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実践編・応用編

東日本大震災からの復興 

投稿日:2025年6月30日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
東日本大震災からの復興に向けて、政府は来年度から5年間の基本方針の案をまとめました。これまで以上に、力強く施策を推進するための財源を確保し、事業規模1兆9000億円程度とすることにしています。今回は、東日本大震災からの復興についてお話します。

◆文教施設等の復旧と子供たちの学びの確保
■文教施設等の復旧
東日本大震災(最大震度7)での文部科学省関係(幼児・児童・生徒・学生・教職員など)の人的被害は死者659名、行方不明者74名、負傷者262名となっています 。また、学校施設や社会教育施設、文化財 等の物的被害は全国で1万2,000件以上発生しました。
また、東京電力福島第一原子力発電所における原子力事故により、福島県の公立学校のうち、高等学校5校が休校となっているほか、他校・他施設を使用して授業を行っている学校が1校、仮設校舎を使用している学校が4校存在 しています(令和6年3月現在)。文部科学省では、東日本大震災によって被害を受けた文教施設等が早期に復旧し、できる限り速やかに教育活動等を再開することができるよう、必要な予算の確保に努めています。災害復旧事業を活用する国立学校(25法人)、公立学校(2,326校)、私立学校(790校)については、福島県の避難指示区域に所在している学校は除き、おおむね復旧を完了しています(令和5年度末現在)。災害復旧事業を活用する社会教育施設・社会体育施設・文化施設については、避難指示区域に所在しており被害状況を確認できない施設を除いた1,276施設のうち9割強が、文化財等については 修復に当たって国庫補助を必要とする被災文化財等の92 件が、復旧を完了しています。 また、被災地における埋蔵文化財については、復興事業 の工期への影響を回避するため原子力災害被災地域を対象に福島県が実施する連絡会議で文化庁から助言を行いました。

◆就学のための経済的支援
●児童生徒等に対する支援
東日本大震災により経済的理由から就学等が困難となった児童生徒等が安心して学ぶことができる環境を確保するため、「被災児童生徒就学支援等事業交付金」により、小中学生に対する学用品費・学校給食費等の援助、特別支援学校等への就学奨励、高校生に対する奨学金貸与、私立学校及び専修学校・各種学校に対する授業料等減免に必要な費用を支援しています。

■学生等に対する支援
東日本大震災により被災した世帯の学生等に対しては、全国の多くの大学等で、授業料減免、奨学金の支給、宿舎支援等が実施されています。文部科学省では、令和5年度 においても、高等教育段階において被災した世帯の学生等 に対して経済的理由により修学等を断念することがないよう、授業料等減免措置とともに、日本学生支援機構 (JASSO)の無利子奨学金の貸与等を行っています。

■学習支援・心のケア

●スクールカウンセラーの派遣等
文部科学省では、被災した子供たちの心のケア等への対応のため、被災した地方公共団体等が学校等にスクールカウンセラーなどを派遣するために必要な経費を支援しています。令和6年度においても、被災地の要望を踏まえ、スクールカウンセラー等の派遣を支援することとしています。(出典)令和5年版 文部科学白書

●公立学校における教職員体制の整備
東日本大震災により被災した児童生徒に対するきめ細かな学習支援や心のケアを行うため、公立学校における教職員体制の整備を図る特別な教職員定数の加配措置を行っており、文部科学省では、平成23年度以降、毎年度、被災 自治体からの申請を受け、必要な加配措置を実施してきま した。 現在においても、震災により家族や住居を失ったこと等 のため、学習支援や心のケアを必要とする子供が引き続き一定数就学している学校があります。また、原子力災害による避難指示が解除となった地域において学校が再開され、教育環境の整備が進められています。このようなこと を踏まえ、「第2期復興・創生期間」(令和3年度から7年度)においても引き続き必要な支援を行うこととしており、6年度もこの加配措置を行うことで、必要な教育環境の整備を支援しています。

●学びの場を通じたコミュニティ再生
文部科学省では、いまだ学習環境が好転していない地域において、復興に向けた子供たちの学習支援等を行う「子供への学習支援によるコミュニティ復興支援事業」を実施 しています。具体的には、放課後における学習支援や居場所づくり、家庭教育支援、地域による学校支援活動など、被災地における子供たちの学習環境づくりに地域住民等に参画いただくことを通じて、希薄化・分断化されてしまった地域コミュニティの再構築や地域復興の歩みを学びの対象として自らの学びを深める「創造的復興教育」の実践につながる様々な取組を行っています。

◆復興後の社会を生き抜く力の養成

■防災教育の充実
東日本大震災においては、児童生徒等及び教職員の死 者・行方不明者が700人を超えるなど甚大な被害が発生しました。東日本大震災以降も連続した大規模な地震の発生、台風や記録的な大雨に伴う大規模水害など多くの自然 災害が発生しています。
文部科学省では、各学校が地震・津波や自然災害等から 児童生徒等を守るための「危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)」を作成・見直しする際の参考となる「学校防災マニュアル(地震・津波)作成の手引き」(平成24 年3月)、「学校の危機管理マニュアル作成の手引」(30年 2月)及び「学校の「危機管理マニュアル」等の評価・見 直しガイドライン」(令和3年6月)を作成し、各学校及び学校設置者等にマニュアルの改善を促しています。 また、各学校において地域の実情に応じた防災教育をはじめとする安全教育を行う際の参考となるよう、学校安全 資料「「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育」を改訂 (平成31年3月)し、学校防災の充実を図っています。令和4年3月25日に「第3次学校安全の推進に関する 計画」が閣議決定され、今後発生が懸念される大規模災害に備えた実践的な防災教育を全国的に進めていき、地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練を実施していくこととしています。文部科学省では、指導の参考となる「実践的な防災教育の手引き(小学校編)」(5年3月)を作成し、防災教育の質の向上を図っています。 さらに、東日本大震災の教訓を伝えるため、当時小・中学生及び高校生であった方々が、被災した経験を語る動画教材を公開しています。(出典)令和5年版 文部科学白書

●学校での放射線に関する教育
児童生徒が放射線に関する科学的な 知識を理解し、科学的に考え行動できるようにすることは重要です。従来、学習指導要領では、社会科や理科等において、放射線に関する内容を扱うこととしていましたが、令和2年度から順次実施されている学習指導要領では、例えば、中学校理科の第二学年においても放射線に関する内容を追加するなど充実しています。また、「災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくこと」を小・中・高等学校総則に規定し、放射線の科学的な理解を基に科学的に思考し、情報を正しく理解する力を育成することとしています。
文部科学省では、学校における放射線に関する教育の支援として、教職員向けの放射線に関する研修や児童生徒向 けの放射線出前授業を実施しています。また、児童生徒が 放射線に関する科学的な知識を身に付け、理解を深めるこ とができるよう、放射線副読本を作成し、全国の小・中・高等学校等に周知するとともに、文部科学省ウェブサイトにおいても掲載しています。同副読本では、関連する動画等の閲覧を可能とするQRコード等を掲載し、放射線に関す る科学的な知識や原発事故の状況、復興に向けた取組につ いて理解を深めるとともに、被災児童生徒へのいじめや差別等を解消することができるよう内容を充実させています。(出典)令和5年版 文部科学白書

◆原子力発電所事故への対応
●環境回復に向けた取組
〇環境回復に向けた取組
文部科学省では、東京電力福島第一原子力発電所の事故により汚染された環境の回復に向けた研究開発を推進しています。具体的には、日本原子力研究開発機構(JAEA)におい て、環境中の放射性セシウムの移動量の測定や将来予測などの環境動態研究を中心とした技術開発等を実施しています。 また、「福島県環境創造センター」において、福島県、JAEA、国立環境研究所が連携・協力し、環境の回復・創造に取り組むための調査研究、情報発信等を行う取組を推進しています。 今後も関係機関との連携の上、地域の方々の安全・安心につながる成果情報の発信等を含め、環境回復に向けた取組を実施することとしています。

〇東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に関する研究開発
文部科学省では、国内外の英知を結集し、安全かつ着実に廃止措置等を実施するため、JAEA廃炉環境国際共同研 究センター(福島県双葉郡富岡町)を中核とし、燃料デブリの取扱いや放射性廃棄物の処理・処分等の基礎・基盤的な研究を推進しています。

〇原子力災害を踏まえた原子力基礎基盤研究・人材育成の取組みの推進
文部科学省では、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」を実施し、国内外の多様な分野の知見を組織の垣根を越えて融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する研究開発及び人材育成の取組を推進しています。また、原子力の基盤と安全を支えるとともに、国際的な原子力安全等への貢献のためには、幅広い原子力人材を育成することが必要です。このため、文部科学省では、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」において、大学や研究機関等の複数機関が連携してコンソーシアム(ANEC:Advanced Nuclear Education Consortium for the Future Society)を形成し、一体的に人材を育成する体制の構築を支援しています。
(つづく)Y.H

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