と共有できるようになることで、切れ目ない、安全で質の高い医療の効率的な提供につながります。
例えば、電子処方箋の導入によって重複投薬や併用禁忌のチェックができるので、同じ効果がある薬や、飲み合わせのよくない薬を受け取ることがなくなります。また、災害時の対応として、オンライン資格確認等システムの機能を活用して、避難先の医療機関等で、患者の同意のもと、現在服用している薬などの正確な情報を閲覧できる仕組み(災害時モード)があります。
医療機関の事務効率化としてのメリットもあります。医療機関等のデジタル化が促進されることで、紙の書類作成やデータ入力作業などの大幅な削減や、誤入力の減少などを通じた正確な事務処理が期待されます。これにより、残業時間の減少など働き方改革が進み、魅力ある職場づくりにもつながっていきます。
更に、カルテ等の医療等情報の二次利活用が進むことで、これまで治療法がなかった疾病に対する革新的医薬品や新たな治療法の研究開発が促進されます。また、民間のPHR事業者との連携によるヘルスケア産業の更なる振興も期待されます。
医薬品・医療機器開発などに関する基盤整備
■健康・医療戦略について
政府の成長戦略の柱の1つである医薬品・医療機器産業を含む健康・医療関連分野において、革新的な医療技術の実用化を加速するため、2014(平成26)年5月に、「健康・医療戦略推進法」(平成26年法律第48号)及び「独立行政法人日本医療研究開発機構法」(平成26年法律第49号。現在の法律名は「国立研究開発法人日本医療研究開発機構法」。)が成立しました。また、各省の医療分野の研究開発関連事業を集約し、一体的に実施するため、同年6月に内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚で構成する「健康・医療戦略推進本部」が設置されました。
2014年7月には、医療分野の研究開発及び健康長寿社会の形成に資する新たな産業活動の創出・活性化に関し、今後5年間における政府が総合的かつ長期的に講ずべき施策を定めた第1期「健康・医療戦略」及び基本的な方針や政府が集中的かつ計画的に講ずべき施策等を定めた第1期「医療分野研究開発推進計画」が策定され、①医薬品開発、②医療機器開発、③臨床研究中核病院などの革新的な医療技術創出拠点、④再生医療、⑤ゲノム医療、⑥がん、⑦精神・神経疾患、⑧感染症、⑨難病の9分野で重点的に研究支援をしていくこととされました。
2020(令和2)年3月には、第2期「健康・医療戦略」及び第2期「医療分野研究開発推進計画」が策定され、モダリティ等を軸に①医薬品、②医療機器・ヘルスケア、③再生・細胞医療・遺伝子治療、④ゲノム・データ基盤、⑤疾患基礎研究、⑥シーズ開発・研究基盤の6つの統合プロジェクトに再編し、横断的な技術や新たな技術を多様な疾患領域に効果的・効率的に展開することとされました。
2025(令和7)年2月には、第3期「健康・医療戦略」及び第3期「医療分野研究開発推進計画」が策定され、①医薬品、②医療機器・ヘルスケア、③再生・細胞医療・遺伝子治療、④感染症、⑤データ利活用・ライフコース、⑥シーズ開発・基礎研究、⑦橋渡し・臨床加速化、⑧イノベーション・エコシステムの8つの統合プロジェクトに再編し、事業間の連携と出口志向性を強化し、基礎から実用化までの一貫した研究開発を加速することとされました。
■研究開発の振興について
各省の医療分野の研究開発関連事業を集約し、基礎段階から実用化まで切れ目のない支援を実現するため、2015(平成27)年4月に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)が設立されました。
厚生労働行政に関する研究開発のうち、医療分野の研究開発は、厚生労働省に加え、内閣府、こども家庭庁、総務省、文部科学省、経済産業省の6府省庁に計上された医療分野の研究開発関連予算をAMEDに交付し、AMEDにおいて実施しています(2025(令和7)年度医療研究開発推進事業費補助金等約479億円)。
AMEDにおける医療分野の研究開発として、例えば、以下のような取組みを行いました。
①医薬品プロジェクトにおいては、医療現場のニーズに応える医薬品の実用化を推進するため、創薬標的の探索から臨床研究に至るまで、モダリティの特徴や性質を考慮した研究開発を行いました。また、新薬創出を目指し、モダリティに関する基盤的な研究開発を行いました。さらに、創薬研究開発に必要な支援基盤の構築に取り組んでいます。
②医療機器・ヘルスケアプロジェクトにおいては、AI・IoT技術や計測技術、ロボティクス技術等を融合的に活用し、診断・治療の高度化や、予防・QOL向上等に資する医療機器・ヘルスケアに関する研究開発を行いました。
③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクトにおいては、再生・細胞医療・遺伝子治療の実用化に向け、細胞培養・分化誘導等に関する基礎研究、疾患・組織別の非臨床・臨床研究や製造基盤技術の開発、疾患特異的iPS細胞等を活用した難病等の病態解明・創薬研究及び必要な基盤構築を行いました。また、遺伝子治療について、遺伝子導入技術や遺伝子編集技術に関する研究開発も行いました。さらに、再生・細胞医療と遺伝子治療の一体的な研究開発や臨床研究拠点の整備を進めるとともに、革新的な研究開発・基盤整備を進めました。
④ゲノム・データ基盤プロジェクトにおいては、病態解明を含めたゲノム医療、個別化医療の実現を目指し、ゲノム・データ基盤の整備・利活用を促進し、ライフステージを俯瞰した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進しました。
⑤疾患基礎研究プロジェクトにおいては、医療分野の研究開発への応用を目指し、脳機能、免疫、老化等の生命現象の機能解明や、様々な疾患を対象にした疾患メカニズムの解明等のための基礎的な研究開発を行いました。
⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクトにおいては、アカデミアの組織・分野の枠を超えた研究体制を構築し、新規モダリティの創出に向けた画期的なシーズの創出・育成等の基礎的研究や、国際共同研究を実施しました。また、橋渡し研究支援機関や臨床研究中核病院において、シーズの発掘・移転や質の高い臨床研究・治験の実施のための体制や仕組みを整備するとともに、リバース・トランスレーショナル・リサーチや実証研究基盤の構築を推進しました。
第3期においても、医療分野の研究開発の推進に関係省庁と連携して取り組むこととしています。
なお、医療分野の研究開発以外の厚生労働行政の推進に資する研究については、厚生労働省が実施しています(2025年度厚生労働科学研究費補助金等約87億円)。
次世代医療基盤法
匿名加工された医療情報の安全・適正な利活用を通じて、健康・医療に関する先端的研究開発や新産業創出を促進するため、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)」(平成29年法律第28号。現在の法律名は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律」。)が2018(平成30)年5月に施行されました。2025(令和7)年3月現在、三つの認定事業者において約470万人分の医療情報を収集して、67件の利活用実績につなげています。また、2023(令和5)年5月には、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律の一部を改正する法律」が公布、2024年(令和6)4月に施行され、健康・医療分野の研究開発の更なる促進を図るため、仮名加工医療情報の取扱いについての規律が定められました(12月に認定仮名加工医療情報作成事業者として3社が、2025年2月に認定仮名加工医療情報利用事業者として2社が認定を受けた)ほか、匿名加工医療情報をNDB等のデータと連結して利用することができる状態で提供するための仕組みの創設等が行われました。さらに、仮名加工医療情報についてもNDB等のデータと連結可能とする法改正を含む「医療法等の一部を改正する法律案」を第217回国会に提出しています。
(つづく)Y.H
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書