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実践編・応用編

欧州連合の労働施策 4

投稿日:2024年9月21日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

欧州連合の労働施策の最終回です。日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。

◆労使関係施策
労働施策の策定に当たっては政労使の対話が重視されています。欧州委員会、欧州理事会が政策立案を行う際は労使に協議を行うとされています。労使が労働協約を結び、EUが認めれば、その内容がEU指令になります。指令となった例として、パートタイム指令、有期労働指令、育児休業指令があります。指令とならなかった例としてEUテレワーク協約があります。
■労働者団体
欧州労働組合連盟に欧州の41か国の93の労働組合、10の産業別組織が加盟し、組合員数は約4,500万人です(2023年現在)。
■使用者団体
欧州経営者連盟、欧州中小企業協会、欧州公共企業センターがあります。

◆最近の動向
■人工知能(AI)に関する統一の取れたルールを定める規則案
2021年4月に欧州委員会が「人工知能(AI)に関する統一の取れたルールを定める規則案」(以下、「AI規則案」という。)を公表し、AIシステムの利活用により予見される4段階のリスクに応じた対応を図っていくことが提案されました。AI規則案は、AIの開発者と利用者に対してAIの個々の利用に関する明確な要件を定め、安全性と基本的権利を確保するとともに、AIシステムに対する人々の信頼を得ることによって欧州全域でのAIシステム導入を促進し、欧州の競争力を高めることも期待されています。AI規則案では、AIシステムに係るリスクを①許容できないリスク、②ハイリスク、③限定リスク、④僅少リスクの4つに分類しており、とりわけハイリスクのAI利用事例に重点が置かれています。AIシステムがハイリスクに分類されるかどうかは、システムが導入される目的や起こりうる弊害の重大度と発生確率によって決まり、雇用労働分野では、教育訓練受講生の受入れ合否の判定や受講成果の評価に関わるもの、求人募集、面接評価、昇進等の人材の採用や業績評価に関わるものなどが該当します。
ハイリスクのAIシステムは市場で販売される前に適合性評価を受ける必要があります。今後、EU理事会及び欧州議会においてAI規則案の審議がなされ、早ければ2023年前半に発効し、2024年後半に基準の整備と最初の適合性評価が実施されることに伴い、事業者への規則の適用が始まる見通しとなっています。

■プラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令案(Proposal for a Directive on improving working conditions in platform work)
2021年12月、欧州委員会は、プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案を公表した。プラットフォーム労働の従事者に正しい雇用上の地位を認めることで、権利を保証することを目指すほか、アルゴリズム管理(職場の管理機能を支援または代替する自動化システム)に関する公正性や透明性などの確保や、プラットフォーム実施状況把握のための事業主から担当当局への各種情報提供義務等が盛り込まれている。

本指令案は、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々が、実際の勤務形態に対応した法的な雇用形態を与えられることを保証しようとするものであり、プラットフォームが「雇用主」であるかどうかを判断するための基準を掲げている。その基準とは、①報酬の水準を実質的に決定、またはその上限を設定していること、②プラットフォーム労働を遂行する者に対して、外見的な統一性(制服の着用やロゴマークの表示等)、サービス受容者に対するサービスの提供方法、および労働の遂行方法に関する特定の拘束力のある規則の順守を義務付けていること、③電子的その他の手段により、労働の遂行の監視や成果評価を行っていること、④罰則の設定等により、労働を遂行する時間や働かない時間、仕事を引き受けるか否か、また下請けや代理人を使用するか否かに関する従事者の裁量の自由を実質的に制限していること、⑤顧客の獲得や、第三者のために労働を遂行する可能性を実質的に制限していること、の5つである。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■プラットフォームについては、上記のうち少なくとも2つを満たしていれば、法律上、雇用主であると推定され、プラットフォーム側に反証責任が科されることになります。雇用関係があるとみなされた場合は、プラットフォームを通じて働く人々は、最低賃金、団体交渉、労働時間と健康保護、有給休暇の権利、労働災害に対する保護へのアクセス向上、失業手当と疾病手当、拠出制老齢年金など、「労働者」の地位に付随する労働・社会的権利を享受することになります。本指令案は、2023年2月2日に欧州議会において修正案が可決されたましたが、理事会においては自由主義的な国と労働者保護側の国とで対立が見られ審議が継続しています。理事会において修正案が妥結され、欧州委員会・欧州議会・理事会との間で妥協案を協議し、当該協議案が欧州議会及び理事会それぞれで採択された後、加盟国は2年以内に同指令を国内法に反映させることになります。なお、ベルギーなど一部の国においては、本指令案の成立を待たずして既に国内法への反映を終えている。これらの国においては、原案と異なる結論に至った場合国内法を再度修正する必要があることから、理事会において原案を固持する立場を見せています。

■最低賃金適正化のための指令(指令2022/2041/EU、2022年成立)
欧州委員会が2020年に案を公表していた、最低賃金の適正化のためのEU指令が2022年10月に成立しました。本指令は、最低賃金制度や労働協約を通じて設定される賃金の最低基準について、各加盟国の慣行を尊重しつつ、適正な水準の目安となる指標の設定や、水準の決定などにおける労使の参加、また労働協約や法定最低賃金による保護の状況に関するデータの収集・報告などを求めることで、水準の引き上げや適用拡大に向けた取組の促進を図っています。
本指令はまず、国内法により最低賃金を設定している加盟国に対して、労働者に十分な生活水準を保障するために、明確に定義された基準に基づく法定最低賃金の設定・改定手続の確立を義務付けます。このような加盟国は、法定最低賃金の改定を少なくとも2年に1回実施することが義務付けられます。さらに、法定最低賃金の基準に関しても、それが適切な水準であることを評価するために客観的な参照値を使用することが義務付けられます。また、本指令は、法定最低賃金の有無にかかわらず、加盟国に対し、最低賃金決定に関する労使の交渉能力を構築・強化するとともに、建設的で意義のある情報に基づいた労使間の賃金交渉を促すことを求めています。さらに、団体交渉における代表率が高い加盟国では、低賃金労働者の割合が低く最低賃金の水準も高い事実を踏まえ、代表率が80%以下の加盟国に対して、これを引き上げるための行動計画の策定が義務付けられます。この行動計画は最低でも5年ごとの定期的な見直しの実施が義務付けられ、また策定・改定の都度、これを公表するとともに欧州委員会に通知しなければなりません。加盟各国は、本指令の施行から2年以内に国内の法制度の整備を行わなければならないとされています。

■企業持続可能性デューディリジェンス指令案(Proposal for a Directive on corporate sustainability due diligence)
欧州委員会は2022年2月、特定の企業に対して企業活動における人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を課す企業持続可能性デューディリジェンス(以下、「DD」という。)指令案を発表した。同指令案の対象となる企業は、EU域内で設立された企業のうち、(a)全世界での年間純売上高が1億5,000万ユーロ超、かつ、年間平均従業員数が500人超の企業、(b)全世界での年間純売上高が4,000万ユーロ超、かつ、人権・環境の観点からハイリスクと指定された繊維、農林水産、鉱業などの分野の売上高が年間純売上高の50%以上を占め、さらに年間平均従業員数が250人超の企業となっている。また、同指令案の対象となる企業活動の範囲には、自社と子会社の企業活動に加えて、バリューチェーンにおける結び付きの強さや期間の観点から、継続的なビジネス関係を持つ取引先による企業活動が含まれる。よって、直接的な義務化の対象外でも、対象企業とビジネス関係がある場合には、対象企業から対応を求められる可能性がある。
義務の具体的内容については、対象企業は、①企業方針にDDを取り込み公表すること、②実際の、または潜在的な人権・環境への悪影響を特定し、予防行動計画や是正措置計画を策定・実施すること、③取引先に対し、②の計画の順守に関する契約上の保証を求めるとともに順守状況を監督すること、④被害者や市民団体に開かれた苦情申立制度を設置すること、⑤自社、子会社および取引先の企業活動と上記の対応策の評価を少なくとも12か月ごとに実施することなどが求められる。
対象企業の取締役に対しては、DDを実施・監督する義務を課し、DDを遂行するに当たっては人権や気候変動、環境への影響を考慮することを求める。対象企業がこれらの義務に違反した場合、加盟国が売上高に応じた罰金を科すほか、当該違反により損害を発生させたときには損害賠償責任を負うことになる。同指令案は今後、EU閣僚理事会と欧州議会で審議され、採択された場合は加盟国による2年間の国内法制化の期間を経て適用が開始される。ただし、(b)の対象企業に対しては、適用開始後さらに2年間の猶予期間を経てからの適用となる。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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