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実践編・応用編

我が国にけるAIの進展の動向

投稿日:2025年12月18日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

AIは爆発的に進化を続けており、大規模言語モデルにおいて巨大な汎用モデルの開発が進展する一方、新たな技術も日々出現しており、技術変革の可能性が大きい分野であるとも指摘されています。また、巨大な投資が求められるAI分野は、海外のいわゆるビッグテック企業(世界規模で影響力を有する巨大デジタル企業群)や巨額な投資を受けたAI人材や技術に優れる海外スタートアップ企業等が主導している傾向が見られます。

今回は、AIの進展の動向を概説します。
1.AIの技術開発における現状と動向
◆激化する世界のAI開発競争
AIには様々な形態のものがありますが、昨今のAI技術開発や応用において大きな潮流となっている分野の一つが、文章や画像、動画等を生成する「生成AI(generative AI)」であって、その技術の一つが、深層学習技術を応用した大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)です。2020年にOpenAIによって、学習に使われるデータの規模・学習に使われる計算量・モデルのパラメータ数が増加すればするほど、LLMの性能が向上するというスケーリング則(Scaling law)が提唱されました。例えば、OpenAIが2019年に発表したモデルであるGPT-2のパラメータ数が15億だったのに対し、同社が2020年に発表したGPT-3のパラメータ数は約120倍の1,750億まで大規模化しました。その後も大規模化の波は止まらず、2022年4月にGoogleが発表したPaLMのパラメータ数は5,400億まで及んでいます。
スケーリング則に従い、ビッグテック企業を中心に、計算資源であるGPUや、データセンターへの投資が激化しています。また、ビッグテック企業やベンチャーキャピタル等から巨額の投資を受けた、OpenAIやAnthropic、Mistral AIといったスタートアップ企業等も、LLM開発において主要な担い手となり、開発競争に参加しています。

◆AI研究開発における最近の動向
AI分野は日々新たな技術やモデルが発表され、目覚ましく技術革新が進んでいる分野です。その技術革新の動きをすべて述べることはできませんが、LLM分野を中心に、最近起きている大きな技術動向を取り上げます。
■LLM研究開発の動向
(1)推論モデルの登場
OpenAIは2024年9月、難解な問題を解決する推論モデルとして「OpenAI o1」シリーズの開発を発表しました。o1は、従来の生成AIが苦手としていた、科学、コード生成、数学の分野における多くの評価指標で、OpenAIのGPT-4oモデルを上回る結果を出しました。例えばアメリカ数学オリンピック予選のテストで、o1はその約83%を解くことができました。これは全米の学生のうちトップ500人に匹敵する成績です。他にも、化学、物理学、生物学の専門知識を問う評価指標では、博士号を持つ専門家を上回る成績を残しています。また、2025年に実施された東京大学の入学試験問題を、o1モデルに解かせたところ、合格最低点を上回ったと報じられました。

(2)中国のAIスタートアップ企業の開発したオープンモデルとその市場への影響
2025年1月、中国のAIスタートアップ企業であるDeepSeekが新たなAIモデル「DeepSeek-R1」 の開発を発表しました。このモデルは、様々な技術的な工夫を講じることで、米OpenAIの推論モデル 「o1」と同等の性能を持つとされているほか、同モデルは、モデルを誰でも利用可能な形でオープンにしたこと、新興の中国スタートアップ企業が開発したこと、及び開発コストの低さで特に注目を集めました。 DeepSeek-R1が発表された直後、半導体企業やクラウドサービス等を通じてAIインフラを提供する企業の株価が下落するなど、AI関連銘柄全体に影響が及びました。低コストかつ高性能を実現したと言われるDeepSeek-R1の登場により、高性能モデルの開発には巨額投資が必要であるというこれまでの通説に疑問が呈されたことの現れが影響した可能性があります。
しかし、高度なAIの開発や運用には、多くのデータ処理が必要であり、かつ低コスト化が進んだ場合は開発者・利用者が増えることが見込まれるため、AI半導体需要はむしろ増えるという見方もあります。

■AIロボティクス
AI技術をロボット分野に応用する、AIロボティクス分野への開発・投資競争が過熱しています。背景には、AI分野における画像認識や自然言語処理の飛躍的な革新により、柔軟かつ複雑な処理が可能になったことや、少子高齢化による労働力不足が懸念される海外先進国において労働力の代替としてロボットが期待されていることが挙げられます。その一分野として、例えば、昨今、人型ロボット(ヒューマノイド)の開発が活発化しています。人型ロボットについての明確な定義はないですが、人間の形状や能力をモデルとしており、物体をつかんだり部品配置するなどの工場等での利用から、洗濯物をたたむなどの家庭での利用を想定した作業まで、幅広い作業に対応することを目指して設計されることが一般的です。人型ロボットは、人間に似た形状を持つことで人間を中心に設計された社会インフラに導入しやすいと考えられており、将来的には、人間が行う作業を補助・代替する可能性が期待されています。このような背景の下、米国・中国を中心に、商用化を目指す人型ロボットの開発競争が過熱しています。現在は製造現場や工場での試験導入や産業活用を目的として開発されていますが、長期的には家事や 娯楽等、日常生活での活用も見据えた人型ロボットを目指している企業もあります。今後、汎用性の高いロボットへの研究・開発が進んでいくことが予想されます。

◆日本のAI開発・事業展開の動向
AIに関する各種評価レポート等をみると、日本は、AIの研究開発力や活用に関して、世界的にリー ドする国と比べ、高く評価されているとは言えません。例えば、2024年11月にスタンフォード大学の HAI(Human-Centered Artificial Intelligence)が発表した2023年のAI活力ランキングによれば、日本は総合9位に位置付けられており、米国、中国、英国といった国から水をあけられています。また、AIに関する論文数などを基にAI研究力を順位付けしているAIRankingsでは、ここ数年の上位国は米国、中国、英国、ドイツの順となっており、日本は11~12位で推移しています。 しかし、日本の企業・組織においても、AI開発に向けて様々な動きを見せています。

■LLMの研究開発動向
海外のビッグテック企業やAIスタートアップ企業等がグローバルレベルのLLM開発をリードする中、日本の組織においても、LLMの開発が進められています。世界の最先端モデルと比較すると、日本のモ デルは比較的小規模なモデルが多い傾向があると考えられます。また、近年では、比較的小規模でありながら高性能なモデルの開発も進んでいます。
こうした日本発のLLM開発を、国の施策も後押ししています。 例えば、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により立ち上げられた「GENIAC」プロジェクトでは、基盤モデルの開発に必要な計算資源の提供支援等が行われており、第1期(計算資源の提供支援の開発期間:2024年2~8月)では、計10件の開発テーマで基盤モデルの開発に取り組みました。2024年10月より第2期が始まっており、計20件の開発テーマで 基盤モデルの開発が行われています。
また、総務省は、AI開発力強化のため、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)において、 LLM開発に必要となる大量・高品質な日本語を中心とする学習用データを整備・拡充し、日本のLLM 開発者に提供する取組を行っています。
さらに、文部科学省では、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII) において、生成AIの透明性・信頼性の確保に資する研究開発を実施するとともに、同研究所を中心と した産学のAI研究者・エンジニア等が結集した勉強会(LLM-jp)を通じて、そこで得られた知見や経験を共有し、国内の生成AIに関する研究力・開発力醸成に貢献する取組を行っています。
(1)一般社団法人AIロボット協会によるロボット基盤モデルの開発
2024年12月、AIとロボットの融合によるロボットデータエコシステム構築を目指し、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)が設立されました。AI技術の進化に伴い、ロボット分野においても大規模なデータの統合と効率的な学習が可能な基盤モデルの必要性が高まっている中、現在の市場においては大規模データを共有・活用できる枠組が十分に整備されておらず、各企業や研究機関が個別にデータを扱うことで開発効率が上がりにくい状況が続いているとの指摘があります。AIRoAでは、産業の垣根を超えたオープンかつ大規模なデータ収集と基盤モデルの開発・公開を推進し、高度な汎用ロボットの実現に向け、スケール可能なロボットデータエコシステム構築を目指しています。

(2)案内ロボット「ugo」とNTTが開発する生成AI等を用いた社会実験
自律走行で移動可能な業務ロボットを提供するugo社の案内ロボットと、NTTが開発するLLM 「tsuzumi」など複数の生成AIを用いた社会実験として、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)、NTT 西日本グループ、NTTコミュニケーションズ、ugo社は、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を訪れる国内外からの観光客の増加を予想し、多言語による質問へ迅速に対応する能力の強化を模索するため、案内ロボット「ugo」とNTTが開発するLLM「tsuzumi」など複数の生成AIを用いた社会実験を、2025年1月から実施しました。

2.AI利用の現状
◆個人におけるAI利用の現状
個人におけるAIの利用状況を把握するため、一般向けにアンケートによる調査を実施しました。 日本において、何らかの生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」と回答した割合は、2024年度調査では26.7%でした。2023年度に実施した調査(以下「2023年度調査」という。) において、「生成AIを使っている(過去使ったことがある)」と回答した割合は9.1%であったことを踏まえると、利用経験は拡大してきています。また、年代別でみると、20代において、 2024年度調査では44.7%が利用したことがあると回答しています。 なお、米国、ドイツ、中国でも調査を実施したところ、これら3か国でもそれぞれ利用は拡大しています。(生成AI利用経験がある割合(全体)は、米国が2023年度調査の46.3%から2024年度調査の 68.8%に、ドイツが34.6%から59.2%に、中国が56.3%から81.2%に上昇)。
日本において、テキスト生成AIサービスを「使っていない(過去使ったことがない)」と回答した人を対象に、利用しない理由について質問したところ、「自分の生活や業務に必要ない」との回答に次いで「使い方がわからない」が高い回答率であり、まだ利用のハードルが高いことがうかがわれます。また、「魅力的なサービスがない」と回答した者も多くありました。 また、AI(生成AIを含む。)の利用意向について尋ねたところ、調べものやコンテンツの要約・翻訳における利用意向が相対的に高く、2023年度調査と同様の傾向が見られました。
AI利用リスクに対する意識を調査したところ、「非常にリスクだと感じる」との回答が相対的に多かったのは、悪意のある者による犯罪利用、精巧なフェイクにだまされること、質問に対するAIの回答が事実でない可能性があること等でありました。

◆企業におけるAI利用の現状
日本、米国、ドイツ、中国の4か国を対象に企業におけるAI利活用の現状について整理しました。
自分が所属する企業における生成AIの活用方針について尋ねたところ、日本では、「積極的に活用する方針」「活用する領域を限定して利用する方針」を定めている企業の比率は、2024年度調査では 49.7%となり、2023年度調査(42.7%)と比較して増加しています。一方、今回調査した他の国と比較すると、引き続き日本は他の国より低い傾向にあります。
また、日本国内の状況について企業規模別にみると、中小企業では特に「方針を明確に定めていない」との回答が多く、約半数を占めています。日本の中小企業では大企業と比較して生成AIの活用方針の決定が立ち遅れている状況が見て取れます。
さらに、生成AIの活用が想定される業務に関して活用状況を尋ねたところ、何らかの業務で生成AI を利用していると回答した割合は、55.2%でした。個別業務に関しては、例えば、「メールや議事録、資料作成等の補助」に生成AIを使用 していると回答した割合は、47.3%でした。いずれも他国と比較すると低い割合にとどまっていました。
生成AI導入に際しての懸念事項について尋ねたところ、「効果的な活用方法がわからない」が最も多く、次いで、「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコストがかかる」 「初期コストがかかる」ことが挙げられています。 生成AIの活用推進による自社への影響に対する考え方については、「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられています。
(出典)  総務省|令和7年版 情報通信白書|PDF版

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